いすゞ自動車はこのほど、2030年度にグループ新車販売台数85万台、売上高6兆円・営業利益率10%の達成をめざす中期経営計画「ISUZU Transformation - Growth to 2030」(略称:IX)を発表した。この発表では、いすゞとUDトラックスの新型車投入計画の一部が明らかになっている。いったいどのようなクルマが投入されるのか、一部推測を交えつつ紹介しよう。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真・図版/フルロード編集部、いすゞ自動車、UDトラックス

いすゞとUDでモデル共通化

中期経営計画「IX」を説明するいすゞ自動車の南 伸介社長COO

 いすゞ自動車の南真介社長COOは、「(いすゞと)カルチャーが異なるUDとの組織的な統合はデメリットがある」として、いすゞがUDを吸収合併することは否定している。しかしトラック製品については、いすゞ・UDで共通化していくことを基本路線とし、同一のクルマを「いすゞ」「UD」の2つのブランドとネットワークで販売する方針だ。
 
 その第一弾として昨年3月、いすゞの大型トラック「ギガ」のトレーラ牽引用モデル(トラクタ車型)が、UDの「クオン」トラクタ車型をベースとした共同開発車(通称「上尾モデル」)へ移行した。これによって、セミトレーラ牽引タイプ(セミトラクタ)は全面的に上尾モデルとなり、フルトレーラ牽引タイプ(フルトラクタ)はいすゞオリジナルと上尾モデルが併存している。

 UDでもさきごろ、三菱ふそう「キャンター」をベースとしていた小型トラック「カゼット」を、いすゞ「エルフ」ベース車へ一新した。中型トラック「コンドル」は、2017年からいすゞ「フォワード」ベースのOEM車をラインナップしてきたが、今後はその拡販に力を入れていく。

 トラック製品の共通化は、海外市場向けモデルでも進めていく計画で、いすゞはUDの「クオン」「クエスター」をいすゞブランドで展開し、UDは「エルフ(海外名:Nシリーズ)」「フォワード(海外名:Fシリーズ)」をUDブランドでも扱っていくという。

 いすゞは中型と小型、UDは大型……と棲み分けたかのような印象だが、実は海外市場向けのいすゞ「Fシリーズ」は、日本でいえば運転に大型免許が必要な車両総重量(GVW)11~26tクラスの大型モデルが多く、しかも近くグローバル戦略車へのフルモデルチェンジを予定している。

 つまり『大型トラック』のうち、GVWの軽いレンジはいすゞベース、重いレンジはUDベースへ統合する方向とみられ、現在UDが海外市場向けに展開している「クローナー」と「クーザー」は、新型FシリーズおよびNシリーズベースのUDブランド車へと移行する可能性が高いと思われる。

IXで示されたいすゞトラック製品の今後の展開

次期ギガ/クオンはレベル4自動運転機能を搭載か

IXで示された「自動運転ソリューション」のコンセプト。具体的なビジネス内容は不明で、組織およびスタッフの構築もこれからという

 トラック製品共通化の真打が、GVW20~25tクラスの大型トラック「ギガ」「クオン」の次期モデルだ。

 次期ギガ/クオンは、2020年から戦略的な提携関係にあるボルボグループの技術を活用したモデルとなる。これは前の中期経営計画(2021~2023年度)で示されていたことだが、今回の『IX』で、デビュー時期が2025年から2028年へと3年先延ばしになった。南社長COOは「他のプロジェクトを先行させるため」とその理由を述べている。「他のプロジェクト」が何かまでの言及はなかったが、筆者が憶測するに、それは「自動運転」だと思う。

 『IX』では、トラック・バスの自動運転に関わる「新事業」をスタートさせる方針が明らかにされた。新事業の具体的内容は不明だが、「自動車メーカーの立場で『物流の2024年問題』に取り組めること」として自動運転技術を実用化し、併せてそれに関するビジネスを2027年度に立ち上げる計画となっている。

 つまり次期ギガ/クオンのデビューと、自動運転関連ビジネスを立ち上げるタイミングが接近しているのだ。そこで、次期ギガ/クオンには自動運転機能を実装したモデルがあり、それを推進するためのビジネスも同時にローンチするのではないか……という推測ができるわけである。

 『IX』説明会では、トラックの自動運転は「高速道路を拠点間運行するトラック」を主な対象とし、SAE自動運転レベル4、すなわち「特定条件下における完全自動運転」の実用化を目指すとしている。

 以前からいすゞ、UDは、それぞれレベル4自動運転技術の開発に取り組んできた。特に元・ボルボグループ傘下だったUDは、ボルボの基盤技術を用いながら、国内で2030年の実用化を目指して開発を続けてきた経緯がある。そのため、ボルボ技術を活用する次期ギガ/クオンがその延長線上にあっても、なんら不自然ではないだろう。

いすゞとボルボの戦略提携以前から、UDトラックスがボルボグループの基盤技術を活用しながら開発してきたクオンベースのレベル4自動運転トラック実証試験車「Fujin(風神)」

ディーゼルエンジンの開発・生産は継続

IXで示されたいすゞ次世代電動車(xEV)の導入計画

 日野自動車と協業中のバス製品(路線バス系がいすゞ、観光バス系が日野)については、もっぱら次世代電動車(xEV)に関するものだった。

 xEVの投入計画は、バッテリーEV(BEV)の大型路線バス(エルガEV)を2024年内、同じく中型トラックを2027年以降に国内市場に投入する。海外市場でもBEVの展開をはじめ、今年から小型トラック(エルフEV)、2025年にピックアップトラック(D-MAX EV)を投入する。北米市場では、2025年からクラス5中型トラック(NRR EV)の発売を開始し、将来的には現地での高電圧バッテリー調達や車両の組立を検討するという。

 水素を使う燃料電池車(FCEV)は、2025年に大型路線バス(トヨタ、日野との共同開発)を商品化し、2027年に大型トラック(ホンダとの共同開発)を実用化する計画が示された。この2つの開発案件は、以前から公表されていたものなので、『IX』説明会では大きく触れられなかった。

 質疑では、計画には入っていないもののプラグインハイブリッド車(PHEV)の開発について問われ、「必要だが今後の課題」(南社長COO)と応じており、また、ディーゼルエンジンについては、「BEVやFCEVの普及にはまだまだ課題があり、電動化が本格化するのは2030年代半ばごろとみている」(同)として、今後も開発・生産を続けていくと話している。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。