クルマの雰囲気は、その時代を色濃く反映したものだ。平成元年と令和元年では、クルマにどれほどの変化が見えるのか。変わることによって価値を維持し続けたトヨタ カムリを例にとり、カムリの元年モデルを比較しながら、日本の変化を見ていこう。

文:佐々木 亘/写真:TOYOTA

■平成元年モデルは「新しきセダンの肖像」

平成元年(1989年)に販売されていた3代目トヨタ カムリ。この頃は5ナンバーセダンだった

 平成元年(1989年)のカムリは、セリカカムリから数えて3代目。前年にマイナーチェンジを施され、プロミネントシリーズに4ドアハードトップを追加、1.8Lエンジンもハイメカツインカム化されている。

 この当時、カムリは5ナンバーセダンである。ボディサイズは全長4,520mm、全幅1,690mm、全高1,395mmで、2,600mmのホイールベース。2.0L・1.8Lのガソリンエンジンと、2.0Lのターボディーゼルが用意されており、トランスミッションも4ATと5MTというのが歴史を感じるところだ。

 車両デザインは、曲面を生かそうとしているのがよくわかる。まっすぐに見えるボディだが角は丸く、パネル自体にも上手くアールを付けているので、デザインが柔らかい。6ライトキャビンが高級サルーンを鮮明に印象付け、デジタルメーターが採用されるなど先進性もあった。

 経済成長・バブル経済の真っただ中に生まれたカムリは、カムリ史上最も高級な路線にいる1台なのかもしれない。

■令和元年モデルはスポーティに闘うカムリ

令和元年(2019年)に販売されていた10代目トヨタ カムリ。平成モデルと比べるとかなり大型化した

 令和元年(2019年)のカムリはセリカカムリから数えて10代目。前年に新グレードのWSが追加され、スポーティセダンとしての顔も持つようになった。WSはWorldwide&Sportyの略であり、上質感の上に力強いデザインを融合させたモデルだ。

 平成モデルと比べると、カムリはかなり大きくなった。ボディサイズは全長4,910mm、全幅1,840mm、全高1,445mmでホイールベースは2825mm。パワートレインは2.5LダイナミックフォースエンジンにTHS IIを組み合わせる。

 運転席ではなくコクピットと呼びたくなる10代目の室内は、高級感は残しつつも前衛的だ。ボディデザインにも、優しさよりは力強さが目立つ。

 強まる逆風に立ち向かうように、カムリは令和の時代に強さを身につけた。

■優しいカムリでぜひ復活を!

2018年に追加された新グレード「WS」は、フロント部をはじめとしたエクステリアの一部が専用デザインとなった

 平成の初期、カムリクラスのクルマには、個性があまり必要なかったように思える。主はあくまでユーザーにあり、それに従うのがクルマの役割だった。クルマは生活や風景に溶け込む必要があり、気持ちをリラックスさせてくれる存在であっただろう。

 また、周りのクルマに合わせるというのもカムリの役割の1つだった。カローラ・マークIIに挟まれながら存在を潜め、目立ちすぎないことがカムリの流儀だったはず。出る杭は打たれてきた時代背景を、反映したクルマに映る。

 対して令和のカムリは個性の塊だ。マークXが消え、日本のセダン復権を課せられたカムリは、存在を強めるしか生き残る道が無かった。あの無味無臭だったカムリが、非常に濃い味付けになっている。様々なものが沈みゆく時代には、高揚感のあるクルマが必要だったのだろう。

 どちらの元年モデルも、ボディカラーのメインバリエーションは7色で落ち着いた色が多い。ただ、赤や青の色味が大きく違う。平成モデルはダークレッドマイカとブルーマイカ、対する令和モデルはエモーショナルレッドとダークブルーマイカメタリックである。

 塗装技術の差はあるが、明らかに令和の方は発色が良く元気がイイ。経済成長著しい時代には暗く落ちついた色のクルマが売れ、世の中に元気がなくなるとビビット色のクルマが売れるとよく言うが、元年モデルのカムリを見比べると、その通りだなと納得できた。

 時代に合わせて変化を続けてきたカムリの変遷を見ていくと、日本がどのような状況になっていたのかが手に取るようにわかる。現在カムリは日本市場から撤退してしまったが、次に生まれてくるときには、また「優しい・柔らかい」カムリに戻っていることを、願わずにはいられない。

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