クラウドブルーというカラーにオプションの20インチホイールを装着した今回の試乗車(筆者撮影)

昨年6月、イタリアのミラノで発表されたボルボの新型電気自動車(BEV)「EX30」のデリバリーが、日本でも今年2月に始まった。

ボルボはすべての車種をBEVにすると宣言しているブランドのひとつ。すでに日本でも、「C40 Recharge」と「XC40 Recharge」がBEVだ。このうち、C40 RechargeはBEV専用車種となっている。

しかしながら、C40/XC40 Rechargeのプラットフォームは共通で、XC40にはマイルドハイブリッド車(MHEV)もあるので、BEV専用設計ではない。これに対してEX30のプラットフォームは、現在ボルボが属するジーリー(吉利)グループの他のブランドを含めて、BEV専用であることが特徴だ。

左:C40 Recharge、右:XC40 Recharge(写真:Volvo Cars)この記事の画像を見る(18枚)

BEV専用車らしいプロポーション

日本仕様の実車を前にすると、専用設計を生かしていることをまず感じる。真横から見たとき、他のボルボよりノーズが短く、キャビンが長いプロポーションを持っているからだ。テスラ各車や日産「アリア」など、BEV専用プラットフォームを持つ車種に近いフォルムになった。

フロントのオーバーハングが短いプロポーションも、エンジンを搭載しないBEVならでは(筆者撮影)

それでもボルボらしく見えるのは、厚みを持たせたショルダーラインや、頑丈そうなグリップ型ドアハンドルなどのおかげだろう。自分たちの立ち位置を理解していると感心した。

フロントマスクは、C40/XC40 Rechargeではグリルのあった位置をパネルとしてBEVであることをアピールしていたが、EX30はもっと思い切っていて、顔全面をフラットなパネルとして、中央にロゴマークを置き、左右の角にヘッドランプを置いた。

グリルレスのデザインを昇華させ、顔全面をフラットなパネルとしていることが特徴(筆者撮影)

北欧神話をモチーフにしたトールハンマー型ヘッドランプは、矩形のレンズの中にハンマーを入れるのではなく、LEDでハンマーを描いてフロントマスクの隅に置いており、そこから伸びる黒い枠が顔の輪郭を描いている。ハンマーは通常はデイタイムランプだが、ウインカーを出すとその方向だけオレンジの点滅に変わる。

ボルボ伝統の縦長コンビランプやXC40などに通じる2トーンルーフがボルボらしさを感じさせる(筆者撮影)

リアはボルボ伝統の縦長コンビランプを上下に分割し、下側はフロントマスク同様、パネル全体を黒い枠で囲んでいる。フロントに比べると要素が多い印象だが、下側のランプの中にストップランプやウインカーを収めたレイアウトはXC40と似ており、そこにフロントと同じ枠を融合させたと理解できた。

ディテールでは、ドアミラーがフレームレスであることが特徴だ。鏡面の汚れなどが気になるところではあるが、ミニマムなデザインへのこだわりは感じる。

フレームレスとしたことで視界を最大限に広げたドアミラー(筆者撮影)

EX30は、ボルボとしてはコンパクトであることも特徴のひとつ。サイズは全長4235mm×全幅1835mm×全高1550mmで、全長はトヨタで言えば「ヤリスクロス」よりやや長い程度。BEVで言えばBYD「ドルフィン」が近い。

ボディカラーは5タイプを用意。かつての「1800ES」や「850 T-5R」などを思い出すモスイエローにまず目が行くが、試乗車のクラウドブルーも、イエローほどの存在感を出さずに北欧感を醸し出す、絶妙な色だと思った。

テスラ流でもボルボらしさあふれるインテリア

インテリアでは、まず運転席の前にメーターがないことに気づく。

シンプルさが強調されるインテリア。フロントウインドウ下端にサウンドバーが設置される(筆者撮影)

目の前にあるのはドライバーモニタリングシステムのセンサーだけで、ボルボではおなじみの縦長のセンターディスプレイに速度計などを一体化し、ドアなどに点在していたオーディオのスピーカーをインパネ奥にサウンドバーとしてまとめているのだ。

メーターをセンターディスプレイに集約する手法はテスラ流とも言えるが、速度計などを最上段にまとめ、中央にナビゲーションやエンターテインメント、下にエアコンと機能別にゾーンを分けているのは見やすいし、アイコンや文字が北欧らしいスマートなデザインであることも好ましい。

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縦型であることをうまく使ったセンターディスプレイのさまざまな表示(筆者撮影)

サウンドバーはホームオーディオのデザインからインスピレーションを受けたそうだが、スピーカーをひとつの部品にまとめ、ドアではなくボディ側に置くことで、配線や材料の量を減らし、リサイクルを容易にするという目的もあるという。パワーウインドウのスイッチをセンターコンソールに集約したことも、同じ理由とのことだ。

スピーカーやパワーウインドウスイッチを廃したドアトリム(筆者撮影)

おかげでドアトリムはすっきりしていて、フローティングタイプのアームレスト兼グリップや大きなドアポケットなど、それを生かした造形となった。アームレストに内蔵され、先端を押すとゆっくりせり出すカップホルダーの使いやすさも印象的だ。

その下のトレイはリッドの付いた2段式になっていて、スマートフォンの非接触充電は、奥のホルダーに差し込んで立て掛けて行うタイプ。このあたりのデザインやタッチも五感に心地よく、IKEAやエレクトロラックスなど、同じスウェーデンの製品に共通するものを感じた。

カップホルダーやパワーウインドウスイッチはセンターコンソールに集約(筆者撮影)

サウンドに合わせて「揺らぐ」アンビエントライト

アンビエントテーマにも触れておきたい。

アンビエントライトはただ光るだけでなく、サウンドに合わせて光が揺らぐ演出(筆者撮影)

センターディスプレイで5種類のイルミネーションが選べるところは他車でもおなじみだが、それに合わせたヒーリングミュージックも用意され、サウンドに合わせて光が揺らいでいく。ボルボらしい演出だと思った。

インテリアカラーは、ブリーズとミストの2タイプの設定があり、いずれもシート素材やデコラティブパネルにはリサイクル素材を使用している。

廃材やリサイクル材を多用したこともEX30の特徴のひとつ(筆者撮影)

試乗車が採用していたブリーズでは、シートのファブリックはピクセル風で、パネルは同系色のフレークをまぶしており、無味乾燥にしないという配慮に感心した。

スペースはボディサイズ相応で、後席にも身長170cmの筆者が楽に座れる。床下には駆動用バッテリーが敷き詰められているが、フロアの高さは感じない。シートの座り心地はボルボらしい、体を優しく受け止めてくれるタイプだ。

背後の荷室はフロアが上下2段に設定可能で、フロントにも荷室がある。リッドの裏に北欧風のイラストが描かれるなど、細部までデザインに手を抜いていない。

フロント(ボンネット)のコンパートメント。リッド裏に描かれるイラストがかわいい(筆者撮影)

日本でまず発売されたのは、「EX30 ウルトラ・シングルモーター・エクステンデッドレンジ」というグレード。バッテリーの容量は69kWhで、満充電での航続距離はWLTCモードで560kmと、十分な性能だ。

メインスイッチはなく、ペンダントのような四角いキーにもロックボタンはない。キーを持って近づくとロックが解除され、キャビンに入ると自動的にスタンバイになる。あとはシートベルトをして、テスラのようにステアリング右のレバーでDレンジを選ぶだけだ。

最高出力は272psもあるので、1790kgのボディを身軽に加速させる。それでいてレスポンスは穏やか。回生ブレーキは停止まで持っていくワンペダルモードも選べるが、こちらも予想以上にゆったり減速していった。

過剰な演出はせず、あくまでも穏やかで乗りやすさを重視していることが印象的だった(筆者撮影)

ボディがボルボとしては小柄であるうえに、目線が高めでノーズは短いので、取り回しはとても楽だ。乗り心地は、低速ではオプションの20インチタイヤのショックが伝わるものの、それ以外は穏やかだった。この面を重視する人は標準の19インチがいいだろう。

EX30はモーターをリアに置いた後輪駆動で、たしかに身のこなしは前輪駆動とは違う。とはいえ筆者が所有するルノー「トゥインゴ」ほど明確ではなく、穏やかなハンドリングであるところも、ブランドイメージにふさわしいと思った。

559万円の価格も魅力のひとつ

価格は559万円と、ひとまわり大きなXC40 Rechargeより120万円安く、マイルドハイブリッドのXC40より30万円高いだけ。

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ボディサイズが近いレクサスのハイブリッド車、「LBX」の上級グレード「ビスポークビルド」と同等だ。

スカンジナビアンデザインに共感している人はもちろん、そうでないユーザーも、この価格でこのデザインが手に入るということで、好意的に受け止めるのではないだろうか。

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