現代でもスーパーカーでしか見ないガルウィングドア。だが、約30年前の日本には庶民でも手が届いたお手軽ガルウィング車があったのだ。その名もトヨタ セラ。バブル時代の日本だからこそ出来たであろうこのクルマには衝撃装備が数多く存在していたのだ。
文:佐々木 亘/写真:トヨタ
■ガルウィングドアに工夫を凝らしすぎ!
まずもって、なぜセラがガルウィングドアを採用したかというと、ボディ形状を自然な丸みのドーム型にしたかったからだという。丸いキャビンに普通のドアでは、ドアやガラスの開閉に無理が生じるため、「丸いまま跳ね上げてしまえ」と閃いたらしい。
ただし、ただのひらめきで終わらないのがトヨタの凄さ。
一般的なガルウィングドアは、気候が寒くなると重くなり、温かくなると軽くなる。これはダンパー内に封入されたオイルの粘度が、気温によって変化してしまうため起こるのだ。
そこでセラでは、通常のドアダンパーステーに加えて、ドア内部にドア操作力温度補償ステーを搭載した。これにより、気温が変化してもほぼ同じ力でドアを開閉できるようになっている。
さらに、オープン時の雨滴の滑り落ちを少なくするドリップチャネル、握りやすいグリップ式のドアハンドル、ドアエッジプロテクターを取り付けるなど、使いやすさと機能性にとことんこだわった。
どうせ使うなら、最善の形に改良してしまえという思想が、セラの最大のチャームポイントであるガルウィングドアを、文字通り支えていたのだ。
■自然な丸みは室内でも映える
とにかく丸くて、ふんわりしていて、優しい。インテリアに目を移しても、セラの丸みへのこだわりは消えることが無かった。
ソフトな感じを生み出すラビ塗装のメーターフードとクラスターが、ドアトリムやリアシートへつながっていき、大きな流れを車室内に作り出す。インパネのスイッチ1つを見ても丸みを帯びており、四角いスイッチの角が無く、キレイに面取りされているのだ。
シートはヘッドレスト一体のビオラフォルムシート。ホールド感があり、淡いクリーム色のシートは、ふんわりとしたマシュマロのよう。今で言うと、ヨギボーに座っているような可愛らしさもある。
また、デザイン性の高さがありながら、リアシートは左右独立可倒式になっており、トランクスルーもできてしまう。遊び心と機能性が同居する、セラのインテリアはアイディアが多すぎて、ぶっ飛んでいるぞ。
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■専用タイヤまで作ってしまうセラの凄さ
セラの滑らかで快適な乗り心地を支えていたのは、当時新開発されたNAGI(ナギ)というタイヤだ。開発にはダンロップが携わり、振動・騒音の低減に優れた効果をあげている。
特に注目したいのは、この時代に非対称方向トレッドパターンを採用していたことだ。右用・左用が決まってしまうタイヤを、あえてセラのために作り履かせてしまう。セラの洗練されたスタイルやポリシーは、足元まで貫かれた。
クルマとは、まさに日常を超えて羽ばたくための道具であろう。それを開発段階から意識し、その思いのままに作り上げられたセラは、作る人にも乗る人にも、豊かな時間を提供したに違いない。
今から30年以上も前にこういうクルマが生まれている凄さ。いや30年前だからこそ生まれたのかもしれない。セラは、様々な方面で豊かだった日本を象徴するクルマであろう。こういうぶっ飛んだクルマが、令和でも現れてくれることを期待したい。
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