2014年11月に逝去した自動車評論家、徳大寺 有恒。ベストカーが今あるのも氏の活躍があってこそだが、ここでは2013年の本誌企画「俺と疾れ!!」をご紹介したい。14代目クラウンへの試乗、日本はなぜプレミアムコンパクトを作るのが下手なのか? 免許はAT MTどちらを選ぶべき?? 穏やか、かつ豊かな筆致が随所で光る。

(本稿は『ベストカー』2013年5月10日号に掲載したものを再編集したものです/著作権上の観点から質問いただいた方の文面は非掲載とし、それに合わせて適宜修正しています)

■14代目新型クラウンに乗った

クラウンハイブリッドアスリート…次世代直噴D-4S採用の直4、2.5Lハイブリッドはクラウン専用のもの。JC08モード燃費23.2km/Lは1.5Lのコンパクトカーと変わらない低燃費だ

 すっかり春めいてきたと思ったら桜が散ってしまった。しかし、寒いよりも暖かい春のほうがいいに決まっている。

 3月には京都へ行って美術館めぐりなどをし、帰りに名古屋に寄り、ニュークラウンに乗ってきた。

 クラウンはビッグボアの4シリンダー2.5Lエンジンを搭載するハイブリッドが人気で、確かに静かでスムーズ、しかも安いときているので、売れるのもわかる気がする。

 元々はFWD向けのエンジンを変更して後輪駆動に使えるようにしている。車重が先代のV6、3.5Lを搭載していたモデルと比べると200kg近く軽くなって1640kgに抑えられた。これなら4発でも不満なく走れる。

 クラウンお得意の静粛性は保たれているものの、エンジン単体でみれば、やはり6気筒の比ではない。しかし、クラウンの目標であろうメルセデスベンツをはじめ、欧州のメーカーはマルチシリンダーから4発へと傾いている。

 その流れにトヨタは旗艦、クラウンから始めたということもできる。新しいクラウンハイブリッドの4発は高効率を求めて圧縮比を高くしているため、エンジンスタート時はやや甲高いメカニカルノイズが気になることもあるが、我慢の範囲だ。

 前述したが欧州のメルセデスもBMWもジャガーも4発へ移行している。コストと燃費のためだ。トヨタもやや遅れたが、ターボではなくハイブリッドで対抗できるのが大きな強みだ。

 クラウンのV6、3.5LのアスリートSは497万円、直4、2.5Lハイブリッドが410万円だから、もし私が買うとしたら直4、2.5Lハイブリッドのほうだろう。

 ライバルは今後登場する日産のスカイラインやビッグマイチェンが予定されるメルセデスのEクラスだろうが、燃費ということならマツダのディーゼルも世界ではライバルになろう。

 自動車を発展させてきたエンジンは、エレクトリックカーの時代を前に大きなテーマを持ってきた。私が思うにトヨタの4気筒ハイブリッド、フィアットの直列2気筒、メルセデスベンツとマツダのディーゼルは存在感のあるものだと思う。いずれにしても燃料をいかに効率よく使うかという話しである。

 燃料の話題といえば、日本近海に大量のメタンハイドレート発見というニュースだ。国内の天然ガス消費量の約100年分というから、大量だ。これをどう使うかについては時間とともにわかってくるだろう。それにしても1000mの海底から採取するというからすごいものだ。

■プレミアムコンパクト

トヨタ・プログレ…1998年誕生の「小さな高級車」は10代目クラウンとプラットフォームを共有(ホイールベースは共通の2780mm)しながら、全長を4500mm、全幅を1700mmに抑えた5ナンバーモデル。エンジンは直6の2.5Lと3Lだった

(読者からの「国産車はなぜ、このプレミアムコンパクトというジャンルのクルマ作りが下手なのでしょうか?」という質問に答えて)

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 日本にプレミアムカーがないからでしょう。強いて挙げればクラウンでしょうか、スカイラインも入るかもしれませんね。このプレミアムカーがないから、プレミアムコンパクトカーが生まれてこないんでしょう。

 日本社会でプレミアムカーを企画するのは無理でしょう。今やアメリカでもなくなりました。パッカードがなく、GMのキャデラックでしょうか。今や世界にはダイムラー・ベンツのメルセデスでしょう。

 日本ではブランドよりそのブランドがどんな歴史を持っているか、そして将来はどうかということをはっきりさせているメーカーがないでしょう。

 かつてトヨタが小さな高級車としてプログレを作ったことがありましたが、あまり売れませんでした。日本は小さなクルマの価値を認めないので、どんどん大きくなっていくのですね。しかし、高級な小型車が欲しいですね。

■免許はATか、MTか?

(就職に備え免許取ろうと考えている女子大生の方からの、「MT免許にすべきか、AT限定にすべきか」という相談に答えて)

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 AT限定免許もいいですが、できればMT免許にしてください。ただし、MTが乗れなくて不便なのはヨーロッパの田舎に行った時にレンタカーを乗らなければならない時くらいでしょう。

 時々小さな町のレンタカー屋にはMTしかないことがあります。古い面白いクルマがあり、マニアックな体験ができるかもしれません。

 もしも、それよりもとにかく早くクルマに乗りたいということであれば、AT限定免許を先に取り、後から改めて気になるクルマが生まれたら、MT免許を取ってもいいかもしれません。

 いずれにしても就職のために取った免許がきっかけで、クルマや運転が楽しいと思うようになってほしいと思います。

■老母とのドライブ

(介護施設に入った母を、桜の季節にドライブに連れ出したい、という読者の方のお話に)

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 私の考えではお母さんはあなたと会っていたいのでしょう。どこへも行かなくても一日中ゆっくりと花でも見ながらお話をしてはいかがでしょう。今年は花が咲くのが早かったぶん、暖かくなりました。きっとお母様にとって楽しい時間になるでしょう。

 親孝行は今しかできません。例えばデパートの地下に行けば、お二人の好みのものがきっとあります。それを二人ぶん買って、どこでもいい、二人で食べたらどうですか? きっとどこへも行かずともお母様は喜ばれるでしょう。

 どうぞ、二人の幸せが長く続くことを祈っています。

■デ・トマソについて

イノチェンティ・ミニはブリティッシュレイランド傘下のイタリア・イノチェンティ社がミニに新しいボディを載せ発売したモデル。丸っこいミニに対してこちらは直線基調。イノチェンティ社がデ・トマソに買収され発売されたのがイノチェンティ・ミニ・デ・トマソだ

(オリジナルのミニにベルトーネがデザインしたボディを載せたイノチェンティ・ミニが大好きだ、ダイハツエンジンのターボ・デ・トマソのじゃじゃ馬ぶりはヤバかった! という読者の方のお話に)

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 その昔デ・トマソのオーナーであるアレッサンドロ・デ・トマソさんにインタビューに行きました。

 しかし、この人は日本のことがあまりわかっていなくて話はトンチンカンでした。それでも面白く記憶に残る人でした。

 アルゼンチン出身のレーシングドライバーである、デ・トマソさんはパンテーラやマングスタなど面白いクルマをいくつかやりましたね。イノチェンティも楽しいクルマでした。ダイハツエンジンになった時にラバーコーンがストラットになり、現代的なクルマになりましたね。

 デ・トマソのベストはミドシップのヴァレルンガでしょう。美しいスタイリングやレーシングカーのような技術など見どころの多いクルマでした。

デ・トマソ ヴァレルンガ…1964年デビューでデ・トマソ初の市販モデルとなったツーシーターミドシップモデル。エンジンはフォード・コーティナにも使われた1.5Lで102馬力を発生。4MTはVW製で640kgと軽いボディを加速させた

■古い自動車カタログ

(300冊以上のクルマのカタログを集め大切にしている読者の方からの、「これまでに見たカタログのなかで面白いと思ったものがあれば」という声に)

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 自動車のカタログに写真が使われるようになったのは比較的新しいことです。それまではイラストレーションでカタログを作っていました。だからこのカタログ制作で有名人になる画家もいたのです。

 日本人では猪本義弘さんでしょう。アメリカではそれこそデトロイトが多くのアーティストを生み出しました。

 私の好きな画家はメルセデスベンツを数多く手がけたワルター・ゴチュケやゴードン・クロスビーですが、デトロイト出身の数名はいいと思います。時々モーターショー会場で売っていることがあります。もちろん高価です。

 あとはフォード・コルチナのカタログが好きで、これは写真で1956年冬期オリンピックが行なわれた“コルチナ・ダンペッツォ”を舞台にしたもので、これはよかったですね。

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