コンパクトミニバンカテゴリーでしのぎを削るシエンタとフリード。2023年度は単一車種ではシエンタがナンバーワンとなり、それは2024年5月まで変わっていない。シエンタの底力はいったいどこにあるのか?

文:渡辺陽一郎/写真:ベストカーWeb編集部

■単一ボディならシエンタが2023年の登録車ナンバーワン

トヨタシエンタは登録車販売台数3位ながら単一車種としては実質ナンバーワンだ

 2023年度(2023年4月~2024年3月)の小型/普通車国内登録台数ランキングを見ると、1位:ヤリス、2位:カローラ、3位:シエンタだ。このうち、ヤリスとカローラはいずれも複数のボディタイプを合計したシリーズ全体の台数になる。

 単一ボディでは、シエンタが実質1位だ。この高人気は今も続き、2024年の4月と5月も、小型/普通車国内登録台数ランキングの上位3車は変わらない。

 シエンタはフリードと並ぶコンパクトミニバンの主力車種で、現行型は3代目だ。現行型の発売は2022年8月だから、2024年5月には2年近くが経過していた。それでも販売は前述のとおり堅調で、2023年度の登録台数は前年の1.3倍、2024年4月も1.1倍で、同年5月は減ったもののマイナス3%に留まった。

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■ユーザー層が幅広いシエンタ

シエンタはそのサイズ感のよさもユーザーから支持を得ているとディーラー関係者はみる

 シエンタの販売がここまで好調な理由は何か。販売店では以下のように返答している。

「シエンタはさまざまなお客様から選ばれています。まずはヤリスやアクアなど、コンパクトカーからの乗り替えですね。子供ができたりしてミニバンが必要になり、シエンタに乗り替えられます。一度、子育てを終えたお客様に孫ができて、遊びに来た時のためにシエンタを購入することもあります」

シエンタのラゲッジスペース。開口部高も低めでユーティリティを考えられている

 トヨタには売れ筋ミニバンのノア&ヴォクシーもある。スライドドアを装着する背の高いコンパクトカーのルーミーも用意している。それでもなぜシエンタが多く売られるのか。

「ノアとヴォクシーのサイズは決して大きくないが、ミニバンに不慣れなお客様は、背が高いと大柄で運転しにくく感じます。ノアやヴォクシーでは不安だから、シエンタを選ぶお客様も多いようです。またルーミーも人気車で、シエンタのように荷物も積みやすいのですが、2列シートだからミニバンではありません。ハイブリッドが選べないことも、シエンタとの大きな違いになります」。

■コンパクトでも車内は広く、ハイブリッドの設定もメリット

ルーミーには設定のないハイブリッドを設定しているのもシエンタならではの強みだという

 ミニバンが実際のサイズよりも大きく見えるユーザーは多い。そのためにシエンタの開発者は「全長を4300mm以下(先代型と同じ4260mm)に抑えることは、開発の大切な条件だった」と振り返る。

 シエンタは全高も1695mmで、1700mm以下に抑えた。ノア&ヴォクシーは、全長が4695mm、全幅は1730mmの3ナンバーサイズで、全高も1895mmと高い。ノア&ヴォクシーを見た時に「大きくて運転しにくそう」と感じるユーザーに購入してもらうには、シエンタの全長を4300mm以下、全高も1700mm以下に抑えてコンパクトに見せることが絶対に必要だった。

 ちなみにライバルの新型フリードは、フルモデルチェンジを行って全長が4300mmを超えた。全高は以前から1700mmを上回る。フリードの全幅はAIRが5ナンバーサイズをキープしたが、SUV風のクロスターは1720mmに広がって3ナンバー車になった。つまりフリードは、シエンタとは対照的に、コンパクトでも大きく見えるミニバンらしさを重視する。

 前述の販売店ではシエンタとルーミーの違いについて、シート配列と乗車定員のほかにハイブリッドの有無も挙げていた。ルーミーにはハイブリッドが用意されないが、シエンタでは選択できる。

 そしてシエンタの登録台数に占めるハイブリッド比率は70~80%に達する。つまりコンパクトで車内の広いハイブリッド車を求めるユーザーが、必然的にシエンタを選んでいる事情もある。

■価格の安さもシエンタの武器

シエンタのインパネ。明るく開放的なイメージに仕立てられている

 シエンタが好調に売られる理由として、価格の安さも挙げられる。中級グレードの「ハイブリッドG」(7人乗り)は、衝突被害軽減ブレーキ、運転支援機能、低速域で衝突被害を軽減させるパーキングサポートブレーキ、後方の並走車両を検知するブラインドスポットモニター、両側スライドドアの電動機能などを標準装着して、価格は272万7500円だ。

 ノア「ハイブリッドG」(7人乗り)の価格は、シエンタハイブリッドGよりも約60万円高い332万円だ。しかもアルミホイールは標準装着するが、ブラインドスポットモニターと右側スライドドアの電動機能は、シエンタハイブリッドGと違って標準装着されずオプション設定になる。このようにシエンタは、ノア&ヴォクシーと比べて、買い得度でも明らかに上回る。

 言い換えればシエンタは、ノア&ヴォクシーの大きく見える外観、主力グレードが300万円を超える価格などを敬遠するユーザーを視野に入れて開発された。実際にシエンタは狙いどおりの役割を果たして、好調に売られているわけだ。

筆者と2024年6月登場の新型フリード

 そしてこの特徴は、唯一のライバル車とされるフリードとの競争でも有利になる。特に新型フリードは前述のとおりボディを拡大させ、外観の見栄えも立派になった。価格も先代型に比べると、装備の違いを補正して10万円ほど値上げされている。

 シエンタ「ハイブリッドG」(272万7500円/7人乗り)に相当するフリードは、e:HEV 「AIR EX」(304万7000円/7人乗り)だ。フリードe:HEVAIR EXには、シエンタハイブリッドGが備えていないアルミホイール、前席シートヒーター、後席クーラー、本革巻きステアリングホイールなどが備わるが、価格差はさらに大きく約32万円に達する。

シエンタの前席シートと2列目シート

 シエンタはフリードに比べて価格が安く、燃費も優れ、運転しやすい印象がある。フリードは価格が高い代わりに、外観が立派で2列目にはセパレートタイプのキャプテンシートが用意され、ミニバンらしさが濃厚だ。両車ともコンパクトミニバンだが、コンセプトやターゲットにしているユーザーが異なるため、今後も共存が可能だろう。

■トヨタとホンダで自社銘柄との棲み分け方が違う

シエンタの場合、同じトヨタ車のクラスが違うカテゴリーのモデルとはかぶらないように絶妙に棲み分けしていると筆者は分析

 注目されるのは、同じメーカーが用意するミニバンとの関係だ。フリードは立派な外観やキャプテンシートを備えるため、ステップワゴンと競争する可能性もある。対するシエンタは、前述のとおりノア&ヴォクシーとは商品特性を明確に分けている。

 ここがトヨタと、ホンダを含めた他社との大きな違いだ。トヨタは車種を豊富に用意するから、コンセプトや価格が重複しやすいが、ラインナップを見ると巧みに区分している。これはセダンが全盛だった時代から続くトヨタの伝統だ。

 カローラ/コロナ/マークII/クラウンでは、車内の広さや走行性能だけでなく、見栄えや質感、存在感、ターゲットユーザーが明らかに違っていた。同様のことがシエンタ/ノア&ヴォクシー/アルファード&ヴェルファイアにも当てはまる。

 トヨタ車は身内との共存や繁栄も考慮して開発され、国内で登録される小型/普通車の約50%を占めている。

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