「工場出荷状態でサーキットを走れる」そんなGRヤリスとGRカローラの高性能は、ここ、GRファクトリーで生産される。ロボットと職人が仕事を分担し高精度のモノづくりを行う世界はこれまで見たことのないものだった!
※本稿は2024年6月のものです
文:国沢光宏/写真:トヨタ、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2024年7月10日号
■効率重視とは対極にある「GRを生み出す場所」
GRヤリスとGRカローラを作っているGRファクトリーの生産ラインを見たら「これは面白い!」。以前から「効率を徹底的に追求したトヨタの生産ラインとまったく違うんですよ」と聞いていたので興味MAXだったけれど、予想の斜め上45度といったイメージ。
結論から書くと、GRファクトリーの生産方法なら、ポルシェやランボルギーニのようなクルマだって作れると思う。以下、わかりやすく紹介したい。
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まずボディ骨格の組み立て。通常であれば1つのラインを1工程ずつ溶接していく。最初にフロア。1台分動き、サイドパネル。さらに動いてルーフといった具合。
ところがGRファクトリーは動かさずに組み上げる。さまざまな場所にスポットを打つため汎用の溶接ロボットを使うのだけれど、溶接箇所に合わせヘッドを自動で交換しています。
どういったメリットがあるのか? ラインで流すと、作れる車両は基本的に同等の溶接箇所数&同じような溶接場所じゃなければダメ。同じ時間内(専門的にはタクトタイムと呼ぶ)にできる作業量ということです。1台ずつなら、まったく違うボディ形状や、まったく違う溶接箇所数で時間が違ったってOK。
極端なことを書けば、軽自動車とスーパーカーを同じように作れてしまう。これならどんなクルマでも組み立てられる。
続いて部品などを取り付ける工程になる。ここでの「凄いね!」は、作業内容の多さ。通常の生産ラインだと、1タクトの作業内容はそれほど多くない。GRファクトリーのある元町工場で一番短いタクトタイムのラインは60秒。一般的に60~90秒といったあたり。60秒で出来る作業内容と言えば、最大で3つ程度。
ワーカーは3つの仕事だけ覚えればいいということになる。少なければ誰でもできるし、すぐ熟練するだろう。
GRファクトリーはタクトタイム10分! それだけ作業内容が多いということになる。
見ていると、一番ワーカー数の多いタクトは少し大げさに言えば渋谷のスクランブル交差点だ。6~7人がさまざなパーツを持ち、さまざまな場所に取り付けていく。動線も練られており交錯しない!
そして1人の装着部品が多いのなんの! 相当レベルの高い人じゃないと無理。思わず「給料同じですか?」と聞いちゃいました。
答えは「同じです」。あらま! 聞けば仕事の面白さに加え、作っているクルマから生まれるプライド、そしてサーキットやラリー現場に行く視察もあるという。ここはモチベーションをプライスレスで高める工夫があるんだと思う。
パーツを取り付けていく工程も、生産できる車種はフレキシブルに対応ができるそうな。GRヤリスとGRカローラに混ざり、ミドシップのスーパーカーを流すことだって大いにあり得ると思った次第。
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■「あたり」しか作らないGRファクトリー
さらに驚くのが生産時と完成車両の精度管理だった。クルマには1台ごとに誤差がある。ボディのサスペンションの取り付け位置すらミリ単位で違う。普通のクルマなら1ミリ違うくらいだとまったく問題ない。されどサーキットに持ち込み限界を引き出すと、精度の違いでクルマの乗り味にバラ付きが出てしまう。
それを今までは「あたり」とか「はずれ」と言ってきた。GRファクトリーのラインでは「あたり」しか作らない。
さまざまな工程で精度チェック。取り付ける部品も精度を合わせていく。さらに足回り部品は1Gをかけた状態で締めるとか、アライメントは競技車両レベルで合わせていく。その上で全数を走行テストしているのだった。
普通のクルマを買ってボディ剛性を高めるためにスポット溶接の増し打ちや精度管理まで行えばスンゴク高いクルマになる。そう考えると「GRファクトリー式生産」はいいクルマをリーズナブルに作れる最適な方法かもしれません。
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■GRファクトリーとは?
愛知県豊田市の元町工場にあるGRヤリスとGRカローラの専用生産施設。「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を実現するために、高精度なモデルを少量生産するというこれまでのトヨタにはない考え方が導入されている。
ロボットに加え、匠と呼ばれる高い技術を持つ職人さんたちの手作業を組み入れ、ばらつきの少ない、モータースポーツで勝てるクルマが誕生している。約400人が就業し、1日の生産台数は60~70台。
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