ダイムラー・トラックグループのメルセデスベンツ・トラックス(ドイツ)は大型ディーゼルトラックの新型「アクトロスL」を発表した。

 もともと「アクトロス」シリーズの限定エディションとして登場したアクトロスLは、いわばフラッグシップの中のフラッグシップ。現時点でディーゼル車に搭載可能なすべての技術を投入したベンツ・トラックの最高峰だ。

 全面刷新されたエクステリアは、昨年10月に世界初公開された長距離輸送用の大型電気トラック「eアクトロス600」と共通で、同社は電動化をはじめとする変革を主導するだけでなく、従来型のディーゼル車に更なる効率をもたらし、業界を先導し続けるという。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Daimler Truck AG

「アクトロスL」とは?

「アクトロスL」はベンツのトラックの最高峰に当たる

 2021年にローンチされた「アクトロスL」は、ダイムラー・トラックグループのメルセデスベンツ・トラックスにとって、大型ディーゼルトラック「アクトロス」シリーズのプレミアムセグメントに位置し、いわば「フラッグシップの中のフラッグシップ」だ。

 2024年4月2日、メルセデスベンツ・トラックスはアクトロスLの新モデルを発表した。同社は電気駆動や水素パワートレーンなどの変革を主導するだけでなく、従来型の動力(ディーゼルエンジン)においても業界を先導し続けるという決意を示した。

 新型アクトロスLは未来的なキャブデザインと最適化された空力性能、快適性に係る数多くの機能、効率的なエンジン、高いレベルのドライバビリティ、そして最新のコネクティビティやドライバー補助システムなど、ドライバーと運行管理者の双方にとって魅力的なあらゆるもの備えるという。

 「アクトロス」シリーズは1996年に「SK」の後継車として始まった。同シリーズの限定モデルとして登場したアクトロスLは、そのサクセスストーリーを継承するとともに、顧客とドライバーの要求に最大限に応えるというメルセデスベンツのコミットメントを体現する車両となっている。

 新たに「プロキャビン」を備えた新型アクトロスLは2024年4月より販売を開始し、同年12月より製造を開始する予定だ。

 メルセデスベンツ・トラックスで開発を担当するライナー・ミュラー=フィンケルダイ氏は次のようにコメントしている。

 「私たちはあらゆる駆動方式において、最上の車両ソリューションを提供することを目指しています。現時点では、伝統的なディーゼルトラックを代替可能な選択肢がない分野が存在するからです。

 アクトロスLはベンツのフラッグシップとして実績のある『アクトロス』に対して、更なる最適化を全面的に施したものです。これは革新的なキャブデザインにも反映されています」。

3%の燃費向上をもたらす空力デザイン

帆船の帆のようなサイドデフレクターは空気をスムーズにトレーラ側に流すため

 新型アクトロスLで最初に目を引くのは、完全に新しくなったエクステリアだ。この「プロキャビン」の全体的な形状は、同じくアクトロスの派生モデルで2023年10月に世界初公開された長距離輸送用のバッテリーEV(BEV)「eアクトロス600」と同じだ。

 ルーフスポイラーの手前に配置したプレスポイラー、サイドウィンドウ部のAピラーデフレクターパネル、大型フロントエンドフラップ、冷却系のための開口部を最小化したエアインレットと、そのために最適化したバンパー、そして車体下のアンダーボディパネルまで、空力を改善するために新たに設計した(キャブ骨格は踏襲)。

 より好ましい空気の流れ(エアフロー)をつくるため、フロントは80ミリ延伸され、可能な限り車両の周囲に空気を誘導する。これを保証するため、トラックの前面からサイドトリム、ホイールアーチまで流線形のデザインとした。

 トラクタ側のギャップやスペースはほぼ全てを塞ぎ、セミトレーラ連結時には帆船の帆のようになっているサイドデフレクターがトラクタからトレーラへスムーズに空気を流す。さらに、エンジンコンパートメントを外部のエアフローから切り離すため様々なシールで塞ぎ、アクトロスLの空力コンセプトが完成した。これにより全体で3%の燃費向上を達成したという。

 空力以外でも第3世代OM471型ディーゼルエンジン(排気量12.8L)の効率向上を図っている。実績のあるOM470型およびOM473型とともに利用可能なOM471型は、パフォーマンスを犠牲にすることなく総保有コストを低減することを目的としている。

 第3世代のOM471型エンジンでは、様々なニーズに対応するため2つのターボチャージャーを新開発した。長距離輸送向けは燃料消費をできるだけ抑えることに重点を置いており、排ガス後処理装置の改善と合わせて前世代比で最大4%の燃費向上を実現した。

ハイレベルな快適性とドライバー補助

室内の快適性もハイレベル。トラックドライバーにとってありがたい冷蔵庫は2台搭載可能

 生産財であるトラックで最も重視されるのは効率とコストだが、魅力的な外観と快適な室内空間が車両の購買動機として重要であるという事実を、メルセデスベンツ・トラックスは認識している。

 キャブ全体のペイントワークとダーククロームのベンツのロゴ、アルミ製ステップなどは外観の中でも特に目を引く。ヘッドランプ、方向指示器、サイドマーカー、テールライトなど灯火類は、室内灯も含めて全てLED化された。ヘッドランプはオプションでマトリックスLED(多数のLEDを組み合わせることでロー/ハイビームなどの配光が可能な前照灯)も用意する。

 プロキャビンのインテリアは「ストリーム」「ビッグ」「ギガスペース」の3種類で、シートヒーター、平織のシートカバー、分厚いマットレスを備えたベッドなど快適装備は充実している。

 スイッチパネルの機能拡充と、環境照明、LED読書灯が新たに追加され、サイドウォールのUSBタイプCソケット、ツートンカラーのカーテン、2台目の冷蔵庫、230ボルトコンセントなども用意した

 またマルチメディア・コックピットでは2025年4月から、新デザインのメニュー、音声コントロール、改善されたコネクティビティや新しいアプリが利用可能になる予定だ。

安全装備はさらに充実

安全装備やコネクティビティの充実はドライバーだけでなく運行管理者や道路利用者にも利益がある

 欧州では2024年7月から新GSR(安全規則)が開始され、一部の安全装備が義務化されるなど大型車の安全基準が厳しくなる。

 安全機能を拡充するため、カメラやセンサーといった機器が重要になっている。ダイムラーは新たに電子プラットフォームを開発し、レーダーとカメラの情報を組み合わせる、いわゆる「センサーフュージョン」技術を用いて車両の前方及び側方のセンシング範囲を広げた。

 新しいプラットフォームでは6基のセンサーを搭載した上で情報処理速度を20倍に高めた。車両の前後左右に短距離レーダーを合計4基、前方用の長距離レーダーをフロントに1基、ウィンドシールド中央に多機能カメラを搭載する。これらが車両の周囲270度の視界をもたらし、ドライバーの直接視界を補助している。

 この270度の合成視界は新GSRの要件をはるかに超えるもので、第6世代に進化したABA(アクティブ・ブレーキ・アシスト)など、各種の安全装備はこれを活用している。ABA6は、同一レーンの歩行者・対向車等に対して、時速60kmから自動でフルストップが可能となった。前方の静止車両に対しては従来通り時速80kmからのフルストップが可能で、より優れた危険検出のため最大250m先までマルチレーンを監視している。

 側方の危険を検出するASGA(アクティブ・サイドガード・アシスト)も第2世代に進化し、2段階の警報と自動ブレーキ、車線変更時の警告などにセンサー情報を利用している(新GSRの要件は警報を発することのみ)。

 また車両の停止・発進時や交差点でドライバーを補助するフロントガードアシストにも270度のセンサーフュージョン技術が活用されている。前方0.8m/側方4mという大型トラックのブラインドスポットをカバーするためだ。

(どれほど優れたシステムも物理的な限界を超えることはできない。また車両を安全に運転するための全責任はドライバーが負っている)

 レベル2相当の自動運転機能を備えるドライバー補助や、地形・道路・交通標識等を考慮した予測制御付きクルーズコントロールも安全機能と協調して働く。なお、2025年からはナビゲーションシステムとのルート情報の共有が始まる予定で、交通イベントの事前予測も可能になるそうだ。

 コネクティビティによる無線アップデートや24時間サービスなどは今年から既に利用可能で、追加コンポーネントも予定されている。他にもメルセデスベンツ・トラックスは運転評価などのテレマティクスサービス、路上故障を未然に防ぐ予防整備など運行管理者向けにも様々なサービスを提供している。

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