これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。

 当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、現代でも先鋭的に映るスタイルが特徴のWiLL VSを取り上げる。

文/フォッケウルフ、写真/トヨタ

■異業種合同プロジェクト「WiLL」シリーズ第2弾!

 トヨタをはじめ、アサヒビール、花王、近畿日本ツーリスト、コクヨ、江崎グリコ、松下電器といった企業が参画し、21世紀における新たな消費スタイルへの適応と新市場創出を目指した異業種合同プロジェクトが「WiLL」である。

 リリースする商品は企業によって異なるが、いずれも「遊びゴコロと本物感」を共通コンセプトとして掲げ、ニュージェネレーション層に向けたさまざまなプロモーションを行ってきた。

 2001年に登場した「WiLL VS」は、トヨタが展開するWiLLブランド車の第2弾である。トップバッターである「WiLL Vi」と同様に個性的なデザインをセールスポイントとし、WiLLプロジェクトがターゲットとするニュージェネレーション層の感性に応えるべく開発された。

「WiLL」プロジェクトでは、「リラックス」「エモーション」「クリエイティブ」「クール」という4つのテーマに基づいてさまざまな商品展開や共同プロモーションを実施してきた。WiLL VSは「クール」商品として発売された

 スタイルは登場から20年以上を経た今も独特の個性が際立っている。ジャンルとしては5ドアハッチバックに属するが、一見するとクーペのようでもあり、アングルによってはセダンやワゴンと見紛えるほど印象が変わる。

 今どきはある一定のジャンルにとどまらないクルマが「理屈抜きにかっこいい」と評価されて人気になることもあるが、WiLL VSはそれを20年前に具現化していた。

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■ステルス戦闘機を想起させる先鋭的デザイン

 低くワイドに構えたバンパーと中央が突き出た押し出しの強い造形で構成されるフロントまわりは、「シャープ&ソリッド」という狙いを表現したもので、それまでハッチバックにはなかった新しいテイストを創出した。

 高いベルトラインが特徴的なサイドは、シンプルで引き締まったドア断面とするとともに、リアドアからバックウインドウまでプライバシーガラスを採用することでパーソナル感を漂わせている。

 リアはキャビン後端がググッと絞り込まれ、これがシャープなイメージの演出に効いている。ただ、当時はかなり先鋭的すぎて、自分のこだわりを重視した商品選びをするニュージェネレーション層でさえ、やや引き気味に見ていた感は否めない。

リアまわりは過度に飾ることなくあえてシンプルな造形としているが、それでも独特の個性が表現されている

 ブラックでコーディネートされた車内はシックな雰囲気を漂わせているが、コンビネーションメーターやシフトレバーなどは航空機をモチーフにデザインされており、センターコンソールにアルミパネルを多用するなど、随所に特別なクルマであることを強調するためのこだわりが散りばめられている。

 シートは単品ではなく左右一対でデザインされ、乗員ふたりの空間であることを強く意識させることに注力している。表皮はファブリック仕様を標準とするが、オプションの本革は座席中央部に艶のあるオーガニックバターンをエッチングし、異素材が織りなす絶妙なコントラストで大人の粋を演出していた。

 デザインを優先しているように思えるが、使い勝手に対する配慮もしっかりとなされており、前席を中心に使いやすい位置に収納スペースを設定。荷室スペースも普段使いはもちろん、旅行などのレジャーなどの用途も考慮したスペースを確保し、6対4分割可倒式シートも備えることで多彩なニーズに対応できる。

■見た目は個性重視でも走りは扱いやすい特性を重視

 エンジンは吸気バルブタイミングの連続可変に加え、吸・排気バルブのリフト量も制御するVVT Liを採用したBEAMS 2ZZ-GE型 エンジンと、低・中速域での扱いやすさとレスポンスのよさを両立したBEAMS 1ZZ-FE型エンジンをラインアップしていた。

 トランスミッションはいずれも高効率なスーパーフロートルクコンバーターを搭載した小型軽量なSuper ECTを組み合わせることで滑らかかつ応答性に優れた変速を実現。また、上位に位置付けられる2ZZ-GEエンジン搭載車は、ステアリングから手を離さずにシフト操作が可能なスポーツステアシフトマチックが採用されていた。

 サスペンションはフロントがジオメトリーの最適化を図ったレアームマクファーソンストラット式で、リアはトーコレクト機能付きトーションビームを備えたイータビーム式。スポーティな走りを想定してスプリング、アブソーバーおよびブッシュ類に専用チューニングが施していた。

 こうした作りがなされているなら見た目どおりスポーティに走れると思いきや、ルックスのわりにドライブフィーリングはいたって平凡。125~190PSの動力性能を発揮するパワーユニットや、専用チューニングされた足まわりの特性などが功を奏することなく、操縦性に機敏さは乏しく積極的に走りを楽しみたいユーザーにはいささか物足りなさを痛感させた。しかし、この緩さがいかにも“企画モノ”らしさを感じさせる「WiLL VS」ならではの特徴とも言える。

 走りが緩めとはいえ、安全性についてはクラストップレベルのパフォーマンスが与えられていた。高い水準の緊急回避運動性能を確保するとともにGOAボディを採用。ブレーキはフロントを大径ベンチレーテッドディスクとして優れた制動性能を確保したうえに、EBD(電子制動力配分制御)付きABSと、緊急制動時にブレーキの踏み込みが弱い場合に強い制動力が得られるブレーキアシストを全車に標準装備していた。

 現代のような運転支援機能は採用されていないが、運転席・助手席にプリテンショナー&フォースリミッター付シートベルトを備え、SRSエアバッグも装備。そのうえ40%ラップオフセット前面衝突試験を時速64km、フルラップ前面衝突試験および側面衝突試験を時速55kmで実施して進化させた衝突安全ボディGOAの採用は、万が一の状況に際してドライバーを含めた乗員に大きな安心感を提供し、ドライブを存分に楽しむことができた。

ステルス戦闘機をイメージしたスタイルは、「意志」や「未来」を表すWiLLのネーミングに合致したものと言える

 2002年1月には1.5Lエンジン搭載車や6速MT車を追加。さらに、「レッドスペシャル」や「ホワイトスペシャル」といった特別仕様車をインターネット限定でリリースするなど、意欲的な販売を展開していた。その甲斐あって、企画モノのわりに2001年から2004年の3年間での総登録台数は1万4950台と意外にも多い。

 WiLL VSが技術や機能でその後の自動車界に影響を与えることはなかったかもしれないが、「ステルス戦闘機」を標榜したスタイリングだけでも後世に語り継がれているというのは、企画モノとしての面目躍如なのではないだろうか。

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