クルマ好きたちの永遠の命題といってもいい「MT&AT」論争。近年ではATが進歩し、「レーサーでもない限り、ATのほうが速く走れる」という風潮もある。というわけで、(元)レーサーである松田秀士氏に、最近8速ATが追加されたトヨタ GRヤリスで、MT&ATに乗り比べていただいた!!
※本稿は2024年6月のものです
文:松田秀士/写真:奥隅圭之、トヨタ
初出:『ベストカー』2024年7月10日号
■GRヤリスはATで走ると楽しいのか?
8速ATモデルが追加されたGRヤリス。興味深いのは、これまでのMTモデルと比べてどうよ? ボクも興味津々。
MTモデルの6速に対しATは8速。当然、ドライブする前から、峠を走ったらギアがクロスしていてパドルシフトでコーナーごとにベストマッチなギアにシフトして、ストレスのないコーナリングが楽しめるはず!と思うよね。
■ATはローギア比で山道でのピックアップが楽しめる
が、ちょっと待った! 8速ATと6速MT、ギア比どうなってるの? そこが大事なんだ。
で、調べてみると面白い結果に。ATの7&8速はギア比1.0を大幅に切っていてファイナル比と掛け合わせた総減速比では2.6/2.1と完全にクルージングギア。
一方MTの6速も1.0を切っているが、ATの6速はちょうど1.0の直結。総減速比ではATの3.3に対してMT3.0。6速同士の比較だとATのほうがローギア比でエンジンは高回転になる。つまりMTの6速はクルージングギア。
なのでこれは1速~5速のギア比で対比する必要があるのです。たくさんギアがあるから8速ATのほうが峠では楽しい!という予測は見事に外れたのだ。
だけど実際に走らせてみると、ATは頻繁にパドルシフトして超楽しい。Dレンジをチョイスしていても「スポーツモード」ならブレーキング時に“フォン・フォン”と自動シフトダウンが楽しめるなど、かなりプロっぽい制御をする。
ATはギアがクロスしているというよりも、MTに比べて1速~5速がすべてのギアで低い。つまり回転が上がる方向。なので加速力がいいのだ。これATになったことによる+20kg増の車重分を帳消しにする効果がある。
ただーし、3気筒ターボの最大トルクは40.8kgmを3250~4600rpmで発生する。最大回転数は6500rpmあたり。つまり「美味しい」のはこの回転数の範囲で、とくにトルクでグイグイ引っ張る感覚はMTの3速、4速でしっかり味わえるのだ。
逆にATは1速2速でより高い回転数を維持。ストップ&ゴーやタイトコーナー立ち上がりのダッシュ力はMTを凌駕する。4速、5速もかなりクロスしているので、5速にシフトアップした時の加速力も頼もしいのがATだ。
実際に走らせた感想から言うと、峠で楽しいのはATだろう。1→2速でギュン!と引っ張って3速でワイドな速度域をカバー。中速コーナーは3速ホールドでカバー。さらにMTよりも低い速度で4速にシフトアップできるのだ。このギア比セッティングはラリーにチャレンジするドライバーにとって理想的だ。
ステアリング操作が大きくなるラリードライブにとってパドルシフト(ステアリング付)はかえってミスシフトに繋がる。GRヤリスのATではシフトレバーを前方に倒すとダウンシフト、手前がアップシフトなので瞬間的判断で両方使い分けられるのがいい。
ただ、サーキットを走るならMTだ。やはりMTの駆動ダイレクト感は素晴らしく、それほどギアがクロスしていないから、トルクを生かしてエンジン回転を引っ張る力強さは捨てがたい。
■ATとMTで操縦性も大きな違いがある
さて、肝心のハンドリングの話。ATは+20kg、しかもフロント軸重のみMTより重い。リア軸重は両車同じだ。このためフロントサスに手を加えているとボクは感じる。バンプストッピングラバーの長さか、ストロークデザインを変更しているかと想像する。
GRヤリスはリアがダブルウィッシュボーンなのでフロントのストラットサスとのロール軸の整合性をとるためにバンプストップラバーでストロークを規制している。なのでハードでかなり締まったサス。AWDだがFFベースゆえというのもある。
だが、MTのフロントはそれなりにロール時のストロークを確保している。対してATはそのストロークを若干規制しているのでコーナーを攻めた時、若干のツッパリ感がある。タイヤが早くつぶれてしまう。これが乗り心地にも現われている。
ホイールベースが短くトレッドが広いGRヤリスでは、たかが20kgでもその差ははっきりと出ていた。
●松田秀士はこう評価
・モータースポーツ入門者にはATもおススメだ
・シビアにコントロールするならMTだ
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