多くのクルマはどんなに高くたって納車した瞬間、大幅に価値が下がってしまうのがキホン。でもここ10年弱、クルマ好きの間で話題になっているのは「911なら買っても損をしない」という説。なぜそんなことが起きるのか、そしてその説は本当なのかを検証してみる。

文:藤野太一

■2000年前半までは911も普通の価格推移だった

もはや中古車相場で手に入れるのは困難になりつつある、ナローこと初代911。1000万円を下回る物件はもうお目にかかれないだろう

 911は、1963年にデビューし現行で8世代目を数える。初代の通称「ナロー」をはじめとし、「タイプ930」(1978~1989年)、「タイプ964」(1989〜1993年)、「タイプ993」(1994~1997年)と、ここまではいわゆる空冷エンジン搭載モデルだ。

 その後は水冷エンジンとなり「タイプ996」(1997~2004年)、「タイプ997」(2004~2011年)、「タイプ991」(2011~2019年)、そして現行の「タイプ992」(2019~現在)と代を重ねている。

 当たり前のことだが、中古車は本来、年を重ねるごとに安くなっていくもの。911とて例外ではなく2000年代前半は、「73カレラRS」のような一部の特殊なモデルを除いては、一般的なモデルと同様に右肩下がりの相場を形成していた。

 MTに比べて人気のないAT(ティプトロニック)仕様ならば、20年前なら964で200万円台、993で300万円台の予算で探すことが可能だった。

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■空冷人気から始まった911の価格高騰

信頼性の高さから、比較的近年まで手の出しやすい空冷911として扱われてきた964型

 しかし、2010年代中盤に世界的なクラシックカーブームが巻き起こり、中古車相場が高騰。海外のバイヤーが良質な個体の多い日本に買い付けにくるなど争奪戦が始まった。

 そうした中でまずナローから993まで4世代にわたって生産された空冷911の相場の暴騰がはじまった。

 一時の異常事態は収まったものの、現在964を中古車検索サイトで検索してみると(2024年5月末)、流通台数64台、最安値はカレラ4の1290万円、最高値はターボの4500万円となっている。空冷911の相場は高値安定が定着したようだ。

 一方、水冷モデルは中古車の例に漏れず順調な値下がりをみせていた。特にヘッドライトが異型の996は911ファンからも不人気でATなら200万円前後から流通していた。

 しかし、現在の相場は、走行距離10万km前後のカレラが約300万円、GT3やターボなら1000万円超のものもある。これは997や991も同様で、相場は順調に下がっていたものの現在は持ち直している傾向にある。

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■価格高騰をさらに進めた922型の新車価格

半導体不足や新車価格の高騰など、様々な要因があって中古車でも高値が続く992型

 そのひとつの要因としては現行型の992の新車価格帯が大きく上がったことが考えられる。先日発表された992の後期型ではベースのカレラが1694万円〜という価格設定であり、中古車検索サイトで992を探すと最安値は1580万円(2020年式カレラ)となっている。

 この高値安定は、コロナ禍において富裕層による高級車ブームが起きた一方で、半導体をはじめとする部品供給不足で生産が追いつかない事態が起きていることも理由のひとつ。世界的にも相当なバックオーダーがあるようで、いきなりディーラーへ行っても注文できないようだ。

 これはポルシェに限ったことではなく、例えばメルセデス・ベンツGクラスやトヨタのランクルシリーズ、日産GT−RやZなど、世界的に人気のモデルで同様の現象が起きている。

 中古車とは本来値下がりするものだ。だから911を買って損をするかしないかをここで断言することは難しいが、しばらくこの高値安定傾向が続くことは間違いないだろう。

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