バス運転士の不足に関する記事は毎日のようにどこかしらから出る。やれ減便だ、廃止だ、やむを得ない、苦渋の決断、断腸の思い等々だ。そして世間の反応も決まっていて曰く、賃金を上げろ、拘束時間を何とかしろ、責任が重すぎる、カスハラを何とかしろ……などだ。
文:古川智規(バスマガジン編集部) 写真:東出真
(詳細写真は記事末尾の画像ギャラリーからご覧いただくか、写真付き記事はバスマガジンWEBまたはベストカーWEBでご覧ください)
■そんなことは百も承知
事業者や自治体、利用者や識者の反応はお互いに百も承知なのだ。すべてが遅すぎたということだ。どこかのボタンの掛け違えを修正しようとすると事業が吹っ飛ぶほどなのだ。
自治体は民間企業だからと補助金は出すが深刻さを理解できなかった。事業者は親の電鉄会社が何とかしてくれると思いきや、コロナで電鉄会社までやばくなって急に慌てふためいても手遅れ。組合は肝心の待遇について使用者と闘う意志はゼロ。利用者は値上げや赤字路線の整理の兆候があれば無秩序に反対し、事業者に圧力をかけ続けた。
それでも運転士さえいれば収益性の良い高速バスで稼ぎながら路線バスを維持するという手法が成り立ったのだが、それも不可能になってしまった。いくらでも乗客が見込める路線で増便ができないという八方ふさがりなのだ。
■できもしない妄想では時間切れになる
根本的なバス運転士問題とは関係ないが、中には二重価格で外国人から多くの運賃を取れという提案もあった。しかし現実的ではない。鉄道で全駅が有人ならば駅員が対応できるが、路線バスはワンマンである。外国発行のクレジットカードやデビットカードを狙い撃ちしてタッチ決済時に増運賃を取ることは技術的には可能だろう。
しかしビジネス目的で一時滞在している出張外国人が日本発行のクレジットカードを持つケースは少なく、本来対象でない人からも増運賃を取ることになりかねない。
ましてやワンマンバスで運転士が増運賃の問い合わせや苦情にどう対応するのだろうか。考えただけでも運転士の負担が増すのは目に見えている。できるできないや、制度改正を議論している間にタイムアップになる。
■当面は税金しかない!
すぐにできるのは事業者に資金的な余裕を持たせてすべてを運転士の待遇改善に回すことだ。税金を民間企業の丘陵に投入するのかと烈火のごとく怒る人がいるだろうが、足が奪われるよりはマシだ。
我々が見逃した公共交通機関の危機を救うには、みんなで分け合って責任を取るしかないのだ。税金を投入すといってもかつての銀行のように公的資金を投入するといったことではない。
自動車税や軽油引取税、車検にかかる手数料等を一時的に全部免除すれば支払う税金はずいぶんと減るはずだ。これをすべて運転士の待遇改善に回す条件で免税・免除にするのだ。
■事業者も努力を
仮に事実上の税金が投入されれば、事業者はもう必死で運転士を確保し、乗客サービスにも力を注がなくてはならないだろう。そうしないと国民が黙ってはいないからだ。本来であれば市場原理で体力のある事業者が吸収していく構図が望ましいのだろうが、そんな体力のある事業者はもうない。
いままで置いてきぼりにされたバス運転士の待遇を仕事量と責任に見合ったものにするとともに、二度と同じ過ちを繰り返さないように努力すべきだろう。きれいごとを言っている間に事業が成り立たなくなっては、本当に生活の足が奪われてしまう。そうなってからでは遅いのだ。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。