「ツインターボ」や「ツインカム」など、「ツイン」がつく名称になんとなく凄みを感じている人もいるはず。ということで今回は、ツインを冠するクルマ関連用語とその内容をチェックしていこう。

文:長谷川 敦/写真:スズキ、トヨタ、日産、ボルボ、マツダ、AdobeStock、Newspress UK

■そもそも「ツイン」ってなんのこと?

キャデラックのツインターボエンジン。「ツイン」には「ふたつ」という意味があり、このエンジンには2基のターボチャージャーが装備されていることになる

「ツイン」は英語で、本来のつづりは「Twin」だ。そしてこのTwinには「ふたつの」「対になった」などの意味があり、「Twins」ならば「双子」になる。

 つまりツインターボならターボが2基、ツインカムはカムがふたつ、もしくは2連になっているということ。

 本来ひとつでも機能はするのだが、さらにもうひとつ追加することによってパワーや効率がアップする装備があり、それが「ツイン○○」の誕生につながる。

 そして冒頭に書いたとおり、ツインがつくだけで“強い語感”になることも多い。だから、クルマ用語に「ツイン」を冠するものが存在する、あるいはしたのだ。

 次の項からは、実際にどんな「ツイン○○」があるのかを紹介する。

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■効率アップに貢献するツイン化

■ツインターボ

 内燃エンジンの燃焼室に送り込む空気量を増やしてパワーアップを図る装置がターボチャージャーであり、かつてターボ化はハイパワーエンジンの象徴でもあった。

 そんなターボチャージャーが2基装備されていたら? それはもう驚くほどのパワーアップが実現しそうな雰囲気になる。実際にツインターボエンジンを搭載したクルマはあり、それをウリにしていたケースも多い。

 とはいえ、ターボをふたつ装着したからパワーもアップするのかというと、話はそう単純ではない。

 ターボチャージドエンジンの最高出力は、ターボの数ではなく過給圧で決まる。過給圧を高くすれば、それだけ多くの空気を燃焼室に送り込めることになり、最終的に高出力が得られる。

 では、どうしてシングルではなくツインターボにするのかというと、主な理由は効率と応答性(レスポンス)の向上だ。

 ターボチャージャーの容量を大きくすれば、空気量も増えて出力が向上する。だが、そのぶんターボチャージャーを構成するパーツの重量が増え、これが効率や応答性の低下を招いてしまう。

 排気ガスのエネルギーを利用するターボチャージャーでは、ターボラグ(応答遅れ)を抑制するのが重要なカギになり、ツインターボ化によって個々のターボを軽くすれば応答性アップに貢献する。

 また、V型エンジンの場合は相対する気筒各々にターボを装着できるというメリットもあった。

■ツインカム

 内燃エンジンにおいて、吸気バルブと排気バルブを駆動するのがカムシャフト。そして吸・排気バルブを1本のカムシャフトで駆動するのがシングルカム、吸気・排気バルブそれぞれにカムシャフトが配されるのがツインカムだ。

 ツインカムの場合、カムシャフトに接続されるバルブを動かすためのロッカーアームをシングルカムに比べて軽くすることができ、これがエンジンのスムーズな吹け上がりに大きく貢献する。

 つまり、ツインカムエンジンはシングルカムに比べて高回転まで一気に回り、呼出力が得やすいという特徴がある。

 実は現在の内燃エンジンでスタンダードな仕様となっている「DOHC」は、ツインカムとほぼ同じ意味といってよい。

 DOHCは「デュアル・オーバーヘッド・カムシャフト」の略であり、要するにツイン(デュアル)カムのことだ。

 機構の複雑からくるコスト増加などの理由によってかつては高性能モデルのみに装備されていたツインカムだが、効率の高さからエコ面でも有利になり、今ではすっかりメジャーな装備になった。

■こんなものまで「ツイン」なの!?

自動車用エンジンのキャブレター。現在では電子式燃料噴射装置(インジェクション)がキャブレターにとって代わっているが、かつては必須の装備だった(phantom1311@Adobe Stock)

■ツインキャブ

 燃料(ガソリン)と空気を混合してエンジンに送り込む装置がキャブレター。かつて機械式のキャブレターは内燃エンジンに必須の装置だったが、今世紀に入るとキャブレターはほぼ電子式燃料噴射装置(日本では一般的にインジェクションと呼ぶ)にとって代わられた。

 しかし、キャブレター全盛の時代にはこれを複数個装着することによってエンジンを高出力化するという手法もあった。これがいわゆるツインキャブだ。

 キャブレターのツイン化によってエンジンにより多くの混合気を送り込めることになり、パワーアップにつながる。なかにはツインだけでは足りずにトリプルキャブを装備したモデルもあった。

■ツインエンジン

 この響きだけでは、クルマのエンジンルーム内にふたつのエンジンが搭載されるイメージを抱いてしまう。

 だが、当然ながらそんなことはなく、この場合のツインエンジンとは、日本ではハイブリッドカーと呼ばれるモデルを指している。

 自社のハイブリッドカーをツインエンジンと呼称しているのはスウェーデンのボルボで、同社製プラグインハイブリッドシステムのT6とT8がそれにあたる。

 つまり、内燃エンジンと電動モーターのふたつでツインエンジンということだ。日本国内では、エンジンといえばほぼ内燃機関を意味している。

 しかし、英語本来の「Engine」は「発動機」のことであり、エネルギー源がガソリンであっても電気であってもかまわない。だからボルボはツインエンジンの呼称を使っていて、これに間違いはないのだが、やはり日本人にはピンとこない?

■スズキツイン

スズキツイン

 最後に紹介するのは名称が「ツイン」だったクルマ。スズキツインは2003年に発売された超コンパクトな軽自動車だ。シティコミューターとして開発され、乗車定員は2名のショートホイールベースが外観の特徴にもなっている。

 通常のガソリンエンジン仕様に加えて軽自動車では初のハイブリッドモデルもラインナップし、ハイブリッドで34.0km/Lという燃費のよさもアピールポイントのひとつだった。

 その大胆すぎるルックスはインパクトが強かったが、残念ながらツインのコンセプトと内容が市場に受け入れられることはなく、発売からわずか3年後の2005年に製造販売が終了している。

 ちなみに車名のツインは「2人乗り」と「ツインエンジン(ハイブリッド)」に由来するものだった。

■なぜツインは下火になったのか?

 今日のクルマ関連で「ツイン~」の名称を持つ装備や車種はほとんどなく、かつてのツイン全盛期を知る者にとってはさみしい感じすらある。

 ハイパワーの代名詞だったツインターボは、ターボがパワーアップではなくエネルギー効率アップ重視の装備になってから話題になることがなくなり、DOHCがメジャーになった現在では、わざわざツインカムを謳う必要はない。

 そしてツインキャブに至ってはいわずもがなである。かろうじてツインエンジンは残っているが、現在の「ツイン」に以前のような華やかな雰囲気は感じられない。

 パワーの象徴ともいえた「ツイン」の衰退こそが、クルマ社会の大きな変化を象徴しているのかもしれない。

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