ノイエクラッセ(Neue Klasse)はドイツ語で「新しいクラス」を意味すると同時に、1961年に発売されたセダンの名称でもある(写真:BMW)

BMWが新しい“ファミリー”を発表して、話題を呼んでいる。その名も「ノイエクラッセ」(新しいクラス)と名付けられたバッテリー駆動の電気自動車(BEV)で、2023年9月のセダンに加えて、2024年3月にSAVが公開された。

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興味深いのは、同社の姿勢。「これからのBMWを象徴」とノイエクラッセについて語る一方で、「今すぐラインナップのオール電動化をめざすものではない」とする。

ただし「来るべきときのために、やれることはすべてやっておく」と、2024年3月21日の年次総会で、BMW AG取締役のオリバー・ツィプセ会長が述べていたのは印象的だ。

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「ノイエクラッセ」とはどんなクルマか?

「私たちは、まもなく世界でのBEVの販売台数100万台を達成します。電動化、フルデジタル化、そしてサステナビリティの高さという、近未来の自動車における重要な3要素をシステマティックに統合したモデルを開発しました」

ビジョン・ノイエクラッセXとオリバー・ツィプセ会長(写真:BMW)

ツィプセ会長の言葉にあるのが、上記のノイエクラッセである。BMW言うところの“第6世代のバッテリーセル”を搭載し、エネルギー密度を上げ、一充電での航続距離30%増、充電速度も30%増をうたう。

私は、2023年のミュンヘン自動車ショーで「ビジョン・ノイエクラッセ(セダン)」、次いでポルトガルで「ビジョン・ノイエクラッセX」のジャーナリスト向けのお披露目に立ち会った。

Xとは、BMWのSAV(スポーツアクティビティビークル)の「Xシリーズ」の系譜に属することを意味している。

1999年に初代「X5」を発表して以来、ラインナップを拡充してきたBMWのSAV。これまでに1200万台もの販売を記録したそうだ。ノイエクラッセXは、「Xモデルの新世代」(ツィプセ会長)とうたわれる。

ボディ寸法は、一部で報道されているノイエクラッセ・セダンのものを参考にすると、全長が4100mm超、ホイールベースが2550mmだと考えられる。

左がセダンのビジョン・ノイエクラッセ、右がSAVのビジョン・ノイエクラッセX(写真:BMW)

これが事実なら、現行「iX1」(全長4500mm、ホイールベース2690mm)よりコンパクトだ。でも、「長いホイールベース」とプレスリリースにあるので、実際はもっと延長されるのかもしれない。

お披露目の場で見た実車は、迫力あるフロントマスクや大きく張りだしたホイールフレア(アーチ)などのせいか、堂々たる印象だった。意外にも、iX1よりアグレッシブな雰囲気なのだ。

セダンとSAVから発表したワケ

「なぜ今回、セダンとXを発表したかというと……」。発表会場で、BMW本社のニコライ・グリース広報部長は説明した。コーポレート、ファイナンス、販売、商品、テクノロジー、デザインが、グリース広報部長の守備範囲だ。

「セダンとSAVが、BMWをセールス面でも成功させている2本の重要な柱だからです。今まで存在していなかった、まったく新しく、そしてなじみのある、そんな製品が成功のために重要なのです」

プロポーションは既存のX1/iX1と似ておりBMWらしいもの(写真:BMW)

バッテリーはおそらくセダン版で発表された円筒形で、正極側のニッケル含有量を増やす一方でコバルト含有量を減らし、負極側はシリコン含有量を増加させる、というタイプではないか。

リサイクルを増やすことで生産過程におけるCO2排出量を大きく減らすのも、BMWが強調するポイントだ。

ただし、具体的な数値はモーターの諸元とあわせて未発表。ゆえに現段階では「ビジョン」が車名にあるのだと、前出のグリース広報部長は言う。

それでも「アルティメット(究極の)ドライビングマシン」というBMWの製品ポリシーは追求されるそうだ。

もうひとつ、エンジニアリング面での新しさは、ECU(エレクトロニックコントロールユニット)を統合していくというコンセプトにある。

これはドライビング、シャシー、ブレーキング、ステアリングの制御を「ひとつのユニットで」というもの。

ECUの数を減らすこともビジョン・ノイエクラッセで目指す革新のひとつ(写真:BMW)

「私たちはこれを“スーパーブレイン”と呼んでいます。今回は、他に自動運転など4つのスーパーブレインを使いますが、将来的には1つへと統合していきます。これでパフォーマンスは現行の10倍の速さになるでしょう。これまでどのメーカーも手がけていないコンセプトです」(グリース広報部長)

現行モデルでは、制御する分野が増えるにつれ、ECUの数も増えてきていた。100基を超えるECUを搭載するクルマも市場には存在する。それらがひとつのセンサーからの情報を演繹し、場合によっては複数のECUがワイヤで結びつき、たとえば加速や減速の制御を行う。それでは遅い、というのがBMWの考えだ。

BEVのシステムには800Vを採用し、300km走行分の充電を10分で完了するという(写真:BMW)

「リダンダンシー(万が一にそなえての多重化や予備の回路増設)の問題さえ解決できれば、単一目的のECUを数多く働かせているのは、時間がかかるだけで無意味なのです。それを効率化することが統合の目的です」(グリース広報部長)

「ニッチ」ではなく「再定義」

ツィプセ会長は、「ノイエクラッセは、ニッチ(市場のすきま)を狙ったコンセプトではありません」と言う。「デザイン、テクノロジー、フィロソフィにおいて、BMWを再定義する内容を持っているのです」と。

車内のデジタライゼーションにおいても、ビジョン・ノイエクレッセは、新しい時代の先駆けを感じさせる。

システム名称は、2001年の「7シリーズ」から続く「iDrive(アイドライブ)」であるものの、実際は最新の「X1/iX1」や「X2/iX2」と同様、円筒形のコントローラーは廃された。その代わり、タッチと音声による操作が徹底されている。

タッチと音声による操作により、物理的なスイッチが極限まで減らされている(写真:BMW)

ビジョン・ノイエクラッセでは、ウインドスクリーンのほとんど端から端までを使う「パノラミックビジョン」を採用し、ウィジェットを多用してより機能性を向上させるとともに、より人間的になるという音声対話システム、それに「HYPERSONX」ステアリングホイールが新しい提案だ。

ステアリングホイールは、なんとスポークが12時と6時の方向の2本という、他に類を見ないデザイン。3時と9時の方向にはスポークを設けていない。

よく見るとスポークは左右になく、12時と6時の位置についている(写真:BMW)

「パノラミックビジョンの採用で、フロントに計器盤がなくなったうえに、ヘッドアップディスプレイを採用するので、親指による操作機能を向上させるのが目的です」

デザインを担当したマクシミリアン・レッシュ氏は、実車に乗り込んでそう説明してくれた。

まだ見ぬノイエクラッセが6種ある

ツィプセ会長は「発表は2025年を予定していて、私たちはそこから24カ月の間に少なくとも6種の“異なったノイエクラッセ”を送り出す予定です」という。そしてこう続けた。

セダンとSAVが発表されたということは、クーペやカブリオレ、ミニバンもあるのだろうか(写真:BMW)

「2030年までに私たちの製品の販売台数は半数がBEVになると今も考えていますが、市場によってBEVが売れるところもあれば、そうでもないところもあります。私たちはあらゆるドライブトレインの開発の手をゆるめませんが、BEVにおいてもベストを提供したいと考えています」

「新しいクラス」を意味する「ノイエクラッセ」が、果たしてどんな存在になっていくのか。まずは、実際にドライブできる日がくるのを楽しみに待とう。

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