本小説の主人公、豊田喜一郎氏はトヨタ自動車の創業者であり、豊田章男会長の祖父にあたる。豊田章男会長が誕生した時、豊田喜一郎氏はすでに亡くなっていたが、タイムリープによって二人は交錯し語り合う……。フィクションでありながら、日本の自動車産業の黎明期を知る上でも貴重な一冊となっている。

文:ベストカーWeb編集部/写真:トヨタ、講談社

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■自動車好きなら「そうだったんだ!」と驚きの連続だ

創業時の活気ある会社にしたいと改革を推し進めた豊田章男会長にとって喜一郎氏は特別な存在だ

 タイムリープとは自分の意識が過去や未来の自分自身に乗り移ること。

 豊田喜一郎氏は欧米の視察後、国産自動車開発に情熱を傾け、さまざまな苦難に立ち向かいながら、今につながる日本の自動車産業の礎を築いていく。

 祖父の豊田喜一郎に会いたい豊田章男少年は何度もタイムリープによってさまざまな時代と重要なシーンに飛んでいく。読むほうはそんなバカな!? と思いながらもぐいぐいとストーリーに引きずり込まれていく。

 緻密な取材によって豊田喜一郎氏の言動がよみがえり、豊田章男会長の想いが重なることで、経済小説でありながら、温かみのある家族の物語にもなっている。そして自動車好きなら「そうだったんだ!」と驚きをもって読むことができるはず。

■豊田章男会長に印象を直撃した!

豊田喜一郎氏は「GMやフォードにかなわないから無謀」とされた時代に国産自動車の開発に執念を燃やし、夢をかなえた。「現地現物」や「ジャスト・イン・タイム」といったトヨタの思想の多くが豊田喜一郎氏の教えや実践によるものだ

 この本を読んだ印象を豊田章男会長に聞いてみた。

「私も(豊田)喜一郎がこんなことをしたとか、あんなことを言ったという話は聞いていましたが、この小説を読んで、温かい血が通っているおじいちゃんに会えた気がしました。自分の中でぼんやりとしていた喜一郎のイメージが鮮明になった気がします。小説の大きな力を感じました」。

 豊田章男会長はこんなことも話してくれた。

「喜一郎じいちゃん始め創業時のメンバーの苦労に比べれば、『自分の苦労なんかなんでもない』と自分を奮い立たせながらトヨタの改革を進めてきました」。

 この小説を読めば、豊田章男会長がなぜ、祖父、喜一郎氏に特別な想いを持つのかもきっとわかるはず。

 なお著者の吉川英梨さんは、サスペンス・ミステリーの旗手と知られ、著書に「新東京水上警察」シリーズや「海蝶」シリーズなどがある。

『トヨタの子』著者:吉川 英梨 四六判ワイド並製 定価:本体3080円(税込)ISBN 978-4-06-535863-4 発行:講談社

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