14代目クラウンが評判だ。強烈なデザインを与えられたフロントマスクも、見慣れれば立派な個性に見えてくる。クラウンらしい高級感はあるのか? 注目のハイブリッドの走りはどうか? 富士スピードウェイで試乗し、国内外のライバルと比べた。(本稿は「ベストカー」2013年3月10日号に掲載した記事の再録版となります)
TEXT/国沢光宏、竹平素信
PHOTO/中里慎一郎
■旧型HVとは別モノになった 新型は驚きがいっぱい!
(TEXT/国沢光宏)
何から書いたらいいのか迷うくらい情報が多い。
まずプリウスを知っている人なら、動力性能やハイブリッドシステムについちゃこれといった特徴なし。絶対的な動力性能を含め、プリウスそっくりである。
「モーターのパワーで走り出し、やがてエンジンかかり、モーターとエンジンの効率のよいトコロを使って走る。アクセル戻したり、ブレーキ踏んだら走行エネルギーで発電機を稼働させ、電気を蓄える」というパターンです。
先代のクラウンHVは基本的に3.5L V6のエンジンパワーで走るコンセプトだった。しかし、新型クラウンHVに乗るとモーターの存在を強く感じます。これこそトヨタ式ハイブリッド本来の姿なんだと思う。
絶対的な性能を求める人からすれば「先代より遅くなった」になるかもしれないけれど、私は「先代よりずっと知的になりましたね」と評価しておく。
■高く評価したいHV専用エンジン
すばらしいのはエンジンである。なんと最大熱効率38.5%ときた! こらもうよくできたディーゼルエンジンの熱効率すら大きくしのぐ。
もちろん全回転域&すべての負荷領域で38.5%を達成しているのでなく、一定の条件である。けれどハイブリッドなので最大効率に限りなく近い回転域と負荷で使っているからすばらしい!
加えてプリウスと同じく、180km/hまで全域完全燃焼となるストイキ(理想空燃比)制御だという。180km/h巡航してもディーゼルエンジンと真っ向勝負できる燃費なのだった。
驚くべきはリッターあたりの出力で、なんと普通のエンジンと遜色のない71馬力である。「凄い!」としか言いようがありません。
というのもプリウスに搭載される1.8L、4気筒の熱効率もクラウンHV用とほぼ同じだけれど、リッターあたりの出力は55馬力しかない。担当者によれば「トヨタで初めてのハイブリッド専用設計です」。プリウス用はどうか聞いたら、汎用エンジンの改良版だとか。
ちなみにSKYACTIV-Gのリッターあたり出力は1.3Lが65馬力、2Lで77馬力。クラウンHVの2.5Lは前述のとおり71馬力。これはガソリンエンジンの常識をブチ破るくらい凄いこと。
クラウンHVのエンジンをディーゼルに置き換えても燃費よくならない、ということ。ご愛敬なのが騒音と振動。相当頑張ったらしいが、プリウスの1.8Lと変わらず。エンジンかかったらハッキリ「かかりましたね」とわかる。
絶対的な動力性能もプリウスと大差なし。もちろんフル加速状態になったらシステム出力(エンジンパワー+バッテリーの電力で使えるシステム出力)220馬力のクラウンのほうが、136馬力のプリウスをしのぐ。けれど街中で走っている状況だと「プリウスより明確に速い」という感覚なし。
考えてみれば車重300kg近く重く(おおよそ20%)、加えてモーターの純粋なサポートパワーはバッテリー出力の関係でプリウスと同等。そもそもプリウスだって街中ならけっこうパワフルだ。
気になる燃費は、通常の2.5Lが9km/Lくらいのデータを出す走り方をして15km/L前後。先代のクラウンHVより確実に20%以上いい感じ。
どの速度域でも丁寧なブレーキングをすれば、コンスタントにいい燃費を出せ、反対に強くブレーキをかける乗り方だと、15km/Lに届かない。
FR車なので回生制動を大きくかけられないのだった(後輪だけにブレーキかかる)。プリウスでいい燃費を出せるなら、クラウンHVでもフルに性能を引き出せるはずだ。
2.5Lの普通のエンジンと比べ90kgほど重くなっているHV車の乗り心地とハンドリングはどうか?
結論から書くと「変わらず」。若干違うのかもしれないけれど、富士スピードウェイの移動路で試乗(といっても一周10kmくらいある)した限り、大きな違いを感じなかった。
ただ試乗日は外気温が超低かったためか、暖まるまでハンドル切った時に前輪が外側に流れる傾向。もちろん通常の走り方だとまったく気にならないけれど、緊急避難操作をするような時は少し不安かもしれない。
百歩譲って燃費を重視した低転がりタイヤを履いているなら、こういう特性であっても納得する。けれど足回りの開発担当によれば「プリウスなら話は違うでしょうけれど、クラウンなのでHVといえども転がり抵抗重視というタイヤを選ぶようなことはしていません!」と強く主張しているのだった。
個人的にはHVに限り、もう少しECOなタイヤを選んだらいいと考えます。あれだけエンジン効率で頑張ってますから。
タイヤはロイヤルが標準で16インチ。アスリート同17インチで、それぞれ1インチ大きいタイプをメーカーオプションしている。
当然のごとくタイヤ径が大きくなれば乗り心地も悪化していく。路面の継ぎ目のような段差を通過すると、少しキツめの「ドシン&ワナワナ感」を出す。通常は乗り心地がいいだけにもったいないと思った。
個人的な「う~ん!」は3つ。
まず「全方位衝突安全ボディ」と言っているが、アメリカで始まった25%オフセット衝突試験については「国内専用車なので検討したこともありません」。
また、今や当たり前のような装備になった停止車両への追突事故低減ブレーキも、停車機能は持っていない。
あくまでドライバーがブレーキを踏まないとダメ。さらにベースグレードは盗難防止アラームを廃止してしまったことに疑問を感じます。クラウンHVはトヨタのフラッグシップなのだから、最善を尽くしてほしかった。
■クラウンHV対内外のライバル
クラウンとライバルを比べた時の実力やいかに!
日本勢だとフーガHVでしょう。絶対的な動力性能とハンドリングはフーガHV優勢ながら、先代クラウンHVで実証しているとおり「速くてハンドリングいいけど燃費悪いハイブリッド」ってユーザーから支持されなかった。当然のごとくフーガHVも人気出ていない。こらもう考えるまでもなくクラウンHVの勝ちだ。
ベンツEクラスだとどうか。車格的にほぼ同じ。燃費と走りのバランスからすれば1.8L 4気筒ターボのE250(595万円)あたりになるだろう。
Eクラスは非常にいいクルマだと思うけれど、クラウンHVのように強い主張を持たない。偉大なる実用車というイメージ。ということを考えたなら、少しばかり割高かもしれません。クルマとしての魅力度もクラウンHVに届いておらず。
強敵なのが2Lのクルーンディーゼルを搭載するBMW523dである。燃費でクラウンHVに届かないものの、軽油のコストは20%程度安い。総合的に考えれば同等のコストですむ。
加えて4.5Lガソリンエンジン車に匹敵する太いトルクがもたらす走りの味も素敵だ。当然のごとくハンドリングや乗り心地でクラウンHVをしのぐ。価格は90万円高い633万円。充分迷う余地あります。
5シリーズにも『アクティブHV』というモデルがあるが、3Lターボを組み合わせる先代クラウン型。850万円と高いので論外だ。
輸入車のハイブリッドということだと、アウディA6でしょう。2L、4気筒ターボと54馬力のモーターを組み合わせており、クラウンHVと似たようなコンセプトである(ハイブリッドのシステムはフーガに近い)。価格も690万円。
ただボディサイズがクラウンHVよりひと回り大きい。ライバルはクラウンHVというより、間もなく出てくるといわれるマジェスタHVになるだろう。どちらが上質か? 乗り心地やインテリアの仕上げなどでアウディA6優位はカタい。
ちなみに日本におけるクラウンHVの真のライバルはBMW320dだと思う。価格と装備を見たらガチンコのイーブン。クラウンも、3と5の中間くらい。私なら320d(470万円から)と迷うことだろう。
歩行者まで見分けるという、アイサイト以上の性能持つ自動ブレーキ付きのボルボS60(379万円から)というチョイスも面白い。
■忘れちゃいけない! ガソリンモデルの出来はどうだ?
(TEXT/竹平素信)
ハイブリッドが注目される新型クラウンだが、ガソリンモデルもしっかり進化しておったぞ。
プラットフォームはゼロクラウン、先代クラウンと共用だが、車高を10~20mm下げ、安定感あるエクステリアデザインとしている。クラウンが進化するたびにロイヤルのベーシックモデルに乗り、進化の度合いを探ることにしているが、結論からいえばさすがの乗り心地とハンドリングのバランスだった。
V6、2.5Lは最高出力203ps、最大トルク24.8kgmと旧型と変わらないが、車重が40kg軽くなっているのがポイント。改良されたサスペンションのおかげだろう、しゃっきり感が増し、エンジンはトルクフルとはいえないが、加速のスムーズさは明らかに新型のほうが上だ。
クラウンといえば、やはり静粛性と乗り心地のよさが気になるところ。静粛性についていえばエンジンの駆動系から来るイヤなノイズはほとんど感じられず、気になったことといえば、高速域で生じるわずかな風切り音だけ。加速した時の高回転でのエンジンサウンドも上質で心地いいものだ。
乗り心地もしなやかで、快適だが、昔からのクラウンが持つ、包み込むような乗り心地のよさは若干失われた気がする。
ロイヤルらしさはひと言でいうならば、ソフトタッチの乗り心地なのだが、スポーティさが強調されたぶん印象が薄くなった。アスリートがあるのだから、ワシはロイヤルの乗り心地はもっとソフトなままでいいと思うのだが……。
アスリートのみの設定となるV6、3.5Lは、こちらもスペックは旧型と共通で最高出力315ps、最大トルク38.4kgmとなっている。しかし、新しくパドルシフトを持つ8速ATが組み合わされた。こいつのおかげで、アクセルを踏み込んだ時の加速感は旧型を大きくしのぎ、ハンドリングのダイレクト感も増している。アスリート史上最も完成度が高いかもしれない。
ワンタッチで切り替えられる走行制御モードが設定され、スポーツモードに切り替えると、EPSやAVS、VGRS(3.5アスリートのみ)の制御がスポーティなものに切り替わり、爽快な加速フィールが味わえる。
2世代前のゼロクラウンから操縦安定性が一気に向上し、先代は若干おとなしくなったものの、着実に走りの高級車としての地位を築いてきた。
新型はその延長線上にあり、さらに一体感のあるハンドリングになった、と評価したい。ロールは少なくリアタイヤのグリップも増している。飛ばしても安心感があるのはさすが、クラウン。
ハイブリッドに注目が集まるが、ガソリンモデルも存在感をアピールする。
■アスリートに設定 テラロッサが気に入った
インテリアカラーはアスリートに設定されるテラロッサがいい。ハイブリッド、ガソリンモデルともアスリートS、アスリートはワインの銘柄にもなり、イタリア語で「赤い土」という意味のテラロッサがインパネのブラックとよくマッチし、ファッショナブルだ。
シート表皮はファブリックだが、このカラーなら高級感もある。
■安全装備も大進化!
(TEXT/編集部)
アクセルを踏んだまま、慌ててバックからドライブにシフト変更した場合、エンジン(HVならモーター)出力を抑えるドライブスタートコントロールをトヨタ車初装着。
また、これまでのクリアランスソナーの機能に加え障害物との接近を感知した場合、エンジン出力を抑制するインテリジェントクリアランスソナーもトヨタ車として初装着。HV車には歩行者を保護するポップアップフードも採用する。
■減税とお買い得度
(TEXT/編集部)
新型クラウンシリーズでエコカー減税の対象になるのは、ロイヤル、アスリートともハイブリッドだけ。ハイブリッドは免税となり、ハイブリッドロイヤルサルーン(469万円)で約23万1000円、ハイブリッドアスリートG(543万円)で約26万2700円の減税となる。
■販売店の評判
(TEXT/編集部)
ディーラーの反応はバツグンによく、12月25日の発売前から多数の受注があり、発売約1カ月後の1月29日時点で約2万5000台(目標月販台数4000台)にもなったという。うち66%がハイブリッドで、ロイヤルとアスリート比率では56%がアスリートだ。
(内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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