トラック、バス、タクシーといった自動車運送業や自動車整備業では担い手不足が大きな課題となっているが、国土交通省は防衛省や業界団体と連携し、退職自衛官の活用を目指すことを発表した。

 まさに「即戦力」として期待される退職自衛官だが、本誌「フルロード」に寄稿しているトラックドライバーの迦月さんも、実は退職自衛官。そんな彼女の話を交えつつ、今回の自衛隊における人材確保の取り組みについてご紹介しよう。

文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部、図/国土交通省

「即戦力」の退職自衛官に着目

毎年退職する自衛官は多く、人手不足が深刻化する貨物・旅客運送業界等において即戦力として再雇用する取り組みが始まっている

 担い手不足が深刻化している自動車運送業や自動車整備業に退職自衛官を活用しようというアイデアはなかなかユニークだと思うが、その発想はどこから生まれたのだろう? 

 実は、多くの自衛官は50代半ば(若年定年制自衛官)や20~30代半ば(任期制自衛官)で退職するそうで、その人数は令和4年度で合計約8800名に達するという。

 また、職業訓練を通じて年間1500名程度が大型自動車運転免許、普通自動車第二種運転免許、自動車整備士等の資格を取得しているなど、退職自衛官は自動車運送業や自動車整備業にとって、まさに期待の「即戦力」なのである。

 このため、国土交通省・防衛省・業界団体(日本バス協会、全国ハイヤー・タクシー連合会、全日本トラック協会、日本自動車整備振興会連合会)との間で申し合わせを締結し、全国各地で業種説明会や運転体験会等の取り組みが実施されやすい環境を整備することで、退職自衛官の自動車運送業や自動車整備業への更なる再就職を後押するという。

帯広運輸支局(十勝地区バス・ハイヤー・トラック協会)と帯広地方協力本部の連携事例(令和5年11月)
こちらは自衛官採用情報をラッピングしたトラックの連携取組。ベストライン(奈良)と奈良地方協力本部の事例(令和6年4月)

 申し合わせの概要は、前述の各組織の地方組織、または会員である地方運輸局、自衛隊地方協力本部等、都道府県バス協会、都道府県ハイヤー・タクシー協会、都道府県トラック協会、都道府県自動車整備振興会との間で、以下の取り組みについて一層の連携を図るもので、

[1]自動車運送業等における人材確保と退職予定自衛官の円滑な再就職支援に関する取り組み
 ・採用に関する広報の積極的な実施(必要な資格、勤務環境、労働環境改善に向けた施策等の積極的な広報)
 ・業種説明会、車両運転体験会およびインターンシップの実施
 ・職業訓練等の充実
[2]自衛隊における人材確保の取り組み
[3]予備自衛官等制度に関する取り組み

などを行なうとしている。

元自衛官のトラックドライバーに聞いてみた

トラック等の運転免許を所持する自衛官は多く、即戦力として期待がかかる

 この取り組みについて、元自衛官で現トラックドライバーの迦月さんに聞いてみた。

 「良い取り組みだと思います。もちろん自衛官だからといって、すべての隊員が資格を取得をしているわけではないし、向き不向きなど個人差があると思いますが、全般的にこういった職業に向いているのではないでしょうか」。

 ちなみに迦月さんは18歳で陸上自衛隊に入隊し、武器科所属で4年後に任期満了により退職している。

 実は迦月さんは普通免許を持っておらず、いきなり大型免許を取得したのだが、それは自衛官は職務上19歳からいきなり大型免許を取ることができるからで、迦月さんも20歳にして大型免許保持者となった。

*現在は2022年5月13日より一般の人でも大型免許の取得条件が19歳以上に引き下げられたが、当時の条件は21歳以上かつ普通免許保持3年以上であった。また自衛隊では、今でも19歳から大型自動車免許を取得できるが、2007年6月2日の道路交通法の改正後は、中型免許の新設とともに「大型車は自衛隊用自動車に限る」の限定条件が付加される。

 「とはいえ輸送科勤務だったわけでもない私は、その免許を活かすことができないまま、4年の任期をまっとうしました。次の就職先を探すにあたり、せっかく大型免許があるのだからその資格を活かしたいと当時の上官に相談したところ、はじめは冗談だと思われたみたいです。それでもしぶとく希望を出して、再就職支援センターを通じて地元の大きな土建会社に無事転職。晴れて10トンダンプの運転手に転職を遂げました」。

 退職自衛官が第二の人生を選択する際、暮らしと社会を支える担い手になることには何ら抵抗がない。自動車運送事業における人材確保のために再就職支援の取り組みに期待したい。

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