昭和40年、東京オリンピックに沸いた翌年、公道にはまだ商用車の往来が多かった。そこでトヨタが大衆スポーツカーとして送り出したのが3代目コロナ2ドアハードトップ。59年後の今、コロナのトップモデル1600Sをプリウス武井が全開試乗!!

※本稿は2024年6月のものです
文:プリウス武井/写真:小林邦寿
車両協力/ISUZU SPORTS
初出:『ベストカー』2024年7月10日号

■1965年デビューのもうすぐ還暦!!

1965年登場のトヨペット コロナ ハードトップ1600S

 日本で本格的な自動車レースが開催された1963年。自家用車は高嶺の花でスポーツカーを所有できるのはわずかなお金持ちだけだった。

 そして戦後復興の奇跡と称えられた東京オリンピックに沸いた翌年の1965年に華々しくデビューしたのがコロナ・ハードトップ1600Sだ。

 高度成長の波とともに、自動車業界ではトヨタと日産のシェア拡大競争がすでに激しさを増していた。コロナが市場に登場したのは1957年、初代T10型が元祖。

 1960年には2代目となるT20/30型のコロナが導入され、今回、試乗する1600Sは3世代目となる。

 当時の日本では、乗用車は4ドアセダンが主流だったが、北米ではコルベットやカマロ、マスタングなどの2ドアクーペがすでに人気だったこともあり、3代目コロナで日本初となる2ドアハードトップがラインナップされた。

 Bピラーレスの奇抜なデザインのボディには、ポテンシャルの高いエンジンが搭載された。最高出力90ps、最大トルク12.8kgmと当時のライバルだった日産やいすゞが販売していた市販車よりも高性能だった。

 さらに4速フロアシフトやバケットシートに前輪ディスクブレーキの採用など、ライバルメーカーよりも抜きん出たパッケージでトヨタの悲願だった国内販売台数1位を獲得した。

 今回、インプレッションをお届けする1600Sを所有しているのは、東京・羽村市に拠点を置くイスズスポーツ。以前、ジェミニやピアッツァを紹介した際にもお世話になったショップだ。

 イスズスポーツというだけあって、いすゞ自動車が製造していた名車を手掛け、そのノウハウは国内一と言ってもいい。

 いすゞ車以外のメーカーの旧車も数多く販売しているので定期的にホームページはチェックさせてもらっている。

 生まれた時期が私とほぼ同じ世代のクルマが今も現存し、走れることに驚きなのだが、この個体はほぼオリジナル状態を維持していることに感嘆。

 フルレストアが施された綺麗な状態とは趣が違い、流れてきた時間の経過を感じさせてくれるのは絶版車の醍醐味でもある。

■最近のクルマにはあって当たり前のアレがない!

スイッチ類の場所を細かく教えてもらってから試乗。シートベルト義務化前のクルマなのでベルト装備がない!

 まずは、試乗の前にどこにどんな機能があるか説明してもらう必要があった。ウインカーやハザード、ワイパースイッチがどこにあるのかさっぱりわからない。

 各部スイッチを丁寧に教えてもらい、ドアを開きシートに身体を預けた。車体は小ぶりだけどガラス面が広々としていて、初めて運転するという感覚はないほど見切りがいい。

 メーターパネルを目の前にすると昭和にタイムスリップしたかのような不思議な気持ちになった。

 シートの座面と背もたれは柔らかく、乗り心地は今のクルマにはない感覚。スライド機能とシートバックが7ノッチ稼働して自分好みのドライビングポジションに調整できた。

 この個体が製造された頃は、シートベルトの規定がなかったためベルトの装備はない。クルマに乗るとシートベルトをするのが身に付いているから、ベルトを締めないとズボンをはき忘れたくらい違和感がある。

 シートベルトが義務化されたのが1969年からなので、その前に生産されたベルト装備がない旧車は違反にはならないが、後ろめたい気分になりながらキーを回した。

 自然吸気キャブなのに始動性がバッチリ。メーターパネルにある補助計で水温が上がっていることを確認して、軽くアクセルを開けるとタコメーターの針が跳ね上がった。

 排ガス規制前のクルマということもありレスポンスは最高だ。

 トランスミッションは4速。当時、コラム式が多かった時代に先駆けたフロアシフトだ。クラッチペダルを踏み、1速に入れペダルをリリースすると素直に動き出した。

 ステアリングは心もとないほど細くおもちゃのよう。パワステ機能はない。据え切りしてもさほど重さを感じないのはパワステに馴れた体にはありがたい。

60年近く前に登場した90psのクルマにもかかわらず、パワー感があってとても扱いやすい。心躍るような走りが楽しめた

 60年近く前のクルマにもかかわらず、いい意味で普通に走れることに心が躍った。

 道が広くなったところでアクセルを踏み込んでみると、スロットルはすぐに反応してタコメーターの針がスムーズに上がっていく。

 90psにもかかわらずパワー感があってとても扱いやすい。

 特に中間トルクの力強さには感心した。停止状態からの加速で、シフトアップするたびにパワーバンドに入って加速していく感覚はまさにスポーツカーだ。

 4速ミッションの操作感覚はギアの節度感がやや曖昧で独特だけど、ある意味これも旧車をドライブする魅力みたいなものだ。

 カタログ公称の最高速度160km/hもあながち嘘ではなさそうだし、現代の高速道路でも無難に走れるはず。

 ブレーキはマスターバックレスだけど、フロントがディスクになっている効果か、ペダルタッチはわりとよかった。

 旧車はフワッとしたタッチのブレーキが多いけど、制動性に不満はない。とはいえ今のクルマの調子で停まると思ったら大間違いだ。

 今回は一般道試乗ということでコーナーは攻めていない。ハンドリングは左右の遊びは多いがタイヤの接地感は手のひらに伝わってくる。

 サスペンションはしなやかで一般道では嫌な硬さもなく乗り心地がいい。グランツーリスモの風格さえあった。

 この個体は現在販売中。車両本体価格はナント199万円、総額でも212万円と超お買い得! 

 旧車って購入するには、ある程度知識がないと二の足を踏んじゃうけど、この1600Sは極上なので、古い日本車の購入を考えている方にはおすすめだ。

■4R型エンジン探索

ライバルよりも高い性能を誇った4R型エンジン

 4R型エンジンはシリンダーヘッドにOHVを採用。SUツインキャブを搭載し最高出力は90psを発生。

 1963年の日本GP開催以降、モータースポーツ人気でライバルメーカーでも4気筒1600ccエンジンが搭載されたモデルが発売され、馬力競争で凌ぎを削っていたが、1600Sに搭載された4R型はライバルよりも高い性能を誇った。

 また、昭和38年(1963年)に開通した名神高速で連続高速走行10万キロテストを実施し耐久性をアピール。

 昼夜58日間にも及ぶ連続走行で、トヨタ自動車のエンジン製造技術の高さは半世紀以上前に実証されていた。

 最高速度160km/hと当時としては高性能エンジンだった。0-400m加速の18.6秒は、4人乗車での公表データ。

 後に名車トヨタ1600GTに搭載されたヤマハが開発したDOHCエンジン「9R型」のベースとして進化していく。

●1966 TOYOPET CORONA HARDTOP1600S 主要諸元表
・全長×全幅×全高:4110×1565×1375mm
・ホイールベース:2420mm
・車両重量:980kg
・エンジン形式:直列4気筒OHV
・総排気量:1587cc
・最高出力:90ps/5800rpm
・最大トルク:12.8kgm/4200rpm
・ミッション:4速MT
・駆動方式:FR
・サスペンション:前)独立懸架コイルばね 後)半楕円非対称板ばね
・ブレーキ:前)ディスク 後)リーディングトレーリング
・タイヤ:前後175/65R14(標準6.15-14 4PR)

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