2024年4月8日、いよいよスタートした「日本型ライドシェア」。この中にはすでに利用したことがある人や、ドライバーとして運転している人もいるかもしれない。今回はそんな「日本型ライドシェア」のアレコレをその道にプロに聞いて、魅力と問題点について語っていこう。
※本稿は2024年5月のものです
文:清水草一、ベストカー編集部/写真:共同通信社、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2024年6月10日号
■いよいよ解禁! ライドシェアとは?
2024年4月8日に解禁となったライドシェア。自家用車を有料タクシーとしてに使えるもので、ドライバーも二種免許は必要なく、普通免許でOK。以前は「白タク行為」として禁止されていたものが合法になった。
ただし、ドライバーはタクシー会社に所属する必要があり、また営業できる地域、時間帯にも制限がある。これが「日本型ライドシェア」と呼ばれる部分で、海外のように配車アプリに登録していれば、自由に参入できるというものではない。
まず東京、神奈川、愛知、京都でスタートし(詳細は下の表参照)、その後拡大。この原稿を書いている時点では不明だが、5月からは大幅に適用エリアが広がることは確実だ。
また、早くも6月には運用方法を見直すことにもなっており、地域や時間帯の制限を撤廃することや、タクシー会社以外の参入を認めるかどうかも議論される見通し。そうなれば、またガラリと運用方法は変わってくる可能性もあるが、まずは日本でもライドシェアが始まったというのが大きな一歩というわけだ。
日本型ライドシェアには賛否両論あるが、本企画で考えたいのは「ライドシェアのドライバーで稼ぐことはできるのか?」である。愛車を運転することが収入に繋がるのであれば、それは気になる。ドライバーになる方法、収入の予測などを徹底的に検証した。
■ドライバーになる方法……日本交通の場合
クルマ好きなら「愛車を走らせて稼げるなんて最高」と思うが、始まったばかりでわからないところの多い日本型ライドシェア。そのドライバーの仕事について、大手タクシー会社「日本交通株式会社」に聞いてみた。
ドライバーの条件は普通免許を取得して1年以上であることと、過去2年間に無事故かつ免停経験がないこと(二種免許は不要)。その条件を満たしていれば応募でき、その後にオンラインとリアルでの面談、研修を経て、正式にドライバーとしてデビューできる。
オンライン面談ではドライバーになりたい理由、仕事ができる頻度、使用する車両などの基本情報を確認。また、リアル面談の時には実際にクルマに乗って営業所へ出向き、面談中に整備士が車両を確認する。
使用する車両の条件は4ドアで乗車定員が5〜10名、衝突被害軽減ブレーキとETC車載器が装備されていること。一般的な軽自動車は4名乗車なので、条件から外れることになる。
面談同日、または別日に健康診断を受けて、問題がなければ合計10時間の研修となる。まずオンラインで5時間の動画視聴研修。身だしなみ(制服はない)、お客さんへの対応や運転での注意点を学び、ライドシェアアプリの使用方法や異常事態への対応方法も学ぶ。
次は自動車事故対策機構(NASVA)での運転者適性診断で、これが2時間。最後に座学と指導員を乗せて一般公道を走る実地研修を3時間行うが、この時にアプリの操作や一連の動きも実際に学ぶことになる。
この実地研修でチェックされるのは「あたりまえの安全運転」ができるかどうかで、研修の間に、使用するクルマにライドシェアの表示灯、所定のドライブレコーダーを設置。これにてライドシェアドライバーになる準備は完了となる。
ここまででかかる費用は移動の交通費のみだが、使用車両の不具合の修理などはドライバーの負担となる。なお、会社によっては車両を貸与することもあり、日本交通の場合、貸与の有無は地域によって異なるが、貸与料金はかからない。
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■フルに働いて月収14万〜18万円?
さて、ライドシェアのドライバーは実際にどのような仕事をして、どのくらい稼げるのか、次はそこを検証していこう。すべて4月25日現在の条件である。
日本交通の場合、時給を基本1400円+経費400円(ガソリン代、スマホ通信費)の1800円に設定している。
ここで重要なのは待機中でも時給が発生すること。例えば東京地区では月〜金の午前7時から10時台まで4時間ライドシェアを行えるが、仮にずっと待機だったとしても4時間分の時給が得られる。ただし、ドライバーは客や行き先を選べず、会社からの指示に従わなければならない。
ドライバーは営業所に出向く必要はなく、オンラインで点呼、アルコールチェックを行い、車両の点検をして仕事を開始できる。
待機中も時給は発生しているから乗客を探す必要はないし、行き先もナビの指示に従って走らせるだけだから、裏道に詳しいなどのノウハウも必要ない。
タクシードライバーに比べて業務のハードルは下がるということだが、仕事ができるのは週に20時間未満と決められており、フルに時給が得られるとして月収14万4000円。人によっては年収1000万円クラスもあるタクシードライバーに比べると、稼げる上限はかなり低い。
ちなみに、時給のほかに歩合もあって、1時間あたりの売り上げが税別3000円を超えた分が歩合の対象になるが、歩合が占める割合はさほど高くないことが想定され、やはり月収16万〜18万円というのが上限となりそう。なお、事故や乗客とのトラブルが起きた時の会社の対応は、タクシードライバーと同じだ。
「労働時間や地理の知識、お客様を見つけるノウハウなど、タクシードライバーのハードルの高さが気になる方には取り組みやすいと思います。逆に、ガッツリ働きたい人には物足りないでしょうから、棲み分けができると思います」
――どういう人が向いていると思いますか?
「運転が苦にならないのは大前提ですが、やはり接客業が得意な人のほうがやりやすいでしょう。ナビで目的地は示されますが、細かいところはお客様に確認しながら微調整することになりますからね」と、日本交通秘書広報室の土屋真吾さん。
タクシーが不足するのは平日の朝方など決まった時間帯だけ。日本型ライドシェアはそこを補えればいいという考え方で「何よりもドライバーとユーザーの安全と安心を優先している」と言う。
ドライバーは募集開始1カ月で1万件の応募があったというが、あるタクシー会社では「殺到しているというほどではない」との見解。日本型ライドシェアは安心、安全を最優先にしている運用方法だけに、ドライバーにチャレンジするハードルも決して高くはなさそうだ。
■ライドシェアの使い方は?
日本型ライドシェアはタクシーアプリGO、 Uber、S-RIDE、DiDiを使用する(2024年4月25日現在)。乗客は乗車場所と時間、行き先をアプリで指定し、乗車。乗車前に運賃は決められており、決済はそのアプリのみで現金その他は使えない。
街中で手を上げて止めることはできず、日本交通の場合、配車アプリでライドシェア車両のみを指定することもできない。
ドライバーと乗客を相互に評価できるアプリもあり、実績として残っていくから、両者のマナー向上が期待できる。なお、運賃はタクシーと同レベルとなっている。
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■現役タクシードライバーからのアドバイス?
似て非なるタクシーとライドシェア。東京で10年間タクシードライバーを続けてきたNさんに、日本型ライドシェアについて伺った。以下、Nさんのお話。
「新型コロナの影響でタクシー会社が倒産したり、多くのドライバーが辞めたのは事実。真っ昼間の銀座なのに、ほとんど人がいない時期などもあって売り上げが激減しましたからね。
その反動で今タクシーが不足していると言われるけど、足りないのは朝と夕方、それと雨の日と決まっています。だからライドシェアの時間帯を決めるのは理に適っていると思いますよ。
ただ、人を乗せて運ぶのはそう簡単なことじゃない。9割はちゃんとしたお客だけど、筋の悪い客も必ずいるからね。そういう客にどう対応するか。そこは人生経験が重要なんですよ。
先輩ドライバーは『ワビ、サビのわからないヤツにタクシードライバーは務まらない』とよく言ってましたけど、10年やってると、その意味がよくわかります。私も僧侶のごとく、禅の心境で運転しています。タクシーはシビアな商売なんです。
新卒で入ってきて3カ月ほどで辞めちゃうドライバーもたくさんいます。ライドシェアはドライバーと乗客を相互に評価するシステムもあるから、おかしな客に会う確率は低いかもしれないけど、特に深夜、早朝は気をつけたほうがいい。ドライバーをやるなら、何回かはツライ目にあうと覚悟しておく必要はあるでしょうね」。
■清水草一氏にきいた! 日本型ライドシェアに問題は?
自分は滅多にタクシーに乗らないし、海外でもレンタカーばかりでライドシェアを使ったことがない。
そんな私が評価するのもなんだけど、今回始まった日本型ライドシェア、スタート時点としてはバランスがいいんじゃないだろうか。特に海外同様、客と運転手双方が評価しあうシステムが導入された点は「やるじゃん!」と思いました。
ウーバーが生まれたアメリカをはじめとする海外に比べると、営業地域や時間など、すさまじく規制だらけのスタートだけど、欧州などライドシェアにかなりの規制をかけている先進国も多く、日本には日本なりのシステムがあっていい。
アメリカではライドシェアの普及によって、地域によってはタクシーが壊滅寸前になっている。さすが自由主義の先頭を走る国。経済のスクラップ&ビルドが激しい。タクシーよりもライドシェアのほうが安くて便利だからそうなったわけだけど、それだけを基準にものごとを進めるとリスクに弱くなる。
かつてアメリカでは、電力自由化を進めすぎて大停電が起きた。日本でも資源高で新電力が多数廃業して、「自宅の電気が止まっちゃう!」ってなった人もいる。
日本型ライドシェアは、あくまでタクシー不足を補うという形のスタートだから、タクシー業界にとってとても都合がいい一方で、利用者にとってはまだ存在を感じることさえ難しい。
でも、一度始まったシステムは、需要がある限りなくならないはず。日本は世界一の高齢国だけに、新しいシステムに臆病になってるけど、タクシー運転手の高齢化を考えると、いずれは正規のタクシー運転手がいなくなって、タクシー会社がライドシェア専門になることだってあり得る。
すべては時代の流れが決めるわけだが、今後もっと規制が緩和されれば、自分もライドシェア運転手に応募してみたい。自家用車で副業ができるのって、クルマ好きには魅力だから!
(TEXT/清水草一)
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