レクサスらしさとは? レクサスの走りの味ってなんだろう? レクサス自身が悩み抜いてきた、この問いにようやく答えが見つかりそうだという。レクサス車すべてを同じ走りのテイストにする「味磨き活動」の一環として、今回特別なLSとNXに試乗することができた。レクサスの走りが劇的に変わる! そう期待していい乗り味だった。
文:ベストカーWeb編集部/写真:レクサスインターナショナル
■メルセデスベンツ・ベンツもBMWも同じテイストを持つのはなぜか?
1989年アメリカで誕生したレクサスが日本でも展開を始めたのは2005年のこと。当初はGS、SC、ISというラインナップだった。2009年RXの発売以降、日本でもシェアを伸ばし、高級ブランドとして認められ始めた。
そのいっぽうで、クルマ好きからは「走りはトヨタ車とあまり変わらない」といった厳しい声もあがっていた。実際にメルセデス・ベンツやBMWからレクサスに乗り換えたお客様からは「物足りない」という不満の声も聞かれた。
当然、開発陣は「物足りない」のはなぜか? その理由を探り、レクサスらしさとは何のか? を追い求めた。
大きな転機を迎えたのは2017年に発売したフラッグシップLSの評価だった。「細かな振動が収まらない」「乗り心地が粗すぎる」といった声にあるようにフラッグシップとしては煮詰め不足だった。
GA-Lと呼ばれる新型プラットフォームを採用したが、手の内に入れた状態ではなかった。その後、現在に至るまでLSは改良され続け、2017年の発売当初とは“別モデル”になっている。
■2018年に始まった乗り味の統一活動
LSの消化不良は開発陣にも衝撃を与えた。フラッグシップがぐらついていては、ほかのモデルもいい乗り味が生まれるはずはない。
2005年に国内販売が始まった時から「レクサスの味」にこだわってきたが、どのクルマも同じ味を持つかと言えばそうではなかった。メルセデス・ベンツやBMWはどの車格に乗っても共通の「らしさ」がある。
しかし、レクサスの統一感はほかの高級ブランドに比べると希薄だった。CE(チーフエンジニア)ごとに価値観が違うことやベースとなるトヨタ車との違いを鮮明にしたいという思いが強かったからだ。
2018年からレクサスの乗り味を統一しようという活動を始めた。LSの課題はレクサス全体の課題だった。同じ考えでクルマづくりができていれば、課題が見つかった時に克服も速いし、他モデルへの展開もできる。
開発陣、特に車両実験部はレクサスの課題はボディ剛性にあると考えていた。数値的には大きな遜色がないように思えるが一体何が違うのか? メルセデス・ベンツやBMW、ポルシェといった高級車をばらして徹底的に調べ上げた。
一つの仮説が生まれた。欧州車の高級ブランドはどれも
1.ボディのフロント先端
2.リア後端
3.フロントバルクヘッドとセンタートンネルの接合部
4.リアバルクヘッドとセンタートンネルの接合部
の4カ所の剛性が上がるよう強化されていた。例えばフロントのサイドメンバーとエプロンメンバーをつなぐということが行われていた。
開発メンバーが試しにLSを改造し、同じように4カ所を補強した。違いは明白だった。「これだ!」と確信したという。
■下山テストコースでLSとNXを試乗
そのLSとNXにレクサスが開発拠点とする愛知県の下山テストコースのカントリー路で試乗した。カントリー路はニュルブルクリンクサーキットを模した1周5.3km、高低差75mの厳しいテストコースだ。
まずは4カ所すべてが補強されたLSでゆっくりとコースに向かう。30km/hくらいしかスピードは出ていないが、操舵フィールがいい。加速してコースに入る。現行LSに比べると、ギャップの乗り越しなどでの収束が圧倒的にいい。
横に乗る開発メンバーの方は「これまではボディを強くしようとばかり考えていましたが、土台をしっかり作れば、おのずとサスペンションは気持ちよく動いてくれることに気づきました」と教えてくれる。
100km/h近いスピードでうねるコーナーを走る際も、安心感があり、クルマが小さくなったような感覚になった。
そんなことを話すと、「今回の補強で、クルマの内側に力が加わるのでタイヤの性能を充分に使えるようになりました。だから、運転していて安心感が生まれるのだと思います」と解説してくれた。さらに開発メンバーの方の運転で後席に乗った印象は乗り心地がよく、粗い路面の収束も基準車との違いをはっきりと感じさせるものだった。
そして「土台さえしっかり作れば、ブレースなどで補強するよりも、結果的に軽量化にもつながります」と教えてくれた。
続いてNXに乗り換える。NXは2023年3月の改良でボディのフロント先端とリア後端の補強を行っており、テスト車両はリアのバルクヘッドとセンタートンネルの接合部の補強を加えたものだ。
動き出しからスッキリとした乗り味が新鮮だ。アイポイントも重心も高いので、基準車との差が明確となる。懐の深いサスペンションを手に入れたかのようで、運転に余裕が生まれていることがはっきりとわかる。いつしかスピードも上がっていた。
■すべてのCE(チーフエンジニア)が納得し、レクサスの方向性が定まった
レクサス共通の味を追求する「味磨き活動」はCEたちを実際にクルマに乗せて納得させることが重要だ。彼らが納得し同じ意識を持たなければ、うまくいかない。
当初CEたちには「そこまでやる必要があるのか?」とか「もっと違うところにお金をかけたい」という声もあがったが、試乗すれば見違えるようなクルマの動きに、ひとり、またひとりと同調し、今では改良時やフルモデルチェンジ時に補強を入れていくことになった。
クルマを変えるには、人間が変わらないといけない。なかなか難しいことだが、レクサスは時間をかけてそのスタートラインに立った。
新型BEV用プラットフォームと次期ハイブリッド車用プラットフォームは4つの補強を入れることを前提に開発され、MCなどでも積極的に補強が行われるというから、これからのレクサスは大いに期待できる。これならBEVも画期的は走りを披露するかもしれない。
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