昨年2023年に開催されたジャパンモビリティショー2023において、日産が発表したEVコンセプトカーの「ニッサン ハイパーフォース」。次期GT-Rだとはひとことも触れられていないものの、丸目4灯のテールライトやフロントに据えられているロゴ、そしてサイドウィンドウのかたちから、だれがどう見ても、R35 型GT-Rをオマージュしていた。

 次期GT-Rについては、2028年に登場とウワサされているが、本当にハイパーフォースが次期GT-Rであるならば、次期GT-Rは全個体電池を搭載したバッテリーEVとなって登場する、いうことになる。全個体電池については、実用化までにはまだ時間が必要とされているが、2028年まであと4年、はたしてハイパーフォースは本当に次期GT-Rなのか!?? 冷静に考えてみよう。

文:吉川賢一/写真:NISSAN、Porsche

あと4年弱のうちに全固体電池搭載のバッテリーEVを市販するとする日産

 「究極のドライビングプレジャーを追求しながら、高い環境性能と日常での快適性を兼ね備えた次世代の高性能EVスーパーカー」とされている「ニッサン ハイパーフォース」。カーボン素材による軽量車体や、全固体電池の採用による最適な重量バランス、1000 kW(1360ps)の最高出力を生み出す高出力モーターを搭載したモンスター級のスーパーカーだが、その実現は、全個体電池の実用化にかかっている。

 ただ日産は、長期ビジョンにおいて、あと4年弱のうちに自社開発の全固体電池を搭載したバッテリーEVの市販車を登場させるとしている。遠い未来の話にも思えていた全個体電池だが、着々と開発は進んでいるようだ。その進捗を裏付けるように、2024年4月には全固体電池の積層ラミネートセルを試作生産する研究開発を公開、また同社の横浜工場に全個体電池量産化に向けたパイロットラインを2024年度に敷設するとも発表している。

ジャパンモビリティショー2023において、EVコンセプトカーの「ニッサン ハイパーフォース」を発表する日産自動車の内田社長
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タイカンターボGTと同等以上を目指すと、バッテリー容量は100kWh必要

 気になるのは価格だ。いくらGT-Rとはいえ、高額になりすぎていいわけではない。その価格を大きく左右する、次期GT-Rに必要なバッテリーのスペックについて考えてみよう。

 バッテリーEVとなった次期GT-Rのライバルとして挙げられるは、ポルシェのBEV「タイカン」の最強グレード「ターボGT」だろう。通常時は最大出力789 PSだが、ローンチコントロール時オーバーブーストでは、最高出力が760kW(1034PS)、最大トルクは1300Nmにもなる。また、93.4kWhのバッテリー容量による航続距離は最大555km(WLTP)、車両重量は2,365 kg、0~100 km/h加速(ローンチコントロール時)は2.3 秒、最高速度は305 km/hを誇る。パフォーマンスバッテリープラスを選択すると総容量は93.4kWhから105kWhに増加し、航続距離も678km(WLTP)となる。価格は税込3,132万円だ。

 次期GT-Rとしては、このタイカンターボGT超えとなる航続距離550km超えはマストだろう。また、動力パフォーマンスも同等以上を達成するならば、最低でもバッテリー容量100kWhは必要となる。従来のバッテリーだと、バッテリー価格だけでもプラス700万円、重量はプラス750kgにもなる(リーフの事例から算出。40kWhと60kWhの差20kWh分は、車重差で150kg、価格差で140万円なので、その5倍となる100kWh分は750kg、価格は700万円)。

次期GT-Rの架装ライバルとしては、ポルシェタイカンの最強グレード「ターボGT」が相応しい。ローンチコントロール時オーバーブーストでは、最高出力が760kW(1034PS)、最大トルクは1300Nmにもなるハイパーカーだ
日産が誇るR35型GT-R。2024モデルの車両価格は1444~2289万円、GT-R NISMOは3008~3061万円

価格は現行とほぼ同等、重量もタイカンよりも200kg軽くできる!??

 ただ日産は、全固体電池の価格について、2022年4月の時点(当時は1ドル=123円)では、2028年度には1kWhあたり75ドル、さらにその後、BEVがガソリン車と同等のコストレベルとなる65ドルまで低減は可能だとしていた。前述した、次期GT-Rに必要(だと筆者が考える)なバッテリー容量100kWhだと7,500ドル≒92万円、将来的には80万円ほどになる、ということになる。

 昨今の円安で状況は大きく変わってしまったであろうが、それでも100kWhは117万円の換算(1ドル=156円で計算)となるので、既存のBEV用バッテリーよりもはるかに安くできることになる。

 また、車重の課題も幾分解消される。クルマは重たくなると、コーナリングや加速減速の鈍化といった跳ね返りが生じてしまう。いくらe-4ORCEが万能とはいえ、車両運動方程式の根本である質量増加のネガティブを隠すことは難しいが、全個体電池であれば、エネルギー密度が従来の車載電池の約2倍≒質量半分が期待でき、100kWh載せても車重はプラス375kgで済む。R35 GT-Rは車重1750kg程度なので、次期GT-Rの推定総重量は2100kg程度、価格は既存のGT-Rの1440万円にプラス117万円の1557万円ほどとなり、タイカンターボGTよりも250kgも軽量、かつタイカンターボGTの約半額となる1557万円で完成する見積もりとなるのだ。筆者の概算ではあるが、おおよそこんなものではないだろうか。

ハイパーフォースには、NISMOレーシングチームと共同開発したという、フロントカナードやフロントフェンダーフリップ、可動式のリアウイングなど、強力なダウンフォースを得るためのアクティブエアロを備えている
E-4ORCEの頭文字が大文字「E」になっていることに意味がある!??

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 2028年生産開始となると、そろそろ新型車のコンセプトを固めるタイミング。はたして、次期GT-Rはどういった姿で登場するのか、また、筆者の見積もりはどこまで的中しているのか!?? 2028年とされる登場が非常に楽しみだ。

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