相続財産というと、持ち家などの不動産や、現金・有価証券などの金融資産を想像するが、身近にある「クルマ」も相続財産に該当する。 今、話題の終活。クルマも例外ではない。ぜひとも、終活の仲間に入れてあげてほしい。
文:佐々木 亘╱写真:AdobeStock(トップ画像=tamayura39@AdobeStock)
■売って分けるか誰かが引き継ぐか! 登録車も軽自動車も遺産として話し合うこと
遺産は、現金や預貯金、株式などの有価証券、クルマや貴金属、不動産(土地・建物)といったプラスの財産と、借金、未払金といったマイナスの財産に分けられる。プラスもマイナスも全部含めて、法定相続人が決められた割合で引き継ぐのが相続だ。(公正証書遺言などがある場合は、遺言に従って相続する)
後に説明するが、登録車(白・緑ナンバーのクルマ)と届出車(軽自動車等)では、相続手続きが大きく違う。登録車は不動産に属性が近く、細かな相続手続きが必要だ。対して届出車(軽自動車等)の相続手続きは簡素である。
しかし、どちらも相続財産であることには違いない。軽自動車は相続人一人だけで手続きができるからと、他の相続人に秘密にしたまま勝手に引き継ぐと、損害賠償請求や不当利得返還請求を受ける可能性がある。手続きには十分留意してほしい。
■登録車と届出車で大きく違う手続き
オーナーが亡くなったら、まず自動車検査証(車検証)を手に取り、「所有者」の欄を見て欲しい。ここに故人の名前があれば、相続手続きを行う必要が出てくる。よくあるのが、故人がメインで使っていたが、実は配偶者の名義だったなどということ。ここはよく確認してほしい。
クルマは分割して相続することは出来ないので、相続人のうち、誰か一人が相続することを決めなければならない。誰が相続するかが決まったら、登録車の場合、遺産分割協議書(相続自動車の査定額が100万円以下の場合は、遺産分割協議成立申立書でも可)を作り、相続人に名義変更する。
このとき、必要となる書類は次の通りだ。
・自動車検査証(車検証)原本
・戸籍(除籍)謄本(戸籍の全部事項証明書):所有者の死亡事実が確認でき、さらに相続人全員が確認できるもの
・遺産分割協議書:相続人全員(新所有者を含む)が実印を押印したもの
・新所有者となる相続人の印鑑証明書:発行から3か月以内のもの
・新所有者の実印(本人が手続きをしない場合は実印を押した委任状)
・新所有者が取得した車庫証明:発行から1か月以内のもの
遺産分割協議書を作らない場合には、相続人全員の印鑑証明書と委任状(実印押印)、譲渡証明書(実印押印)でも手続きは出来る。しかし、これらをすべて揃えるのは非常に難しいため、一般的には遺産分割協議書で手続きを進めることが多い。
なお、届出車(軽自動車等)の場合は、亡くなった人の戸籍謄本、死亡の事実を確認できる戸籍(除籍)謄本を揃えれば、新所有者の委任状(実印)と車庫証明、車検証の原本で、名義変更を行うことができる。
■所有権留保だと手続きは楽ちんかも
所有権留保とは、ディーラーローンなどでクルマを購入したときに、車検証の所有者欄が「○○トヨタ自動車株式会社」などとなっている状態を指す。自動車ローンの支払期間中に、勝手にクルマを手放されないようにするため、ディーラーが一時的にクルマの所有者となるのだ。
ローンを完済すれば、所有権留保の解除(所有者をユーザーにする)を行うことができるが、手続きを行わず完済後も所有権留保のままにしている人もいる。
クルマのナンバー変更や名義変更を行う場合は、必ず車検証上の所有者が承諾しなければならない。つまり、このクルマのオーナーが亡くなり、相続手続き(名義変更)を行う際には、ディーラーの承諾が必要となるのだ。
ただし、遺産分割協議書を作成した名義変更よりも、所有権留保状態からの名義変更の方が、手続きが楽にできることも。この時、ディーラーは、車両の名義変更が遺産相続に問題なく、以降の相続手続きに関してディーラーへは迷惑をかけないことを約束する念書をとることが多い。
念書がとれれば、残債が無いこと確認して、ディーラーは名義変更に必要な書類を発行してくれる。これと新しい名義人の登録書類があれば、名義変更は完了だ。面倒な相続手続きを避けるという目的で、所有権留保の解除をせずにクルマを保有しておくことは、1つのワザである。
クルマの相続は、意外と複雑だ。引受人を決める段階で結構揉めることも。筆者としては、大切にしてきた愛車だからこそ、次に乗ってほしい人を決めておき、遺言として残すことをおススメする。このご時世、クルマの終活も、しっかりと準備しておかねば!
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