日野自動車は、次世代の電動トラックおよびバスに搭載を予定している「標準電池パック」のイメージモデルを、5月19~22日に横浜で開催された「人とくるまのテクノロジー展」で公開した。2028年頃までに開発を完了し、次世代電動車プラットフォームに採用する予定だ。その狙いとは?

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/フルロード編集部、日野自動車

現在の電動車は搭載バッテリーがすべて違う

日野の現行大型HVトラック「プロフィアハイブリッド」のリアオーバーハングに搭載された高電圧バッテリー。日野の他のHEV、BEV、FCEVとは異なる専用の東芝製リチウムイオン電池(SCiB)を採用している

 日野は、昨年10月に公表した「カーボンニュートラルに向けた日野の取り組みについて」で、レンジエクステンダーBEV(航続距離延伸型BEV、RE-BEV)プラットフォーム構想を2028~30年頃に実用化することを明らかにしたが、同プラットフォーム構想では、搭載する高電圧バッテリーの標準化=標準電池パックの導入も目指している。

 現在日野では、小型トラック、大型トラック、大型バスの各ハイブリッド車(HV)と小型BEVトラックを製品化しているが、いずれも異なる高電圧バッテリーを搭載しており、これらは互換性がない。現在、実証運行テストが行なわれている大型FCEVトラックも同様だ。

 標準電池パックでは、車格・用途で異なっている高電圧バッテリーの外形サイズ、強度要件、シャシー側とのインターフェースを統一し、必要な容量はパック搭載数で充足させるコンセプトへと改める。これはあまりピンと来ないかもしれないが、クルマをバッテリーで走らせる時代を考えた場合、かなり画期的なことである。

小型~大型のトラック・バスすべてに搭載しやすく設計

人とくるまのテクノロジー展2024YOKOHAMAで展示された標準電池パックのイメージモデル。シルバーが高電圧バッテリーパックと別体化したバッテリー制御ユニット(小箱)で、小型トラックのフレームに吊下マウントしたイメージである

 1基の標準電池パックは、パック外寸を「長さ1500mm×幅700mm×高さ300mm」とする。日野自動車プロダクト推進部で電動車開発を担当する伊藤彰浩プロダクトオーナー(PO)は、「様々な用途、様々な車種において、1日の運行で上モノやキャビンが必要とするエネルギー、また1日の走行で必要なエネルギーから最適な標準電池パックの容量を決め、サイズと形状は、小型から大型のトラック・バスのシャシーに搭載できるものにしました」と説明する。

 標準電池パックは、シャシー前後方向に対して、縦置き・横置きのいずれも可能で、トラックのセパレートフレームの外側・内側、バスのトラスフレームの内側など、様々な位置に搭載することが考慮されている。バッテリー制御ユニット(BMS)を別体とした点も特徴で、パック外形を凸凹のないシンプルな直方体にまとめることにより、搭載性の自由度が高められるという。なお、安定したバッテリー性能を維持するための水冷システムもパックに装備する。

 現時点で、バッテリー本体となるバッテリーセルは、どのような電池を採用するかは不明であるものの、電圧350ボルト・容量70kWhというスペックを予定している。将来の技術進化で、バッテリー本体の容量が拡大すれば、同じ車格・用途かつ同じ航続距離が求められるクルマでも、搭載するバッテリー個数を減らす(トラックなら積載量を増やせる)ことができ、逆に同じ搭載数なら航続距離が倍増することも可能となる。

 つまり、将来の電動トラック・バスのマイナーチェンジでは、同じパッケージングを維持しながら(=シャシー価格の大幅アップを抑えながら)、標準電池パックのアップデートによって、相当な性能向上が期待できるというわけだ。

電動トラック・バスの走りと上モノ・キャビンのそれぞれ電力消費から、標準電池パックが必要とする容量と搭載個数が決定された(日野資料)

パックのコンセプトは乾電池

標準電池パックの搭載数イメージと搭載レイアウト。小型トラックは1基または2基、中型トラックは4基、大型トラックは6基、大型観光バスは4基を想定(日野資料)

 伊藤POは「このパックのサイズ、強度要件、インターフェースの考え方は、乾電池と同じです」とコンセプトを説明する。例えば、1.5ボルト単三形乾電池は、電圧とインターフェースはそのままに中身を進化させながら、何十年も前から幅広く使われてきた。

 標準電池パックは、自動車用としては使用済みになっても、定置式蓄電施設などで2次利用することが考えられているが、クラスや用途が違う様々なトラック・バスに搭載された(将来的には大量の)高電圧バッテリーを、インターフェースが1種類の施設で再利用できることになる。容易なリユース性・リデュース性は、蓄電施設以外での2次利用需要も生むかもしれない。

小型トラック用シャシーフレームに吊り下げて展示

標準電池パックのイメージモデル

 人テク展に展示されたイメージモデルは、小型トラックのフレームシャシー(カットモデル)に吊下マウントするかたちで横置きしたもの。

 小型トラックでこのスタイルだと、必然的にeアクスル(モーター一体型アクスル)の装着が前提となるが、パック1基ならシャシー左右側面のパック占有部分は過大にならず、架装や艤装品のスペースを確保できるようにみえる。パック1基でも容量70kWhなので、比較的長い航続距離も得られるだろう。

 ただ、高さ300mmの標準電池パックは、最新の小型BEVトラック「デュトロZ EV」には搭載できないサイズでもある。そのため、超低床BEV専用の薄型電池パックを並行して展開していくという。

 また、通常の積載量2t小型トラックでも、床面地上高を低く設定しにくいことから、配送車のシャシーとして用いられる全低床車型や超低床車型については、新開発シャシーを展開する可能性もあるようだ。

 なお、RE-BEVプラットフォーム構想では、ディーゼル、水素、カーボンニュートラル燃料などを燃焼する発電専用エンジンをBEVと組み合わせたシリーズ式プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV、燃料電池により水素から電気を取り出すEV)、純BEVを展開する計画で、いずれも走行には電気モーターのみを用いる形態とする。FCEVはやや異なるものの、電池の出力密度、エネルギー密度に対する要件は近いとみられる。

電池パック規格化でのイニシアティブも期待

本文では触れなかったが、日野では電動車シャシーと高電圧バッテリーの所有権を分けて販売することを検討している。キャブとモーターをもつシャシーは、ディーゼル車なみの価格で購入でき、ユーザーが所有。バッテリーはメーカー所有とし、ユーザーは電池使用料と使った電気代その他雑費のみ支払う

 現在、電動車用の高電圧バッテリーは、自動車メーカー各社とも本体のバッテリーセルを電池メーカーと共同開発もしくは量産セルを調達し、搭載モデルに最適化した電池パックを個別に設計することがほとんど。日本、欧州、米国のいずれの自動車業界でも、規格統一は行なわれていないのが現状である。

 そのため、今回の日野の標準電池パックは、あくまで同社でのみのスタンダード化であって、電動車の普及促進および大幅な低コスト化(生産ボリュームの拡大)、さらにリユース・リデュースの一般化や、他メーカーと互換性のある交換式バッテリーへの展開といったスケールまで考えるならば、少なくとも国産商用車メーカーが単独で進めるのは限界があるだろう。

 近い将来、トヨタ、ダイムラートラックが出資する持ち株会社の傘下となり、三菱ふそうとの経営統合を予定している同社だが、その枠組みに中で、標準電池パックがどのような存在となっていくのかは現段階ではわからない。
 
 しかし、電池の性能を左右するバッテリーセルは(電池メーカーの)競争分野になるだろうが、電池パックとインターフェースの協調および規格化は、いずれ高電圧バッテリーのコスト低減で有利に働くことは確かで、燃料電池など次世代電動商用車技術で協業をめざしているトヨタとダイムラーにとっても悪い話ではないはず。もしも日野の標準電池パックが、世界の電動商用車用バッテリー規格化の先駆けとして採用されることがあれば、それは商用車の歴史の大きな転換点にさえなりうるだろう。

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