ベストカー本誌で30年も続いている超人気連載「テリー伊藤のお笑い自動車研究所」。過去の記事を不定期で掲載していきます。今回はトヨタ RAV4(2018年-)試乗です!(本稿は「ベストカー」2019年8月26日号に掲載した記事の再録版となります)

撮影:西尾タクト

■世界で一番売れているSUV日本復活!!

トヨタ RAV4 Adventure(CVT・317万7400円)。世界中で売れているRAV4が日本でも復活! たくましさを増してヒット中のこのクルマをテリーがチェックした!

 2016年に日本での販売を中止したRAV4が復活。5代目となる新型が今年4月に登場し、大ヒットしているという。

 日本での需要は見込めないと判断されたクルマが、モデルチェンジしてヒット車になる。日本が目指す再チャレンジ社会にふさわしい現象だが、そんな大げさな話でないのはわかっている(笑)。

 ただし、復活させる限り、絶対に失敗は許されないというトヨタの恐ろしさが詰まったクルマであることは確かだ。

 RAV4といえば、キムタクがCMに出ていた初代の印象が鮮烈だ。

 1994年にデビューした初代は、私も真剣に購入を検討したクルマだった。RAV4かスプリンターカリブかRVRか? 迷いに迷ってRVRを買ったものだが、昔のクルマの話はどうしても長くなるので以下、割愛。

 そんな初代好きからすると、新型RAV4にはちょっと異論がある。「こんなに大きくなってしまった」とか「ゴツさが目立つばかりで爽やかさが足りない」とか、あら探しするといくつでも出てきそうだ。

 しかし、ここで求められるのはオトナの男としての対応だ。

 明らかに整形している女性に対しても、眉ひとつ動かさず「きれいだね」と言えるくらいの懐の深さ。

「こんなのはRAV4じゃない!」と言いたい気持ちをぐっとこらえ「よく帰ってきたね」と言ってあげるのがオトナの対応というものだろう。

 走らせてみても確かによくできている。今回は2Lのガソリン車に乗ったのだが、一般道を普通に走っているぶんには静かだし、乗り心地もよく凄く快適。

 アクセルを強く踏み込むと、急にチープなエンジンフィールになるのは残念だが、いかんいかん、そういう細かな不満は心に留め置き、「そこもいいね」と言ってあげるのがオトナの所作である。

2Lガソリンエンジンは静かで上質だが、回すとチープ感が出てきてしまう

 話は変わるが、先日、ある人にアメリカ車好きにはふた通りあり、黒人が好むアメ車が好きな人と、白人が好むアメ車が好きな人がいるといわれた。

 その視点は初めてで「なるほどな」と納得したのだが、彼が分析するに、どうも私は白人が好むアメリカ車好きになるようである。

 例えば同じチェロキーでも、黒いボディでハデにするのが黒人の好みだとしたら、ウッドパネルを貼ってオシャレにするのが白人の好み。そう言われると、確かに私はそちらに分類される。

■狙いどおりに売れるクルマを作る凄さに脱帽

車両価格300万円ちょっとのクルマとしては、望外ともいえる上質感。ヒットするのがよくわかる

 なぜこんな話をしているのかと言うと、新型RAV4をこのふたつに分けると、黒人好みに入るからだ。

 特別ハデではないかもしれないが、少なくともオシャレなクルマは目指していない。私が好きだった初代とはそこが明確に異なっているのだ。

 初代と新型は車名こそ同じRAV4だが、それ以外はまったく別のクルマになったということだ。

 それを批判しているのではない。トヨタは今、必要とされているクルマを作り上げたということなのだ。その結果、販売は好調に推移しているのだから、今のところ「成功」ということなのだろう。

 違う言い方をすれば「分母の広いところを狙い、その狙いは的中している」ということだ。

 私から見れば、新型RAV4のデザインはちょっと大衆に寄りすぎている感じがする。しかし、そんなことはデザイナーもわかっているはず。

 例えば、テールランプはもっと小さくてシンプルなデザインがいいと思っていたとしても、それだと一般ウケしないから、わかりやすく大きなものにする。そして、その安心感が売れゆきに繋がる。

 クルマのデザインのよし悪しは風景に左右される面がある。日本、海外、あるいは同じ日本でも東京と京都で似合うクルマは異なるし、もちろん、エジプトの砂漠とパリのシャンゼリゼ通りでも大きく変わる。

 そんななかで、新型RAV4は世界中で売れているというから凄い。

 ゲタがわりのベーシックカーならともかく、趣味のクルマが世界中で支持されるのは並大抵のことではない。そのマーケティング能力の高さは恐ろしいほどである。それは認めざるを得ない。

運転もしやすいし、とにかく万人向け。トヨタはこういうクルマを作らせたらピカイチである

 さて、ここからちょっと面倒くさいことを言う。

 大衆の好みを正確に分析し、大多数に愛されるクルマに仕立てるというのが、私にはどうにも肌に合わない。正直に言って、そういうクルマ作りの過程が透けて見えると、醒めてしまうのだ。

 世界中のクルマユーザーのデータを集め、AI(人工知能)が最適解を出し、それに沿ってクルマを作る。

 わかっている。もちろん、こんなことは私の妄想だとわかっているのだが、そんな「気配」がするクルマを私はどうしても愛せない。せっかく新車を作るなら、進塁打や送りバントではなく、一発長打を狙ってほしいのだ。

 新型RAV4は売れるのがよくわかるスキのないクルマだった。しかし、私は彼(新型RAV4)とは仕事以外の付き合いができそうにない。クルマに罪はないのだが!

●テリー伊藤 今回のつぶやき!

 満を持して日本に復活させたRAV4は狙いどおりにヒット中。ただし、もう少し大振りしてもよかったのでは?

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