2013年5月、フルモデルチェンジを間近に控えたレクサスISの先行試乗をプレイバック。BMW3シリーズをベンチマークに研鑽してきたスポーツセダンの雄は、ライバルを慌てさせることができる出来となったのか? 「99%市販モデル」に乗った!(本稿は「ベストカー」2013年5月26日号に掲載した記事の再録版となります)
文:国沢光宏/撮影:藤井元輔
■ハイブリッドが先行受注の約7割を占める人気ぶり
すでにベストカー1月10日号で先行プロトタイプの激賞試乗レポートをお届けしている次期型ISながら、発売直前の今回は“ほぼ”市販車と同じスペックを持つプロトタイプの試乗会が行なわれた。
果たして国沢光宏も激賞か? 最もスポーティな3.5L V6エンジン搭載の『Fスポーツ』から紹介しよう。当然ながらベンチマークはBMW328iだ。
Dレンジをセレクトし、占有されている箱根ターンパイクを走り出すと、サスペンションの仕上がりのよさに驚く。
今までFスポーツといえば、カタいだけで、質感イマイチだった。サスペンションストローク少なく、典型的な日本製スポーツモデルの延長といった感じ。
そんなことから、LSもGSもCTもすべてFスポーツより上質な乗り心地を実現している標準グレードを推奨してきたほど。
しかし次期型ISはFスポーツの仕上がりが抜群にいい! 小さい入力でもキチンと減衰力を出すダンパーを使っているんだと思う。
ダンパーで減衰力を出そうとすれば高度な技術や精度が必要。今までのトヨタ車は小さい入力を減衰特性少ないブッシュで対応していたため(いいダンパー使うよりコスト的に有利)、ブヨブヨしちゃったのだ。
結果、BMWのような澄んだ乗り心地を実現できなかったワケ。次期型ISに乗ると「BMWに届きましたね!」。
ちなみにFスポーツ以外のモデルを試してみたら、決して悪くないものの多少のブワブワ感&大きい凸凹通過時の唐突感残す。
ベースグレードのサスペンションについちゃ満足度高くありませんでした。
おそらくアメリカの先行試乗会で激賞された先行プロトタイプは、Fスポーツだったんだと思う。御予算あれば次期型ISはFスポーツを選ぶといい。ヨーロッパ車に勝るとも劣らず。
ニュルブルクリンクの旧コースでサスペンションを決めたらしく、徹底的に高速域のスタビリティを重視したようだ。
高速域のスタビリティだけ追求しちゃうと、低中速域の楽しさがなくなってしまう。遅い速度域で楽しさを追求すると、高速域でテールハッピーになりますから。
それでもBMWやベンツは低中速域での楽しさや「色気」を確保している。次期型ISの開発チームに聞いたら「安定性は譲れませんでした」。
ということですばらしい足回りながら、楽しさという点で少し物足りず。そいつをカバーしてくれるのがパワフルな3.5リッター+8速ATである。
キツい勾配続くターンパイクの上り区間だってグイグイ車速を乗せていく。速度リミッターなければ250km/h近い最高速が出ることだろう。
しかもトヨタ得意の「エンジン音チューニング」などしてあるため、気持ちよさを伴う。
3シリーズは現行モデルで4気筒ターボになり、パワーやトルクこそ充分ながらエンジンフィールという点で大いに物足りなくなった。
318馬力を発揮する次期型ISの3.5Lであれば、アクセル全開にすると、小気味よい変速を伴い気持ちよい加速をしていく。
エンジン重視のスポーツセダンなら、このIS350をもってベストかと思える(M3やAMG63Cのように特殊なモデルを除く)。
■「レクサスならでは」が欲しいハイブリッド
売れ筋になりそうなハイブリッドは、3.5Lと比べてしまうと明らかに物足りない。
聞いてみたらヨーロッパ仕様の最高速は200km/hとのこと。同等の実用燃費になるBMW320dの最高巡航速度が230km/h。
一方、ハイブリッドでアクセル踏むと、ウルトラマンの戦闘タイムより短い2分くらいで電池切れ。そこからは単に車重の重い2.5L 4気筒の性能になる。IS250の2.5L V6より遅いです。
聞けばヨーロッパ仕様にもディーゼルエンジン搭載モデルを設定しないそうな。意地でハイブリッドを押し通そうという作戦らしい。
ヨーロッパじゃ最高速200km/hのプレミアムカーなど通用しないかと。
ハイブリッド好きの私だって向こうに住んでいたら瞬時も迷わずディーゼルを選ぶ。また、アメリカはハイブリッド仕様をラインアップしない。日本専用車になってしまわないか心配だ。
また6速ATと組み合わされる2.5L V6は、残念ながらアイドルストップが付いていない(3.5Lもなし)。
今やアイドルストップが付かないプレミアムセグメントのモデルってアメリカ車だけ。
これまた価格的なライバルになるだろうBMW320iと比較すると、動力性能でもハンドリングでも実用燃費でも届かない。2世代続いてライバルである3シリーズの壁を越えられず?
期待していたのは、3シリーズが装備していない追突事故防止のための自動ブレーキ。今や軽自動車ですら自動ブレーキのニーズ大。社会的地位があると軽微な事故でも大騒ぎになる(有名人はTVニュースになっちゃいます)。
ボルボによれば自動ブレーキの装着率は世界中で日本がダントツに高いそうな。何と! 次期型ISの装備リストには自動ブレーキなし。
もう1つ。アメリカで販売するモデルなので当然『スモールオーバーラップ衝突』に対応しているかと思ったら、今までのトヨタの社内基準とまったく同じだという。
さらに追加すれば、なぜハイブリッドの電池は今や新型車のスタンダードになったリチウムでなく、旧来のニッケル水素なのだろうか?
プリウスαなんかグレード違うだけでリチウムを採用しています。ハイブリッド担当の技術者に聞いてみると「リチウムを使えば燃費も動力性能も楽しさも大幅に向上します」。
すばらしい足回りのFスポーツに乗りながら「う~ん!」とウナる。いろんな点で煮詰めきれていない感じ。
そういえばトヨタは先日大きな人事異動と組織変更を行ない、レクサスの開発トップが豊田章男社長になった。もしかしたら章男社長もレクサスに対し不満が多かったのかもしれません。
次期型IS、価格設定まで3シリーズより高くなれば(ハイブリッドは470万円の320dのベースグレードより高い可能性大)、楽な戦いにはならないと思います。
■国沢氏の採点
・BMW320iが100点ならIS250は60点
・BMW328iスポーツが100点ならIS350Fは100点
・BMW320dスポーツが100点ならIS300h Fは80点
(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。