自動車盗難天国ともいわれる日本。今回、その元窃盗犯本人にコンタクトすることに成功し、犯行について生々しい証言を得ることができた。なぜ、日本で自動車盗難が相次ぐのか、その背景を探った。

文/加藤久美子、写真/AdobeStock(トビラ写真:jedi-master@AdobeStock)

■窃盗団の元実行犯である50代の男性に接触

今回、実際の自動車窃盗団の実行犯に接触することに成功した(Haru Works@AdobeStock)

「自動車の窃盗は手っ取り早くお金になる。以前は車体をバラして海外に出していたが、最近ではそのままコンテナに詰めて海外に送ることもある。税関でのX線検査もほとんどしない。どこの国でもそうだろうが出ていくものは基本的にスルーだ。盗難で被害届を出しても警察はほとんどまともな捜査をしないし、発見されることもほとんどない」

「私は日本人だが、グループのトップは外国人。ヤバくなればいったん自国に戻ればいいこと。そしてほとぼりが冷めたらまた日本に戻ってきて窃盗を繰り返す。日本の警察はチョロい」

「絶対につかまらない自信がある。グループのなかでもみんなそう言っている。万が一、捕まったところで外国人はほぼ不起訴だし、日本人でも初犯なら執行猶予がつく。盗難天国ですよ、日本は」

 こう衝撃の告白をしたのは、自動車窃盗団の「実行部隊」だった男性。年齢は50代。定職に就いていたが早期退職し、以前から興味のあった「自動車窃盗」の世界に飛び込んだという。

 子どもたちが巣立って夫婦ふたりで老後をゆっくり、と思っていたところ妻が急死。もう人生どうなってもいい。そんな気持ちだったという。彼が専門としているのは、スカイラインGT-Rやスープラ、シビックタイプRなどのいわゆる旧車スポーツカーである。

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クルマに傷をつけず短時間で綺麗にカギ開けする方法を学ぶ?

告白した50代男性の元窃盗犯はJAFに入隊していたという(ponta1414@AdobeStock)

「窃盗団に入るには鍵開けのテクニックを持っていると重宝がられる。というか、それが条件のところも多い。即戦力を買われて報酬が増えることもある。報酬は車種や関わる人数にもよるが1台10万~30万円」

 いったい、どこで鍵開けのテクニックを学んだのか。

「私は、JAFで鍵開けのやり方を学んだ。JAFのロードサービス隊員として入隊し、イチから先輩隊員について学び、独り立ちできるまでたくさんのことを学んだ。強引なやり方で鍵開けすることはそんなに難しいことではないが、盗んだクルマの価値を保つためにもできるだけ壊さず、傷つけることなくカギを開けることが大事」

「JAFで扱うのは基本、お客のクルマだから強引なやり方ではもちろんダメ。傷つけずに綺麗に、そして短時間にドアを解錠する方法を学べるのがJAFのいいところ」

 なんと! 窃盗の第一歩となる「カギ開け」はJAFのロードサービス隊に入って学ぶ? にわかには信じがたいことだ。そこでJAF広報担当者にも聞いてみたが、もちろん「そんな話は聞いたこともない」と驚いていた。

■海外から車種、台数、期限を指定した指令が来る

日本の旧車スポーツカーの多くは米国に……?(Xiao@AdobeStock)

 旧車の場合は多くが米国に行くと思われるが、実は米国はこの数年で州によっては日本車の旧車への輸入と登録ルールが格段に厳しくなっており、UAEから第三国に流れるパターンも増えている。

 4年前のちょうど今頃、日本で盗まれた20台ほどの旧車スポーツカーが米国ヴァージニア州にある「J-Spec Auto Sports Inc.」で販売されていたことが発覚し、日米のSNSで大変な騒ぎとなった。

 筆者が自動車盗難の取材に注力するようになったきっかけでもある。この時は、現地の警察(ヘンリコ警察)の捜査担当者とも夜中に話をしたり、J-Specの責任者のような立場の人とも話をしたりしたが、結論から言えば1台も1部品もオーナーのもとには帰ってきていない。

 また、2022年3月には米国で約400台(車台番号データあり)の日本車が違法に登録されていたことが発覚し、ふたりのブローカーが逮捕されている。400台のなかに盗難車があったかどうかは不明だが、JDMをめぐる不正行為が相次いでいるため現在はノーズカット(ハーフカット)という形状であってもエンジンとトランスミッションを含む場合は「パーツ」ではなく、「車両」としてみなされる。

 そのため輸出抹消登録などと同等の書類を求められるのが一般的だ。つまり盗難車がアメリカに密輸されることはこの1~2年でかなり厳しくなっている。

 だからといって旧車スポーツカーの盗難が減ったわけではない。日本には世界で人気の非常に高値で売れるスポーツカーがまだ大量に存在している。最近はUAEに向けて送られる盗難車も少なくないと聞いている。

■チューニングショップ店員を巻き込んで共犯に?

googleストリートビューに出る駐車車両の画像も犯行の際に参考にされている(BBuilder@AdobeStock)

 では、旧車窃盗における「指令」はどこから来るのだろうか?

「『2024年6月末までにR34GT-Rを3台』などの指示は海外から来ると聞いている。目当てのクルマを探す方法はいろいろある。便利なGoogleストリートビューも使う。屋外駐車場(道路沿い)に停めているクルマならストリートビューに画像が出てくる」

「何台か探して夜中に下見に行き、防犯カメラの位置やらセキュリティの状況、わざと揺らして警報音を出してみたりもする。ハンドルやバッテリーを外しているクルマがあれば犯行当日、クルマに合うものを持参して盗む。ハンドルロックがついていれば切断する道具を持っていく。これなら簡単に切断できる」

「あと、旧車はオーナーイベントや旧車ミーティング、展示会や走行会などのイベントに参加するオーナーが多い。そのような場所に出向いて物色することもある。こちらが日本人だと警戒されないのでやりやすい。『若い頃に乗ってたんですよ』『綺麗に手入れされてますねー』なんて言えば心を許してくれる。スキを見てGPSを仕込むこともある」

「旧車専門のチューニングショップの店員と仲よくなって目当てのクルマが入庫したら連絡をくれといってお願いする方法も効率がいい。その時、車検証のコピーも一緒にもらう。彼らは給料が安いから1台あたり謝礼として3万~5万円払うといえば簡単に教えてくれる。まあ、共犯だな」

「そのクルマを盗んだところで、警察は盗難車の捜査をほとんどしないから、どこから情報が出てきたかなんて99%わからない。共犯の店員まで捜査が及ぶことはまずありえない」

■Googleストリートビューはぼかすべし

Googleストリートビューで「ぼかし」を要請することが可能なので、人気車のオーナーならリクエストするべきだろう

 何ともおぞましい内容で、ここまで聞いた時には思わず絶句してしまった。

 ひとまず盗まれやすい旧車やランドクルーザー、アルファードなどを所有している人のなかで、クルマがストリートビューに映っている場合、「Googleマップ→問題の報告→不適切なストリートビューを報告」から、「ぼかし」を要請することができる。

 なおこの時、重要なのは「ほかの日付を見る」の部分もチェックすること。過去の写真にも同じようにぼかしを入れたクルマが写っている場合は同じ手順でリクエストを送るべし。

 また、旧車イベントなどにプリウスで来場している外国人や、なれなれしく話しかけてくる初老の日本人にも要注意といったところだ。

※今回、衝撃の告白をした元窃盗犯へのインタビューは関係者を通じて間接的にメールで行っています。

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