バスが運転士不足で運行できないことから修学旅行に影響が出ている。宿泊料金もうなぎのぼりになっていることから、在来線で波動輸送もできたはずだが、今となってはそれも難しい。昔の修学旅行はバスと鉄道を組み合わせて旅程も楽しんでいたが。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
(写真はすべてイメージで本文とは関係ありません)
■小学校は全行程バスが多かった
地域にもよるが、例えば小学校の修学旅行だとそれほど遠くは行かなかったので、全行程が貸切バスで移動というケースが多かった。学校に貸切バスが横付けし、ベビーブーム世代ではクラスが多いためにバスが10台ちかくも列をなしていたなんて嘘みたいな話もあるほど。
1泊2日を同じバスで同じ運転士で同じバスガイドと旅行を共にするのだから、楽しくないわけがない。ちなみにバスは一緒に宿泊することもあるが、回送で営業所に戻った方が経費が掛からない場合がある。
回送する場合は修学旅行生を宿で降ろして、バスはガイドもろともどこかへ走り去っていき、よく朝にはちゃんと迎えに来ているのだから子供心に不思議に感じたものだ。
■中高生は鉄道との組み合わせが主流
中学校や高校になると修学旅行の距離はぐんと伸び、新幹線が使える地域では何校かを集約して団体専用列車を仕立てたり、数両を貸切で移動したりと様々だ。在来線を使用する地域では、座席の客車や寝台客車の団体専用列車を仕立てて目的地まで移動することもあった。
国鉄は臨時列車や波動輸送用に多くの客車を保有していたので、けん引定数の許す限り長大編成の修学旅行列車を出したものだ。学校から駅までは地元のバス事業者の貸切バスで送迎のみ、目的地では現地バス事業者の貸切バスという形での移動が多かった。
中学生にもなると男子はバスガイドさんに一目ぼれしてラブレターなどという淡い恋心を持った方も多いはずだ。ちなみに令和の現代でも現役バスガイドさんが修学旅行生からいきなりプロポーズをされることがあるそうなので、そのあたりは今も昔も変わらない。
■費用が掛かりすぎる寝台列車
日本の景気がデフレで傾いている間に、宿泊料金の相場がどんどん下がっていき、せっかく寝ている間に移動できる寝台列車の料金が相対的にホテルよりも高くなってしまった。寝台列車を走らせるには多くの経費が掛かる。
車両や運転士や車掌だけではなく、深夜の停車駅では駅員を配置しなければならないし、始終着駅付近の車庫では折り返し時刻までに清掃と寝台のセット(リネンの取り替え)をしなければならない人件費が掛かる。現行の寝台料金では割に合わないというのがJRの本音だろう。
■客車を全廃して電車に
デフレで宿泊した方が安いのと、夜行バスブームで格安の都市間夜行バスが運行され始めると、いよいよ寝台列車の立場がなくなり、加速がトロい客車は都市部の電車区間では邪魔な存在になった。
JR各社は客車列車を全廃し、スピードが速くエネルギー効率が良い電車への置き換えを推進したが、国鉄時代から使用されてきた583系電車の後継車両は製造されなかった。
JR西日本とJR東海が共同で作った285系電車だけが、現在のところ寝台特急として唯一残っている「サンライズ出雲・瀬戸」だ。これも後継車両や増備車両がないために、列車そのものの廃止が視野に入っている可能性はある。
この過程で座席客車も寝台客車もクルーズトレインを除いて全廃してしまったので、波動輸送には固定編成の電車を気持ちだけ走らせる対応しかせず、ましてや長距離の夜行で行く修学旅行は不可能な状態になっていた。
■円安とオーバーツーリズム
そこに運転士不足と2024年問題という供給側の大問題に加え、円安で外国人が際限なくやってくるオーバーツーリズムで、宿泊料金は高騰、東京で1万円以下で泊まることが難しいとさえ言われる昨今だ。
これだけ宿泊料金が高いのであれば、寝台列車は利用価値があり、夜行バスも満席にすることはできよう。しかし、いかんせん供給側が何もできないので、寝台列車はおろか収益性の高い高速バスも減便しなければならない困ったことになっているのが現状だ。
沿線住民の通勤・通学の足や生活・通院の足、修学旅行生の思い出の足等の守らねばならない足は多い。乱暴な言いかただが、金が取れる外国人ツーリストの団体であろうと運転士がいないために断らなければならないという、八方ふさがりだけは解消しなければバス事業がなくなってしまう。
ライドシェアを引き合いに出すわけではないが、正社員が入社しないのであれば、需要が多い時に臨時でも副業でもバイトでも非正規運転士を手厚く迎えることができる制度と企業努力をしなければ手詰まりになるのを待つだけになってしまう。
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