スーパーフォーミュラ人気を一段も、二段もあげた立役者であるJuju(野田樹潤)選手。現役女子大学生がトップカテゴリーに挑むのは大変なことだし、その姿を応援したいというファンも多い。決して否定したいわけじゃないけれど、日本で一番速いマシンを操る選手たちを考えればちょっと言いたいこともある……。ベテランジャーナリストが迫ります。

文:段純恵/写真:JRP

■SNSでは大きな反響があった「ステアリング投げ捨て」

スーパーフォーミュラに日本人女性が参戦して完走するだけでも凄いことだが……

 いやはや恐ろしい時代になったものだ。海外の草レースで起きた『ヤラかし』の動画が、ネットを通じて世界中に配信されたのである。その中心にいたのがスーパーフォーミュラで観客動員増加に一役買っていること間違いなしのJujuこと野田樹潤選手だというのだから、気にするなというほうが無理だろう。

 最初その動画を見た時、筆者はフェイクを疑った。いまやAIだかなんだかでどんな映像でも作れる時代だ。無理げに見えるオーバーテイクに失敗してスピン。エンジンが停まったマシンから降りてきた人物は、手にしたステアリングをマシンに戻すことなく競技中のコースを横断。

 その途中でステアリングをコース上に叩きつけ、そのままコースの外に出て行くという信じがたい光景に、野田選手をやっかむ輩が捏造したのかもしれないと、一連の動きを何度も繰り返し見た。しかし、別角度の別動画もあり、これはリアルだと認めるしかない結論に至った。

ドライバーもチームも本気で挑んでいるし、応援したい気持ちを強く持っているメディア関係者も多い

 幸いにもこのBOSS GP、FIAが管轄するカテゴリーでもなければ参戦しているのはレース愛好家の資産家ばかり。金持ちケンカせずの言葉どおり、鷹揚な人々の大らかな対応で野田選手の行動は不問に付されたという。

 だが待てよ。もしSFのレース中にこのような行動を取るドライバーが現れたら、どういう裁定がなされるのだろう?

 SFレースウィークの土曜日に行われるJRP主催のサタデーミーティングは、記者がざっくばらんに質問をして良い場となっている。もちろんレース中の様々な裁定を下すのは競技団であってプロモーターのJRPでないことは承知の上だが、日頃から「安全安心のレース運営」を掲げているJRPだ。何か意見があってしかるべしと考えた筆者は、第3戦SUGOのミーティングで質問の手を挙げた。

■決して責めたいわけではないのだが……

ルールはしっかり守るのがモータースポーツ。それに反すれば大きなクラッシュなど生命にかかわる問題が発生する

 まず返ってきたのは「BOSS GPが何の裁定も下しておらず、またFIAからもJAFを通して何の通達もないので、当該とされている選手に私共が何らかのアクションを起こすことはない(要約)」という答えだった。

 いやいやそんなことは承知の上で、もしSFで起きた場合についてを訊いてるんだけどなー、と思いつつ、ついでに第2戦オートポリスで何度も青旗を無視した選手にペナルティがなかったのはなぜでしょう? と投げると、「それを判断するのは競技団です(思いっきり要約)」と、これまた予想通りの答だった。

 JRP役員の名誉のために付け加えるが、この方々も歴としたプロなので、個人的にはいろいろ考えるところはあると思う。しかしそこは大会を主催するサーキット、プロモーション担当のJRP、競技審査を担当するJAF派遣で役割が分担されている以上、互いの領分を犯すのはよろしくないのだろう。

モータースポーツは孤独な戦い。しかし周りにはライバルもいて安全性は最大のポイントだ

 ともあれ、FIAカテゴリーなら高額罰金&出場停止に加えライセンス剥奪もありうる事案について素朴な疑問を投げたのだが、他の媒体の記者たちはこのトンデモ案件を知ってか知らずか、はたまた疑問に思うや思わざるや、筆者の質問やそれに対するJRPの回答に無反応だった。

 欧州事情に詳しい同業の友人が、欧州の主要メディアは扱う価値ナシと判断しているが、モータースポーツ関係者やファンの批判はキャンプファイヤー状態になっていて、このままでは彼女の欧州再上陸は難しくなりはしないかと懸念するメールをよこしてきた。

 これが事実なら、筆者も同じことを考える。

■安全な競技運営に前向きなのは尊重し理解するけれど

Juju選手の参戦は非常にポジティブなことだ。決してそれを否定したいわけではなく、より安全なシリーズにしてほしいという願いばかり

 今回のSUGO戦に出走したドライバーは全員が日本人だった。国内トップフォーミュラで外国選手が一人も参加しなかったレースは1978年の西日本サーキット、現在マツダの美祢自動車試験場で行われた全日本F2選手権以来だという。

 もちろん日本人選手だけでも魅力的なレースは展開できる。技と知性の融合した強さと冷静さを失わない野尻智紀や、持ち前の速さを前戦のオートポリスでようやく優勝に結びつけた牧野任祐、ルーキーと呼ぶのも憚られる岩佐歩夢、すっかりトヨタ勢のトップコンテンダーに成長した坪井翔ら、技量も経験も十分な選手たちが揃っているからだ。

 ただ、レベルの高いカテゴリーでも、良識の枠を超えた行動をとる一人が混ざることで、カテゴリー全体に冷ややかな目を向けられる可能性は否定できまい。

 SUGO戦のドライバーズミーティングでは、最後に『一年生』だけを集めた別ミーティングが開かれたという。JAFやJRPが安全な競技運営に前向きであること確認できてホッとしたが、そこでの注意・指導内容を耳にして、また疑問がわいてきた。

 レーシングドライバーの基本のキすら体得できていない選手と同じ土俵で戦うことを、ベテラン勢はどう感じているのだろうか。この件に限らず、彼らが抱える思いや声はちゃんとフォローされているのだろうか。

 これまた余計なお世話と思われてオシマイかもしれないが、一人くらい、お節介な質問をする記者がいてもバチは当たるまい。

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