日頃からクルマに携わるその道のプロだからこそ、そのクルマについてわかることがある。「オレだけがわかる、このクルマのよさとそうでない点」について聞いてみた!(本稿は「ベストカー」2013年6月10日号に掲載した記事の再録版となります)。

文:ベストカー編集部

■プロが語った 故障の多いクルマ、少ないクルマ

トヨタ クラウン

 都内の複数の整備関係者に「10年を過ぎても故障が少ないクルマは?」と取材したところ、圧倒的に多かった答えはトヨタ車全般だった。そのなかでも故障が特に少ないのは手荒な使い方をするユーザーが少ないこともあるのかカローラ、マークII 3兄弟、クラウン。いまだに街中で20年落ちくらいの古い前記3モデルを見るのも多いことや、個人タクシーの車種を見ると圧倒的にクラウンが多いことなどからも大いに納得できる。

 トヨタ車以外は、「故障の多い少ないは若干の差はあるが、それほど大きな差はない。傾向としてはやはりコストのかかっている高額車のほうが細かい部分はともかく大きなトラブルは少ない」という見解が多かった。

 故障が多いクルマで名前の挙がったクルマは、やはり輸入車。「147や156あたりのひと昔前のアルファロメオは夏場の屋外駐車が続くとドアノブなど、インテリアの樹脂部品が溶けるというかベトベトになる」、「10~15年たった輸入車は窓落ち(サイドガラスが部品の劣化で支えきれずドアの袋部分に落ちる)は当たり前」、「古くなるとメーターなどの液晶部分が消えることはベンツ、BMWでもよくある」など、日本車では古くなってもあまり聞かないようなトラブルを数多く耳にした。

 整備性では日本車と輸入車で使う工具のサイズが違ってくるなど、業者の慣れによるところも多いが、全体的にはやはり「日本車のほうが整備性はいい」という声がほとんど。ただ、日本車でも「初代プレマシーなど、フォードと関係が深かった頃のマツダ車はブレーキパッドを替えるのでもやり方がふつうの日本車とまったく違っていて驚いた」という経験談も。

■プロが語ったエンジンのいいクルマ、よくないクルマ

セルシオのV8エンジン

 エンジンは本体の耐久性の優劣に関しては、それほど大きな差はないというのが大方の意見だった。

 しかし、ズバ抜けて耐久性が高いエンジンを挙げる声はあり、それはトヨタのエンジン。特にセルシオなどに搭載されたUZ系のV8、クラウンやマークII 3兄弟などに搭載されたJZ系の直6に対しては「エンジンのヤレを見受けられるクルマはほとんどない」との高評価。

 さらに、トヨタのエンジンに対しては「ピストンリングの劣化に代表されるシール性の問題を抱え、オイルを1000kmで1Lも喰ってしまうような状況になってもオイル量だけ見ておけばそれほど問題なく走ってしまうこともしばしば」と、痛手を負いながらでも何とかなるという強さは称賛ものだ。

 プロの目から見て評価の高いエンジンにはスポーツエンジンも多い。特に名前が挙がることが多かったのはトヨタの4A-GE、3S-G系、日産のRB系(直6)、ホンダのB型、F型、ランエボIXまでの4G63、スバルのEJ20だ。

 3S-G系、RB系(特に第3世代スカイラインGT-RのRB26DETT)、4G63、EJ20に対してはモータースポーツでの使用を想定し強靭なブロック剛性を持つこともあり、ブーストアップやタービン交換といったチューニングにも音を上げないタフネスさを、ホンダのエンジンに対してはブロック剛性を上げるためのリブの入れ方、S2000のF20Cはエンジンを開けるとよくわかる数々の高回転化技術などが高く評価された。

●そのほかのポイント
・ディーゼルのハイエースは大きな振動が出やすく比較的故障しやすい
・スバルの水平対向エンジンは10年を超えるとオイル漏れの症状が増える
・整備士泣かせなのがDOHCの水平対向で、手が入らない

■プロが語ったミッションがいいクルマ、よくないクルマ

80スープラのゲトラグ製6速MT

 エンジンに比べるとミッションの耐久性の差は大きい。

 まず丈夫なミッションとして挙がったのは、またしてもというかCVTを含むトヨタのATだ。特に、トルコンATに関しては「よほど乱暴な使い方をされていないかぎり、修理することはまずない」という評価を多くの関係者から受けた。

 MTでも耐久性の高いミッションは多い。トヨタのマークIIツアラーV&iR-V(2.5L直6ターボ)などの5速MT、80スープラの6速MT、ランエボVIまでの5速MT、2代目以降のインプレッサWRX STIの6速MTなどは、大きく負担のかかるドリフトやサーキット走行、ラリーやジムカーナといった競技に使っても「そうそう壊れることはない」と言われているほどだ。

 逆に壊れることの多いミッションは意外に多い。ATでは初代フィットなどに使われたCVT(CVT本体ではなく乾式単盤のスタートクラッチのほう、これはメーカーで保証が延長されている)、2代目オデッセイの2.3L車などの4速ATなど少し古めのホンダ車はちょっと注意が必要かもしれない。

 MTでは一般走行とはかけ離れた使い方をした場合にかぎってという話になるのだが、アルテッツァの6速MT、S15シルビアスペックR(ターボ)の6速MT、ランエボVIII~IXまでの6速MT、初代インプレッサWRX STiバージョンの5速MTなどといったあたりは壊れることがあるという。

●そのほかのポイント
・プジョー206や306などの4AT車はしばしばトラブルに見舞われ、ATの故障=クルマの寿命となるケースも
・10年落ちのアルファロメオのセレスピードなども要注意

■プロが語った足回りがいいクルマ、よくないクルマ

作業性の面で優れているのはハイエース。構造自体もシンプルで足回りもバラしやすいそう

 本誌連載の国沢光宏氏の達人コラムで何度か紹介された「ネオチューン」でも有名なこの道のスペシャリスト、サンコーワークスの喜多見孝弘氏に話を伺った。

 まず、作業性では「ハイエースがいいですね。隙間が多くて手が入りやすいですし、構造自体もシンプルですから足回りもバラしやすいと文句なしです」。

 続いてジャンル別に足回りのいいクルマを選んでもらった。

「コンパクトカーではスプラッシュ。ちょっと硬めですが、日本のコンパクトカーでは異例なほど足がしっかり動いていてビックリしました。ハイブリッドやEVといったエコカーだとリーフが圧倒的にいいです。あの味のふつうのクルマが出ないかと思うくらいです。SUVでは硬めだけど足がよく動いて不快感のないジューク、ザックス製ダンパーの採用もあって腰があるX-トレイルとデュアリス、意外なところではFJクルーザーはダンパー自体がいいです。

 ミニバンではエルグランドが高次元でハンドリングと乗り心地を両立させています。セダンでは昔のフランス車のように柔らかいのに腰があるティアナ、20インチタイヤなのが信じられないくらい乗り心地がいいフーガ、驚くほどシャープに動くレクサスLS460ですね」。

●そのほかのポイント
・現行オデッセイに代表されるホンダのミニバンのリアは作業性がよくない
・ダンパーの造りでは一番しっかりしているのがKYB、次が日立、ショーワはいいものもあるけどそれほどじゃないものもあり

■プロが語った塗装がいいクルマ、よくないクルマ

トヨタ プリウス

 日本有数のコーティング技術を持つポリッシュファクトリー代表の及川勝一氏に聞くと、

「日本車でいいのはトヨタとレクサスですね。全体的に安定して高いレベルの塗装になっています。特に先代プリウス、現行プリウスのマイチェン前までのパールホワイトなんかはセルシオやセンチュリー級でした。ただ、マイチェン後の現行プリウスあたりからは充分なクォリティではあるけど、塗装の厚みが薄くなっています。

 次にいいのが意外かもしれませんがマツダです。マツダは国内生産がほとんどですから、『メイドインジャパンの高いクォリティを維持しよう』という強い意地のようなものがあるのかも。軽自動車ではトヨタ系だからかダイハツがいいですね」

 日本車で塗装のクォリティがもうひとつなのは「ホンダとスバルですね。具体的には塗装って少し硬いくらいがいいんですが、ホンダとスバルは塗装が柔らかすぎで傷がつきやすいのと、近くで見るとちょっとネバッとした感じがして、美しさもいまひとつ。耐久性という意味では三菱の塗装はヤレが早い感じですね。それとレクサスのセルフ・レストリング・コートや日産のスクラッチコードといった細かい傷を自己修復する塗装は、3年くらいで機能が低下するのも気になります」。

 輸入車に関しては「フェラーリが一番いいですね。フェラーリの塗装って昔は価格不相応でしたが、F360あたりからは塗装そのものが劇的によくなったのに加え、日本に入ってくる時のPDI(納車前整備)が物凄く入念になったようで、塗装に入った本当に些細なゴミの除去や磨き傷の補修なんかもまったくない状態になっています」

●そのほかのポイント
・アストンマーチンの塗装自体はいいが、納車前に変な磨き方をされているケースが目立っている
・日本車の塗装はコストダウンが目立ち、輸入車は全体的に良好

■このほかにわかった「意外な評価」

●究極の走りと作りをアピールするR35GT-Rだが、意外なウィークポイント

 数多くの第2世代GT-Rと、現行型GT-Rの整備を手がけている神奈川県横浜市の「緑整備センター」に聞いたところ、「気になるのは偏摩耗があってタイヤの内減りが早くなっていること。それくらい。ただ、2011年モデル以降は急速によくなっていて、特に初期モデルにあった発進時のジャダーがヒドいといった症状は最近ではなくなり、大きく改善されている。一部でオイルシェルでも問題が出ていたのだが、現在はサス、エンジンマウント、ミッションマウントのほぼすべてが改善されている。

 ただし、強度不足のものも依然として存在しており、8000km走行したくらいでカムのクランクスプロケットが異常摩耗する個体もあるようだ」

●RB26DETTの意外な評価

 こちらも緑整備センターに聞いたところ、「R34GT-Rまでは鋳鉄ブロックだったからエンジン暖気に時間がかかったのがまずひとつ(R35GT-Rはアルミブロック)。もうひとつは標準ブロックがどうしても弱かったということ。さらに、このブロック自体にも『いい』『悪い』があって、オーバーホールする時に部品をオーダーしてダメなブロックだった場合には突っ返すこともあるね」

●トヨタ86の意外なダメな点

 ベストカーのラリーカーである86を担当しているモンスター東名横浜の長田聖人店長に聞いた。

「まずはリアデフの温度ですね。富士で20周もすると160℃を超えてしまうんですから。オイルクーラーくらいはつけていないとね。それとタイヤを取り付けている時のクリップボルトが折れやすい点。熱に対する耐久性がイマイチですね」

86はリアデフの温度に問題があり、富士で20周も走行してしまうと温度が160℃を超えてしまうのだとか

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【番外コラム】もう時効!? トヨタ86をチューンしているチューナーが語ってくれたハナシ。

「チューニングしていてつくづく思うのはコストダウンして作られたクルマだってこと。まずはマフラーの取り回し。リフトアップしてわかったんだけど、ノーマル車とはいえスポーティな性格のクルマならある程度きれいなパイプの曲げ方をするもんだけど、86はほぼ直角に、しかもパイプの内側がつぶれるようなラフな曲げ方をしている部分があるんだよ。もう排気効率をまったく考えていないような取り回しで、しかもサスペンションアームのような力のかかる部分の配管についても変な曲げ方をしている。コストをケチったんだろうな。それと6速MTのトリプルコーンシンクロ、このうちのひとつが樹脂製で耐久性が低いんだ。もちろん、開発陣としては上層部を納得させるため徹底的にコストを抑えて発売のゴーサインを取りつけるために涙ぐましい努力をしたということだろうね」

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