今や多くの国々に普及した自動車は物流に必要なトラックだけでなく、誰もが使える移動手段である乗用車も発展し、それぞれの国の経済を豊かにしてきた。そんな乗用車の発展には国民車と呼ばれるモデルの存在があったのだ。

文:西川昇吾/写真:フォルクスワーゲン

■ビートルでお馴染みのフォルクスワーゲンタイプI

当時としては整備の手間が少ない空冷エンジンが採用され、車内空間を確保するためにRRレイアウトを採用した

 国民車の代名詞的な存在がフォルクスワーゲンタイプIだ。「ビートル」の名で親しまれているこのモデルは、大戦前に考えられたクルマだ。

 1938年には量産に近いプロトタイプが完成していたそうなのだが、大戦が始まり本格的な生産開始は叶わなかった。実質的なタイプI元年は1945年と言えるだろう。

 高い整備性、1家庭が乗れる車内、アウトバーンでの高速道路と燃費性能の両立の実現、そして国民車として重要な安価な価格、などの性能が求められた。

 こうして当時としては整備の手間が少ない空冷エンジンが採用され、車内空間を確保するためにRRレイアウトを採用。ビートルの愛称を得たボディデザインは高速域での空気抵抗を減らして低燃費を実現するためのものであった。

 こうして誕生したタイプIは世界でも受け入れられる高性能となっていて、1947年には輸出がスタート。2003年まで生産され、2000万台以上が生産された。この記録は量産車世界一の記録である。

 ドイツでの生産は1978年が最後となっているが、ブラジルやメキシコでは長年生産された。ドイツだけでなく、この国々の自動車の発展にも貢献したと言えるだろう。まさに世界の国民車だ。

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■RRで理想を追い求めた日本

空冷エンジン、そしてRRレイアウトが採用されたスバル 360

 日本における国民車と言えばスバル360だ。スバル360は1958年に登場した。

 当時の軽自動車規格の中で、小型車並みの性能を実現し製造原価を低減すること、大人4人が座れる車体スペースがあること、快適な乗り心地を実現していることなどを目標としていた。

 簡単にまとめれば「安い、小さい、車内広い、高性能」といった具合だ。

 これを実現するために空冷エンジン、そしてRRレイアウトが採用されたあたりは何だかタイプIに似ている。

 当時の技術で似たようなコンセプトの国民車を造るとなると、必然的に似通ったパッケージになるということだろうか。

 そして当時としては最新の技術であったモノコックボディを採用しているのが360の先進的なポイント。モノコックボディとすることで、軽量化を実現した。

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■軽量化のためにRRレイアウトにしたフィアット500

こちらも軽量化を重視したがその一環としてキャンバストップが採用されていた

 ルパン三世でお馴染みフィアット500も国民車だ。現行の500のデザインも相まってか、有名な500が初代と思われてしまうかもしれないが、実はこのモデルは2代目なのだ。

 ただ、より小さく安価で多くの人に求めやすく…そんな国民車としてのコンセプトを掲げて開発された背景がある。初代と2代目では目指したところが違うとも言えるだろう。

 1955年に登場した2代目、空冷2気筒をモノコックボディのRRレイアウトに搭載する…というあたりはスバル360と同じだ。こちらも軽量化を重視したがその一環としてキャンバストップが採用されていた。

 オシャレなイメージがあるキャンバストップだが、実は性能を求めた結果生まれたアイデアなのだ。それが復活した500でも生きているのだから面白い。

 実は当初は非力すぎるという理由でセールスは振るわなかったらしい。改良を施しバリエーションを増やすことにより、1960年代には国民車として広く普及することが出来た。

 他にも国民車として名前が挙げられるモデルはいくつかあるが、今回取り上げた3モデルに共通していることは空冷エンジンとRRレイアウトといったところだろうか。

 時代的にも水冷はまだ信頼性が十分でなかったため、堅牢でコスト的にも有利な空冷エンジンが採用され、FFという駆動方式が技術的に確立される前だったのでRRレイアウトで車内空間を確保したといったところが共通点と言える。

 安くて、頑丈で、スペースが取れる。そんなクルマが国民車として求められたのだ。

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