ランボルギーニ カウンタックとともにスーパーカーブームを盛り上げた、もう一台の主役ともいえるのがフェラーリ 512BB。512BBを語るなら初期型のウェーバーキャブ仕様を味わうべき! ということで、誉れ高き跳ね馬12気筒フラッグシップをインプレッション!!

※本稿は2024年5月のものです
文:プリウス武井/写真:小林邦寿、中島仁菜
撮影協力:ガレージグレードワン
初出:『ベストカー』2024年6月10日号

■嗚呼なつかしの512BB

かつてブームの一翼を担ったフェラーリ 512BB。スーパーカー世代直撃の懐かしいモデルだ

 昭和50年、社会現象になった第1次スーパーカーブームを経験した世代にとって、カウンタックとともに熱狂したのがフェラーリだ。

 ライバルと称されたカウンタックの翼を広げたようなスイングアップドアに対して、フェラーリは前後フードが大胆に開き、エンジンやサスペンションなどのメカニズムが丸見えの状態で展示された「スーパーカー開き」は王者の風格さえあった。

 512BBは、先代の365GT4BBの流れをくむ後継モデルとして、1976年のパリモーターショーでデビューした。

 排ガス規制のあおりをもろに受けた世代のフェラーリで、当時、スーパーカーの指針の一つでもあった300km/hに到達できるか危ういモデルで、ある意味、希少な跳ね馬と言える。

 デザインを担当したのはイタリアを代表するカロッツエリアのピニンファリーナ。365のデザインを踏襲しながら細部に渡るモディファイが行われた。

 512には前期と後期モデルが存在するが、今回インプレッションをさせてもらうのは前期型。後期モデルはインジェクション化されたが、512といえばやはりウェーバーキャブレターが搭載された前期モデルの評価が高い。

 インジェクション仕様のカタログ最高速度は280km/hと落ちることになるが、このキャブ仕様は、排ガス規制のあおりを受けながらも最高出力は360psを発生し、最高速度も302km/hとスーパーカーとしての面目躍如を果たしている。

■激重クラッチは左足の筋トレ!?

オリジナルが色濃く残るコックピット。ドライバーズシートからの目線は低く視認性も抜群。45年以上前の個体にも関わらず経年劣化が軽微で後世に残すべき最高の一台

 オリジナルを色濃く残す超希少な個体を所有しているのは、宮城県多賀城市に拠点を置くガレージグレードワン。スーパースポーツカーの販売からカスタム、さらに国産車まで幅広く扱うショップだ。会長の今野仁氏の心意気もありスーパーカー小僧が熱狂した名車のインプレッションレポートをお届けできた。

 ドアを開きドライバーズシートに乗り込むと、流れてきた時間の長さを感じさせる。ブラックレザーのシートは、若干経年劣化はあるものの状態は悪くない。

 シートバックの左右はせり上がったバケット形状のデザインだが、ホールド性はともかくドライバーの体格を選ばないのは512がグランツーリスモだということだろう。

 ドライビングポジションを合わせ、イグニッションキーを回した。キャブ仕様のクルマの始動性は個体差がある。1回アクセルを踏み燃料をキャブに吸入してセルを回さないと始動しないエンジンもあったりする。そんなことを考えながらセルを回すと、すぐに12気筒エンジンが鼓動を始めた。

 512シリーズは、ガラス面が大きくAピラーが細いこともあり車体の見切りがいい。ルームミラーの後方視認性もいいから初めて乗る個体でも不安感がない。

 水温油温が温まっていることを補助メーターで確認してクラッチペダルを踏みシフトレバーを1速に入れた。フェラーリにはシフトゲートがあってギアの間隔がわかりやすいからシフトミスの心配はない。2~3回ブリッピングしてクラッチをリリースすると素直に動き出した。

 一般道では尖った部分はなく平常心でドライブできる。ただし、一つネガティブな部分は、クラッチペダルがとにかく重い。公道には信号や一時停止があるので常にクラッチ操作が必要だ。

 後期モデルではだいぶ改善されているけど、前期のツインプレートクラッチは左足のトレーニングと言ってもいい。スーパーカーオーナーが年齢を重ねていくと古いマニュアル車に乗りたくなくなる理由がここにある。

■高速道路で跳ね馬の「嘶き」を聞け!

アクセルを踏み込めば官能的なエキゾーストノートが

 ポテンシャルを知るために高速道路に移動した。加速車線でアクセルを踏み込むと40Φウェーバーは息継ぎすることなく7000rpm付近まで気持ちよく跳ね上がる。

 大排気量の12気筒エンジンのトルク感がある胸のすく俊敏な加速は魅力的だ。とくに3000~6500rpmまでのレスポンスは心地よく、シフトアップするごとにパワーバンドにつながり加速してくれる。さらにご機嫌なのがエキゾーストノート。官能的で跳ね馬の「嘶き(いななき)」と表現したいほど惚れ惚れする。

 加速性能に対して気になるのがブレーキだ。高いスピード域からの減速は意外と制動距離が必要なので調子に乗り過ぎて飛ばさないことだ。

 512のブレーキは、前後ディスク式が採用されているが、マスターバックレスなので踏力の強弱でコントロールするスキルが求められる。とはいえ街中を普通に走っている限りブレーキに不安感はなかった。

 ラック&ピニオンが採用されたステアリングにパワステ機能はない。ハンドリングは、遊びが多くけっしてクイックなフィーリングではないが、一般道では不満はない。

 この時代のスーパーカーに共通しているのは、速度域が高くなるにつれてフロントが浮くような感覚があり直進安定性は褒められたものではないが、旋回性は高く評価できる。

 コーナリングのよし悪しは装着したタイヤでかなり評価が変わるが、前後ダブルウィッシュボーンが採用されたサスペンションは、嫌な固さもなく乗り心地はまさに高級サルーン。

 以前、後期型を試乗した際にも書いたが、先代モデルの365と比較するとリアサスペンションの動きが飛躍的に改善されている。

 コーナーで旋回状態に入るとステアリングを握る手のひらにフロントタイヤの接地感が伝わってくるから限界域が判断しやすい。そしてアクセルを踏みトラクションをかければ、フロントノーズが内側に巻き込みながら危なげなく曲がってくれる。

 ノーマルサスペンションのロール感は否定できないけど、旋回姿勢は安定している。エンジンが水平対向で低く搭載できたことと、トランスミッションを一体化してマウントしたことで前後の重量バランスがいいのだろう。

 512BB前期モデルの生産台数は929台。現存している個体が何台あるのか不明だが、今回も1970年代の貴重なスーパーカーをインプレッションできたことに感謝しかない。

■Tipo F102B型 エンジン解説

縦置き180°V型エンジンは搭載位置を低くすることでMRとしての運動性能に貢献。跳ね馬伝統の180°V型12気筒エンジンはテスタロッサへと継承されていく

 365GT4/BBに搭載していた4.4L180°バンク12気筒エンジンを5Lにボアアップ。512BB初期モデルの燃料吸気システムは40φトリプルチョークのウェーバー4基を装備。

 排ガス規制の問題で排気量が600ccも増したにもかかわらず最高出力は360psと先代モデルよりも20ps落ちたが、中間トルクは若干ではあるが向上した。

 気候によって左右される傾向にある気難しいキャブレター仕様ではあるが、低速域から高回転まで息継ぎすることなく力強く加速する感覚はKing of Supercarと称される納得のポテンシャル。

 縦置きにしたドライサンプ式180°V型エンジンは搭載位置を低くすることでMRとしての運動性能に貢献している。跳ね馬伝統の180°V型12気筒エンジンはテスタロッサへと継承されていく。

 パフォーマンスカタログデータは0-100km/h加速は5.7秒、0-400m13.7秒。最高速度はスーパーカーの指針といってもいい302km/hを謳っていた。

●Ferrari 512BB 主要諸元
・全長×全幅×全高:4400×1830×1120mm
・ホイールベース:2500mm
・車両重量:1570kg(乾燥重量1400kg)
・エンジン形式:V型12気筒DOHC24バルブ
・総排気量:4943cc
・最高出力:360ps/6800rpm
・最大トルク:45.8kgm/4600rpm
・ミッション:5速MT
・駆動方式:MR
・サスペンションF/R:ダブルウィッシュボーン式
・ブレーキF/R:ベンチレーテッドディスク
・0-100km/h加速:5.7秒
・0-400m加速:13.7秒
・0-1000m加速:24.0秒
・最高速度:302km/h

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