2024年6月3日にトヨタは型式指定申請に不正があったことを会見で明かした。年始からダイハツや豊田自動織機などで不正が相次いでいる訳だが、今回の不正問題はなんだか様子が違う。内容にもよるのだが、国交省が定めている基準より厳しく評価をしていたというものだった。なぜこれが「不正」扱いになるのだろうか?

文:国沢光宏/画像:トヨタ、Adobe Stock

■不正発覚も必ずしも悪いことではなかった!?!?

日本国内で生産中の3車種(カローラフィールダー/カローラアクシオ、ヤリスクロス)の出荷・販売を停止

 今回の不正問題、検証してみるとスズキのブレーキを除き、国交省の基準と同等か、むしろ厳しい基準をクリア出来ていることが解る。好例はトヨタの後突試験だ。

 国交省の基準だと日本で走っているクルマの平均的な車重1100kgの台車を使えばいいのに、トヨタは重いクルマが多いアメリカ基準の1800kg台車を使っていた。総合的に評価すれば、厳しいのは1800kgだと誰にでも解る。

 なんでトヨタは1800kgのデータを使ったのか。三つほど考えられる。1)試験費用を削減すべく会社ぐるみで行った。2)日本仕様の試験を行う時間的な余裕が無かった。3)国交省の担当者も容認していた、だ。それぞれ考察してみよう。

 まず1)だけれど、考えにくい。というのも10年以上まで遡った調査で出てきたのはシエンタとクラウンだけ。会社ぐるみだったらもっと多いだろう。

 2)はシエンタとクラウンで、どちらもアメリカ輸出の予定無し。したがって日本仕様の試験だけやれば十分だった。なんで1800kgで試験したのか理解に苦しむ。しかもトヨタは「1800kgで試験した理由」について明確にしていない。今のトヨタなら隠すことなど選ばないだろう。

 となると一番納得出来る説明は「国交省の担当者も知っていた」ということになる。 今回国交省の認証の厳しさが話題に上がっている。いろいろ取材してみると、現場の役人って予想以上に聡明。

 例えばトヨタ側が「この車種は海外向けに売らないので後突試験は1回分しか予定していないのだけれど、安全性を考えて1800kgでやってみたい」と言えば、国交省側も理解し「ユーザーの利益になるのならいいですよ」みたいな対応をすることがあると聞いた。

 とはいえ不正は不正。社内調査で「試験内容と認証試験の内容が違うじゃないか」になり、なんで違う試験をやったのか担当者に聞いたら「国交省側も知ってました」となれば、公表できないだろう。

 自動車メーカー側は、国交省の役人とよい意味で握って試験している。役人が不利になるとすれば、間違いなく秘匿します。安全側ならユーザーだって困らない。

■ひと昔前とは異なる開発スピードが不正に

今となっては外車の方が開発スピードが速い訳だが、国産車の開発スピードの遅さは認証の遅さが直結していると考えられる(3D motion@Adobe Stock)

 もう一つの問題は認証申請してから認証が出るまでの時間だ。開発完了時点で認証を申請すると、そこから1年近く掛かってしまう。その間、ライバルに出し抜かれるかもしれない。

 一昔前なら開発速度という点で欧米のメーカーより日本の方が速かった。されど現在の相手と言えば開発速度の速い中国や韓国のメーカー。認証の遅さが開発現場にプレッシャーを掛ける。

 よく不正問題で「会社が開発現場にプレッシャーを掛けるのが原因」などと報じられるけれど、会社じゃなく認証の遅さだ。だから開発中から認証に必要なデータを出していく。

 開発中だけれど、認証試験に内容は市販車と同じにしなくちゃならない。これ難しいです。ここに全ての問題の原因がある。認証のシステムを見直さない限り、我が国の自動車産業は手足を縛られる。

 また、ダブルスタンダードの原因を作ったのも国交省だ。国交省は自分で作った認証基準より厳しい内容の試験を、国交省の外郭団体(JNCAP)でやらせている。メーカーはJNCAPの基準をクリアすべく入念な安全対策を行う。

 この時点で国交省はダブルスタンダードを要求しているワケ。だったらJNCAPのデータを認めればいいのにやらない。メーカーからすれば全く納得出来ない。

 今回の騒動を受け、そろそろ認証制度の抜本的な見直しをすべきだろう。今後、電動化技術やADAS技術など新しい項目が山ほど出てくる。それらに全てダブルスタンダードを要求すれば、一段と認証に掛かる手間や時間が増えていく。

 もはや破綻寸前と言い換えてもよかろう。斉藤国交相は猛烈に強気で自動車メーカーを罵倒する。自動車メーカーと国は敵対関係じゃ無い。

 よいよりクルマ作りや、よりよい安全対応のためにも、このあたりで認証システムの抜本的な見直しをしたらいいと思う。

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