日本では線状降水帯による豪雨が頻発していますが、世界各地でも異常気象や災害が多発しています。

 中でもアメリカは国土も広く、竜巻、山火事、ハリケーンなどの災害のニュースをよく目にします。

 そういった緊急事態に巻き込まれたとき、トラックドライバーはどう対処したらいいのか? アメリカでトラックに乗っているPUNKさんに日頃の備えや心構えを聞いてみました。

文・写真/なでしこトラッカーPUNKさん
*2023年12月発行トラックマガジン「フルロード」第51号より

情報がラジオ頼りだったあの頃

トラックを所有し自ら仕事を受けるオーナー・オペレーターのPUNKさんは、自由な半面、受ける仕事・ルート選択などすべて自己責任だ。このため天気予報や道路状況には常に神経を尖らせている必要がある

 私がアメリカでトラックドライバーになった2000年頃は、スマホもコンピュータもナビもネットも、トラックには何もない時代でした。

 毎日の交通渋滞や悪天候の情報はラジオでしか得られなかったので、運転中はずーっとFMをかけながらニュースを聴いていました。また、ハイウェイで聴けるAMにはウェザー専門のチャンネルがあったので時々チューニングを合わせていました。

 でも、ご存知の通りラジオには聴くことのできる範囲があるので、エリア外にさしかかるとザザザーっという音になって、しまいには何も聴こえなくなります。

 そのため情報が入らず、ひどい嵐や雪になって「こりゃ~無理だ!」というところまで走っていました。

 もちろん出発前の天気予報で「ヤバいな~」と思ったときには、万が一に備えて予備の食料や着替えなど準備していましたが、運が良かったのか、今まで路上で通行止めになって悪天候の中で一夜を過ごした経験はありません。

 今の時代はネットでウェザーチャンネルが見られます。リアルに危ない地域の情報がわかるので本当に助かります! 

責任感と事故回避の板挟み

 多くのドライバーの心理として「お預かりした荷物を配達の期日までに時間通りにお届けしなければ!!」という焦りに似た気持ちがあると思います。

 私もそうなんですが、落ち着いて考えれば、まずは自分の「安全第一」がとても大事です。いくら急いでも事故につながったり身の危険があったら、配達どころかこの先仕事ができなくなる可能性だってあります。

 でも、ドライバーが「これ以上進んだら危険」という判断をしたにも関わらず荷主や会社から運行を強要された場合、果たして法律的に明確な行政処分はあるのでしょうか? 

 何事も起こらなければラッキー、事故が起こったらドライバーの責任にしてしまうケースだってあるかもしれません。そういうことを踏まえて、会社に「No!」と言える決断と勇気は大事だと思います。

PUNKさんが配達途中で遭遇した山火事。交通事故も発生している

 事実、アメリカの某大手運送会社でも同じようなことが起こっています。運転手が危険だと思いながらも、吹雪の中、凍りついた道路を夜間走行して、事故を起こしてクビになってしまった……。

 確かに会社が請け負った荷物の破損や修理代は膨大かもしれません。でも、ドライバーを煽ったのは紛れもなく会社側です。責任をすべてドライバーに押し付けてしまう事例が跡を絶ちません。

 私の場合、自分でトラックを所有するオーナー・オペレーター(O/O)なので、自分が会社のオーナーになります。そのため、やはり請け負った荷物は期日ピッタリの指定時間にお届けすることに神経を尖らせて毎日走っています。

 天気予報や交通渋滞はもちろんですが、「時間」のチェックも重要です。アメリカでの配達は大陸横断などの長距離になると、荷物を積んで走り始めてから現着まで5、6日かかることがあります。

 アラスカやハワイなどを除いた大陸部だけで1~3時間の時差があり、「夏時間」制度があるため、走っている途中で夏時間・冬時間が切り替わると、1時間の誤差が生じます。配達日や指定時間に間違いがないか、現在地だけでなく配達先の時間を確認しながら毎日チェックしています。

アメリカにもある荷主の「優越的地位の濫用」

 先日請け負った荷物の指示書に「絶対遅れないようにしてください。もし指定日の時間をオーバーしたら再スケジュールは26日以上先になります」と書かれていました。

 大手運送会社だったらヤードにドロップして別の荷物をもらい、後日改めて配達できますが、O/Oはトラック1台にトレーラ1台なので、荷物を降ろせないと、26日間なにもできない状態になるでしょう。……考えただけで震えがきます(笑)。

 しかし、ここはアメリカ! けっこうアバウトな考えで荷物を請け負って、都合よくキャンセルする運送会社もありますので、実際は空き日があれば降ろせるけど、契約には厳しい警告を書いているのではないかと思っています。

 最近では「一度ブッキングした荷物はキャンセル不可」や、やむを得ずキャンセルする場合、「ピックアップ予定の3日前から、ペナルティとして0%」などなど、会社やブローカーが荷主と契約するときのオプションがいろいろ選べるようになってきました。もちろん悪天候の場合の取り決めもあります。

 しかし、追加料金が発生する場合、会社は当然ペナルティを減らしたいのでドライバーをプッシュします。そうした場合の行政処分などは、実際のところグレーです。日本はどうでしょうか?

命以上に大切な荷物はない

ロッキー山脈沿いにあるララミー峠。標高が高く時期外れの降雪・路面凍結も頻繁に発生する

 10月の中旬にコロラド州デンバーからワイオミング州ララミーという街を抜けて、ユタ州ソルトレイクシティーに配達する荷物を請け負ったことがありました。

 夕方に積んで天気予報を見ると、夜から翌日の明け方までララミー峠周辺で「雪」の予報が出ています。夜間走行を避けるため太陽が昇る頃に出発しようと思い、コロラド州でオーバーナイトすることにしました。

 翌朝5時に天気予報をチェックしたら、積雪&事故のため州間高速道路が閉鎖されていました。交通情報ではオープンまで約4時間かかるとのことだったので、しばらくそのまま待機して、午前8時頃に出発しました。下道の道路は多少凍っていましたが、タイミングよくハイウェイがオープンして、時間通りに配達を完了!

 特に冬の間は、常に天気予報や道路状況をネットで確認することが大事です。そうすれば積雪の中で動けなくなるような状況を事前に回避できるでしょう。

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