クルマと道路は切っても切り離せないもの。交通ジャーナリストの清水草一が、毎回、道路についてわかりやすく解説する当コーナー。今回は、スイスで導入予定となっている自動物流道路について、日本でも同様のものを実現するに当たっての活用法や課題について考察する!
文:清水草一/写真:フォッケウルフ/資料:国土交通省、NEXCO中日本
■スイスで実用化が進められる物流のための道
2022年、スイスで衝撃的な計画が認可された。国内に合計500kmの貨物輸送専用トンネルを建設し、無人の電動モジュラー型輸送ユニットを走らせようというものだ。
トンネルの直径はわずか6m。その中に3レーンを設け、外側2レーンを上下線に、中央を待避線とする。運ぶのは、欧州で多く使われているユーロパレットサイズ(幅80cm×長さ120cm)の小口荷物のみ。全ルート完成後の2050年には、トラック輸送+鉄道輸送の10%強が転換可能という。建設費は合計約5兆円が予定されている。
日本でも、大手通販会社の巨大な配送センター内ではロボットが商品を自動集荷しているが、その長距離版と考えていいだろう。まるで未来予想図だが、驚くべきことにこの計画、100%民間によるもので、公費は投入されない。民間主導という点では、JR東海が建設中のリニア中央新幹線に近い。
スイスでも日本同様、物流の人手不足が予想されているため、採算に乗ると判断されて資金が集まり、12年越しの技術調査の末、政府からGOが出たのである。夢のような話が現実になりつつある。
後を追うように日本でも、国交省が「自動物流道路に関する検討会」を開催している。高速道路の中央分離帯や路肩等を利用して、車両を自動走行させられないか検討しようというものだ。
国交省は以前から、トラックの後続車無人隊列走行のテストを行っている。先頭車両のみドライバーが運転し、後続する2台のトラックを自動追従運転させるものだが、一般車との間で安全面の課題が山積している。対する自動物流道路は、新たに専用レーンを作っての完全自動運転だから、はるかにコントロールが容易だ。
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■NEXCO中日本が公開した論点とは?
スイスの計画は全線トンネルだが、トンネル掘削には巨費がかかる。中央分離帯など、高速道路上の空間を利用すればずっと安上がりに思えるが、実際はどうか? 今年5月の第3回会合では、NEXCO中日本が具体的な論点を公開した。
その内容は衝撃的だった。ぶっちゃけ「中央分離帯や路肩側に専用レーンを設置するのは極めて困難で、地下トンネルのほうが現実的」という結論だったからだ。
路肩側の場合、インターチェンジやSA・PAの分合流のたびに、物流レーンを立体交差させる必要がある。中央分離帯にも標識や跨道橋の支柱が多数立てられているので、すべて撤去し再構築する必要がある。トンネル区間は、内側か外側に新規にトンネルを掘らなければならない。
そもそも路肩も中央分離帯もたいした幅はないから、トラックを走らせることなど不可能で、スイスの物流専用トンネルのように、幅の狭いパレットを走らせるしかない。
事故や災害、落下物、除雪の影響を考えると、堅固なボックス構造で守らねばならならず、建設するとなったら、本線側も長期の車線規制が必要になりそうだ。ならばいっそトンネルを掘ったほうが現実的ということになる。
■高速道路の次のネットワークとして議論すべき!
高速道路の地下にトンネルを掘るのも簡単ではない。高架部の地下には基礎杭が打ち込まれていて、橋梁の場合は深さ40mに達する個所もある。トンネルはそれより深い位置に掘らねばならない。
国交省が各建設会社にアンケートを実施したところ、スイスのトンネルサイズ(幅6m)で、建設費は10kmあたり70億円から800億円。東京-大阪間なら最大で4兆円程度になる。リニア中央新幹線(トンネル直径13m)品川―名古屋間の総工費約7兆円を考えれば、出せない金額ではない。
スイスの計画が成功するかどうか未知数だが、成功すれば、トンネル物流ネットワークが欧州全域に拡大する可能性もある。国際競争力を考えると、日本も真剣に検討する必要があるだろう。
ただ、トンネルを掘るならば、深い基礎杭がある高速道路の地下でなくてもいいはずだ。国道の地下だっていい。あるいは全線大深度地下トンネルなら、ルートの制約はほとんどない。
日本ではまだ夢のまた夢の段階だが、日本の高速道路網も、ようやく9割方完成した。そろそろ次世代の物流ネットワークが必要な時期に来ているかもしれない。
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