日本車にも個性的で楽しいターボがあったな、としみじみ語るのは、本誌でお馴染みの自動車評論家 鈴木直也、片岡英明両氏。身を震わせたターボ、記憶に残るターボ、歴史に名を刻んだターボ……。国産車限定でふたりが選ぶ史上最強ターボ。さて、どれだ??(本稿は「ベストカー」2013年4月26日号に掲載した記事の再録版となります)

TEXT:鈴木直也、片岡英明

■日本車初のターボが印象的(鈴木直也)

日産 430セドリック…5代目セドリックのマイチェンに合わせて1979年に登場した国産市販車初のターボ

 画期的な過給エンジンを選ぶにあたって、日本最初のターボ市販車であるセドリック(430系)を外すわけにはいかない(1位)。

 1979年秋、コイツに試乗した時の驚きは忘れられない。

 この時代、ターボといえばBMW2002ターボやポルシェ930ターボなどアコガレの存在。それが国産車に登場したのがまずスゴイこと。

 しかも、走らせればやっぱりターボならではのパワーが炸裂。

 それまで、L20型といえば排ガス規制でトルクがすかすかの駄目エンジンだったのに、ターボ化によって、「何じゃコリゃー?」というくらい元気を回復。

 大柄なセドリックが鬼のように加速するのにはビックリした。

 後にわかったことなんだけれど、最初のセドリック用L20ETはタービンのA/Rがかなり高速型で、どうもブースト圧も公表値以上に高かったらしい。

 そのためか、この後ぞくぞく登場する日産ターボエンジンは、どれに乗っても物足りない印象。1983年にFJ20DETが登場するまで、このセドリックを上回る強烈さを感じられないモデルばかりだった。

 日産の高性能ターボエンジンの系譜はFJ→RB26→VR38と受け継がれてゆくわけだが、最初のセドリック用L20ETこそその原点だと思う。

■3ローターターボの強烈なトルクに過給器の神髄があった

 初期の国産スポーツターボエンジンのなかで、今思い返すと最も完成度が高かったのは3位のスタリオンGSR-V用のシリウスダッシュ3×2だ。

三菱 スタリオン…可変バルブにインタークーラーを備えた当時としては画期的なシリウスダッシュ3×2

 SOHCながら吸気2排気1の3バルブを可変制御し、低速域では吸気バルブを1本休止することで抜群にフラットなパワー特性を実現していた。

 この時代のターボは途中からドッカーンというタイプが多いなか、グロス200psを発揮しながら抜群の扱いやすさ。しかも、国産初のインタークーラー付ターボだから熱ダレにも強かった。

 ターボといえば回転よりトルクというイメージだが、そのなかでも強烈なトルク感が記憶に残っているのが、ユーノスコスモに搭載された史上唯一の3ローターターボ、RE20B-REWだ(4位)。

 280馬力自主規制でエンジンのピークパワーを削るチューニングがなされたため、とにかくトルキーなドライバビリティが印象的。

 カタログスペックは41.0kgmだが、体感的には50.0kgmを超えているんじゃないかと思えるほどで、ブラックホールに吸い込まれるような加速感が忘れられない。

マツダ ユーノスコスモ…強烈なトルクのRE20B3ローターターボ。日本初のシーケンシャルターボでもある

 この時代のマツダは過給エンジン開発にアグレッシブで、RE20B-REWと同時期に史上初のミラーサイクルエンジン(KJ-ZEM)をユーノス800で発表している(2位)。

 これはダウンサイズ過給エンジンの元祖ともいえる存在で、2.3LのミラーサイクルV6にベルト駆動のリショルムコンプレッサーを装備、リニアなトルクカーブとレスポンスのいいドライバビリティが印象的だった。

 燃費性能では必ずしも思惑どおりの成果をあげられなかったが、上質なトルク感とスムーズな吹き上がりはいまでも通用するレベル。20年ほどデビューが早すぎたんじゃないかと思う。

 そのほか、0.9Lと小粒ながらターボ+スーパーチャージャーの複合過給でピリッと辛い、6位のマーチスーパーターボなど、初期の過給エンジンはほんとにバラエティが豊かだった。

 欧州系ダウンサイズターボに押され気味の最近の日本車は、もっと過給エンジンを頑張ってほしいものです。

■鈴木直也が選ぶ「歴代の過給エンジン」

1. 日産 セドリックターボ(L20ET)
2. マツダ ユーノス800(ミラーサイクルKJ-ZEM)
3. 三菱 スタリオンGSR-V(シリウスDASH3×2 G63B)
4. マツダ ユーノスコスモ(RE20B-REW)
5. 日産 R32GT-R(RB26DETT)
6. 日産 マーチスーパーターボ(MA09ERT)
7. 日産 R35GT-R(VR38DETT)
8. スバル レガシィ、またはインプレッサ(EJ20)
9. トヨタ アリスト(2JZ-GTE)
10. 三菱 ランサーエボリューションⅩ(4B11)

■速さを追求してきたターボ(片岡英明)

スバル インプレッサWRX STI…ランエボと切磋琢磨して日本のスポーティカー発展に貢献したインプレッサに拍手!

 ライバルと競い合っていくと凄いものになる。これはいろいろな分野にいえること。

 クルマの世界では、WRCやレースなど、モータースポーツの世界で競い合いながら成長してきたインプレッサWRX STIとランサーエボリューションがその代表である。

 この2台は、2Lという限られた排気量のなかで最強、最良のエンジンを目指した。そのためにターボの力を借りている。エンジン本体だけでなく、ターボユニットや制御系にもメスを入れ、コンマ1秒でも速く、楽しく走ることに力を注いだ。

 インプレッサのEJ20型ターボエンジンを1位に選んだのは高回転の切れ味が鋭く、音色も個性的だからである。レガシィのデビューと同時に登場し、四半世紀にわたって第一線で活躍しているのは凄い。拍手喝采だ。

 3位としたランエボの4G63型エンジンは、違う意味で名機といえるだろう。

 何の変哲もないエンジンだが、エンジニアのたゆまぬ努力と執念で一級の実力を備えたエンジンへと成長を遂げている。電子制御パーツにも目を見張るものがあった。

 2位にしたのは、これまた官能的なパワーフィールで乗り手をシビレさせたRB26DETT型DOHCツインターボだ。直列6気筒ならではの上質な吹き上がりで、高回転域での音色もいい。

日産 R34スカイラインGT-R…日本車の歴代ターボで最も評価されたRB26DETT。官能的なフィールにしびれた

 日進月歩で技術革新が進む時代なのに、10年以上も王者の座にあった。これはエンジンの素性がよかっただけでなく、ターボの選択と味付けもすばらしかったからだ。

■軽から1.2Lクラスに魅惑のターボがズラリ並ぶ

 エキサイティングという点で画期的だったのは、4位のシティターボのER型4気筒SOHCだ。

 わずか1.2Lの排気量だったが、レーシングエンジンのような過給圧で、生意気に電子制御燃料噴射装置のPGM-FIも装着していた。驚いたことにF1のようにブーストアップスイッチも付いていたから、ドッカンと刺激的な加速も!

シティターボ(ホンダ)はインタークーラーターボで110psのパワーを発生した。奇抜なボディと相まって人気に

 同じ性格のベビーギャングがスターレットターボとアルトワークスだ。EP82型スターレットターボは1.3Lエンジンとは思えないほどパンチ力があり、楽しかった。

 上級クラスより高度なメカニズムを誇ったのが、6位のアルトワークス。

 SOHCターボが全盛の時代にDOHCインタークーラー付きターボを搭載し、ミラやミニカを圧倒。レスポンスは鋭いし、加速も強烈だ。気持ちよく回るエンジンに加え、フットワークも軽自動車レベルを超えていた。上限64ps規制の張本人だけに実力はけた外れだ。

 4代目というかスープラの最終モデルに用意された3Lの2JZ-GTE型DOHCツインターボも印象に残るターボである。メカニズム的には行き着くところまで行っていた感があるが、気持ちいいし、滑らかなパワーフィールが印象的だった。

 1989年にモデルチェンジして登場したミニカにはDOHC5バルブターボのダンガンZZ-4が設定されている。

 これもターボ王国を誇った三菱の意地を感じさせるターボ車だ。デザインはいまひとつ魅力に欠けた。が、ターボの実力は本物だ。

 シャレードの1L3気筒ターボは目立たないが、秀作だった。

 世界最小の1Lディーゼルターボもターボ史に残る傑作だと思う。そして時代に先駆けて可変ノズルのジェットターボを搭載したY30セドリック/グロリアも忘れることができない。

■片岡英明が選ぶ「歴代の過給エンジン」

1. スバル インプレッサWRX STI(EJ20)
2. 日産 BNR34スカイラインGT-R(RB26DETT)
3. 三菱 ランサーエボリューションVI TM(G63)
4. ホンダ シティターボII ブルドッグ(ER)
5. トヨタ スターレットターボGT (EP82)
6. スズキ アルトワークス DOHCターボ(F5A)
7. トヨタ スープラ 3.0RZツインターボ(2JZ-GTE)
8. 三菱 ミニカダンガンDOHC5バルブターボ(4A30)
9. ダイハツ G100シャレードGT-Ti(CB70)
10. 日産 Y30セドリック/グロリア(VG20ET)

(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。