2023年夏からニューモデルの発売を開始した、いすゞの中型トラック「フォワード」。フォワードは日本でもっとも売れているトラックの一つで、豊富なバリエーションがあり、物流、建設、運搬など様々な業務で使われています。新型フォワードとはどのようなクルマなのか、公道で試乗してみました。
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
物流で活躍する中型トラック
試乗したフォワードは、車両総重量8トン未満の「FRR」という型式で呼ばれるモデルで、いまの運転免許制度だと中型免許以上の資格が必要なクルマです。しかし2007年6月1日以前の普通免許取得者なら、免許証に『中型車は中型車(8t)に限る』という条件が付されて運転できるので、間口の広いクルマだったりもします。
フォワードFRRには、キャブ、ホイールベース、サスペンション、エンジン出力などの違いによって、膨大なバリエーションがあります。試乗車は、ワイドキャブ、ホイールベース4860mm、後輪エアサスペンション、240馬力エンジンというシャシー仕様に、ウイングボディと呼ばれる荷台を架装したもので、主に物流用途で使われるクルマです。
試乗車のウイングボディは、『艤装品も揃っている荷台架装済みメーカー完成車』である「Fカーゴウイング」という量産タイプで、画一的な仕様のもとで見込み生産が行なわれています。このレディーメイドコンセプトは約20年前に導入したものですが、積んで運ぶ機能は十分で、納期が比較的短いことから、一般雑貨輸送などで広く普及しています。
力強くて精悍なスタイリング
7代目に相当する新型フォワードは、ヘッドライトユニットを小型トラック・エルフと共用していますが、骨太感のあるフロントグリル回りはフォワードならではのスタイリングで、エルフとの連なりを強調した先代とは異なる、中型トラックらしい魅力が感じられます。
ヘッドライトの灯体そのものはとてもコンパクトなLEDユニットですが、上にあるミリ波レーダーのアンテナカバー、ウインカーをも囲む形で、LED車幅灯によるアイラインを形成しています。これが「目」にみえるわけですが、なかなか精悍でカッコいい面構えです。
フォワードのテールランプは、4灯式コンビネーションランプ(アウターレンズは角形2灯風)が標準ですが、Fカーゴウイングには、国内灯火器メーカーが開発したLED2連式コンビランプをリア門構に埋め込みます。これ自体は汎用品で、市場では非常に人気が高いデザインです。個人的には、いすゞデザインセンターが手掛けたオリジナルのリアコンビランプというのも見てみたいところです。
ドラポジ設定も拡大
運転席に収まると、直線的でスッキリしていた先代に対して、インストルメントパネルのラインに情緒を感じさせるデザインになりました。トラックは、さまざまな機能や架装のためのスイッチが少なからず必要になるのですが、それが手を伸ばしたところに整然と配置されており、実用車としての操作性もしっかり確保されています。
メーターパネルは、機械式の速度計と回転計に加えて、7インチ相当のカラー液晶ディスプレイ(LCD)を配置しています。シフト位置、車間距離、道路標識、ADAS作動、燃費などを表示する機能がありますが、フォントなど見やすいデザインだと思います。
ステアリングホイール(ハンドル)は、先代より20mm小径化して直径440mmとなり、ハンドルを回すアクションが小ぶりになっています。併せて、インパネの位置、シートスライド量、ステアリングポストの調整角、ハンドルの前後テレスコ量、フットペダルの位置などといった、ドライバーと相対するモノの設計を見直したことで、小柄な女性からマッチョなおじさんなどなどいろんな体格の人が乗っても、先代に対してより適切なドライビングポジションが得られるようになっているそうです。
実際、ハンドルをグルグル回した際でも背もたれから肩が浮かなくなっており、そのラクさを実感しました。また、ペダルを踏み込みきった位置が、より手前側に修正されていて、小柄な人でもシートを著しく前進させずに操作できるようになったと思います。ちなみに、アクセルペダルがオルガン式から吊下げ式に変わりましたが、ごく自然に操作でき、違和感はありませんでした。
そして、シートは新開発品です。身長168cm、体重67kgの筆者の場合、座面はあまり沈み込む感じではないのですが、クッションがソフトにフィットしてホールドする印象で、確かに低反発ウレタンらしい掛け心地でした。ハイバック型の背もたれは、肩までクッションがサポートしてくれるサイズで、これもなかなかにイイ具合です。
もちろん助手席も同じく新開発で、背もたれを前方に倒すと、後方にあるベッドまでフラットにすることができます。先代だと段差が生じていたのですが、これによってくつろげるスペースが拡大しました。なお、これは以前から競合車(三菱ふそうファイターやUDオリジナル最後のコンドル)にはあった機能で、フォワードにも導入されたわけです。
最新のスムーサーFxはイイぞ!
残念ながら積荷のない状態(軽油満タンでも6tに満たない)でしたが、新型フォワードFRRを運転してみてまず印象的だったのが、室内が静かなこと。キャビン床下には、5.2リッターの直列4気筒ディーゼルエンジンが収まっているのにも拘わらず、エンジン音の侵入はよく抑えられており、室内の空気が震えるような不快さとも無縁で、想像以上に上質な室内空間でした。
試乗車は、この5.2リッターエンジン・4HK1型の高出力バージョンである4HK1-TCH(最高出力240PS/2400rpm・最大トルク78㎏m〈765Nm〉/1600rpm)と、いすゞ独自の機械式自動変速機「スムーサーFx」を搭載しています。
中型トラックの240PS、しかもワイドキャブのウイング車は、高速路線運行にもよく使われます。高速での時速80km巡航(中型は時速100kmが上限ですが、社内規定80kmの企業も多い)はまったく余裕。長い登り坂でもパワーにゆとりがあります。ただ、試乗車にはキャビン上に導風板がなかったので、装着していれば追越加速や高速燃費がもっと良かったのではないかと思います。
スムーサーFxは、フットペダルがアクセルとブレーキのみで、オートマと似た感覚で運転できます。クリープ機能が付いているため、積荷にやさしい発進操作がしやすく、渋滞で進んだり止まったりする際の労力も抑えられています。
驚いたのが、スムーサーFxのフィーリングが以前乗った2018年型よりかなり良くなっていること。空荷だったとはいえ、シフトチェンジの際に発生するクラッチ断接時の衝撃が穏やかで、AMTで評価の高い北欧の大型トラックを彷彿させたほどです。また、燃費指向の変速制御(早めシフトアップ)がデフォですが、低回転でもトルクがあるため、気ぜわしく変速することもなく、ゆったり走ってくれるのはいいところ。逆に急かすように走る状況だと印象は違うでしょう。
また、新型フォワードのスムーサーFxには、近年の大型トラックAMT車が装備する惰行機能が追加されました。定速走行が続いている際、ギアボックスが自動でニュートラルに入って、速度が低下しない範囲で空走させる機能で、燃費改善に寄与します。時速40km以上で条件が揃うと作動するとのことで、今回の試乗時にも作動したかもしれません。というのは、この機能は、クルマ側が作動判定することもあって、実際には作動(ドライブトレーンからスッと伝達が抜ける感じ)に気づきにくいからです。
より疲労が少なく安全な「職場」
ハンドルが小径化されたものの、油圧式パワーステアリング装置に新ユニットを採用していて、ほどよい軽さで操舵できます。クセのない素直なキレ味のステアフィーリングは、長時間の運転でもあまり疲れません。路面状況が直進性に影響するのは、フォワードに限らず中型トラック全般にいえることですが、車線維持補助機能(LKA)付きのプレミアムパッケージ装着車なら、電動アシスト付き油圧パワステが搭載されるので、路面状況に惑わされずに直進性を保てるはずです。
前車軸はオーソドックスな固定軸をリーフスプリングで吊り、リアの駆動軸は4個のエアベローズを備えるエアサスになっています。トラックは積載時の乗り心地がもっとも良いのですが、試乗車は空荷でも跳ねる動きがよく抑えられていて、前述の静かな室内とあいまって、こちらも快適な乗り心地でした。
新型では、側方衝突警報装置(BSIS)の装着義務化への対応など、先進ドライバー支援システム(ADAS)がさらに充実しており、左右ヘッドライトの上に加えて、左側前輪直後にもミリ波レーダーを装着しています。また、車両前方を監視し、車間距離警報やAEBS(プリクラッシュブレーキ、衝突被害軽減・衝突回避支援ブレーキ)の作動に関わる前方ミリ波レーダーには、車両直前警報の機能も追加されました。これらの機能が本領を発揮するシーンには、幸い遭遇しませんでしたが、久々に乗った中型トラックの公道試乗を陰ながらサポートしてくれたように思います。
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