いすゞの普通免許で運転できる小型トラック「エルフmio(エルフミオ)」ディーゼル車の正式発売が7月24日、ついに発表されました。発売スタートは同月30日から。国産小型トラックの歴史に新たなページを加えるエルフミオの解説とともに、先行試乗レポートをお送りします!
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
「普通免許で運転できるエルフ」の意義
エルフミオについては、ジャパンモビリティショーや東京オートサロン、ジャパントラックショーなどで実車が参考出品され、本フルロードWEBでも詳解してきたトラックですが、改めておさらいしましょう。
まず、いすゞの「エルフ」は、2トン車と呼ばれる積載量2~3トンクラス小型トラックの中で、もっとも売れているクルマで、配送・物流、建設、ごみ収集、運搬、消防、レンタカーなどなど、幅広い分野で活躍しています。
しかし、2017年3月12日以降の運転免許制度では「準中型」以上の資格が必要となり、特にお買い物スタイルとして定着したネット通販の品物を届ける、小口配送ドライバーの裾野が著しく狭まることが危惧されています。
そこで「エルフミオ」は、いまの普通免許、さらにいえばAT限定普免でも運転できる、車両総重量(GVW)3.5トン未満のキャブオーバー小型トラックとして、2023年3月発売の7代目エルフとともに開発が進められてきました。
エルフミオ最大の特徴は、1.9リッターという小排気量の直噴ディーゼルエンジン・RZ4E型の採用をはじめとするシャシー重量の軽減により、最新排ガス規制適合のクリーンディーゼル車でありながら、荷台架装を含めても最大積載量1トンあるいは1トン以上が確保できることです。
現在、普免で運転できる1トン積み小型トラックとしては、トヨタの「ダイナ1.0t系」と日野の「デュトロZ EV」があるものの、前者はガソリン車、後者はバッテリーEVであり、今までどおりに扱えるディーゼル車が存在しないゾーンでした。そのため、エルフミオは「普免で運転できるディーゼルトラック」として、トラックユーザーが待望していたクルマだったのです。
4ナンバーに収まるコンパクトさでハンドルもよく切れる
エルフミオのキャビンは、30年ぶりに一新された7代目エルフの標準キャブと同じで、パッと見もクルマのサイズも、実は2トン積エルフ(注:標準キャビンE尺フルフラットロー平ボディ車など)とあまり変わりません。しかし装着タイヤの外径が15mmほど小さいので、着座位置が少し低く、より乗降性に優れています。
エルフミオ本来の基本グレードは「ST」というベーシックな仕様ですが、試乗車は装備仕様を充実させたグレード「SG」で、キャビン内の眺めや居心地も2トン積エルフとほとんど同じというものでした。
さて、試乗車は4ナンバー(小型貨物車)登録の平ボディ完成車で、3サイズ(全長4690mm・全幅1695mm・全高1960mm)はトヨタ ハイエースバンに近い数値です。エルフミオは前輪の切れ角が大きく、ホイールベースが2500mmと短いので、最小回転半径は4.4mと非常に小回りが利きます(ハイエースは5.0mだが小回り性はこれも乗用車以上)。試乗コース内にポールコーンで仮設された幅員の狭いS字路も、あっさり通り抜けてくれます。
同じシャシーを用いた、ラストワンマイル物流向けの「軽量バン」(トラックショー参考出品車)には試乗できなかったのですが、荷台架装によってサイズ(全長4840mm・全幅1745mm・全高2720mm)が1ナンバー(普通貨物車)登録となるものの、全高以外は現行型アルファードよりもコンパクトで、トラックを運転したことのない人でも比較的馴染みやすいサイズとなっており、ドライバーの裾野拡大が期待できそうです。
さすがトラック用の1.9リッターディーゼル
RZ4E型1.9Lディーゼルエンジンは、以前から欧州向けで設定しているエルフGVW3.5トン車型や、ピックアップトラック「D-MAX」およびSUVの「Mu-X」に搭載されている小型商用車用エンジンで、日本市場では初登場です。
電子制御コモンレール燃料噴射システム、可変ジオメトリーターボ、DOHC、気筒あたり4バルブを備える直列4気筒エンジンで、エルフミオ用は低回転域でフラットなトルクを発生するようチューンされており、最高出力120PS/3000-3200rpm・最大トルク32.6kgm(320Nm/1600-2000rpm)という数値は、D-MAXなどとは異なるものになっています。
排ガスの後処理システムには、酸化触媒とディーゼル黒煙低減装置(DPD)、尿素SCRを搭載し、エンジン補機のEGR(排ガス再循環)システムとして、ホットEGRとクールドEGRの2系統も組み合わせています。これら排ガス浄化システムの組み合わせと制御も、日本向けに開発されたものです。
6速オートマチックはトルクコンバータ式で、アイシンが開発した小型商用車用ATを搭載しています。こちらも欧州向けエルフとD-MAX/Mu-Xの各AT車で採用されています。
試乗時は、キャビンに大人2人または3人が乗ってエアコン全開(外気温は35度)、荷台には500kgのウエイトを積んでトータル3トン前後……という状態で、GVWに対しては84~85%ほどの重量になります。しかしATなので、転がりだしはごくイージーで気難しさはありません。
いまどきの小排気量ディーゼルとあって、スムーズに軽く回り、ディーゼルトラック初心者にも馴染みやすいフィーリングです。あまり回さなくとも骨太なトルク感は、さすがトラック用のディーゼルエンジンという印象。ところが一気にアクセルを踏み込むと、びゅんびゅんシフトアップして、想像した以上に早いペースで時速60kmに到達、さらに80kmへ向かって伸びていくあたりは、制限速度の高い一般道や高速道路などでも走らせやすいと思われました。
中量車燃費基準を唯一クリア
エルフミオの制動装置は、フットペダルで操作するサービスブレーキ(車型によって4輪ディスクあるいは前輪ディスク・後輪ドラムとなる)のみで、トラックの補助ブレーキでおなじみの排気ブレーキはありません。
そのかわり、ATのフロアレバーをDレンジ右のマニュアルモードに入れ、低位段を手動選択していく減速チェンジを行なえば、効果的にエンジンブレーキを発生させることができます。もちろんこの減速チェンジは、状況に応じてフットブレーキと組み合わせながら操作すべきものですが、有効な減速手段にして使い勝手もよいものでした。付け加えると、フロアレバーは左手を自然に降ろしたところにあり、シフト操作時のレバーストローク感も絶妙という、優れたインターフェース設計になっていると思います。
トラックの乗り心地は、積載量によって変わるものですが、空積差が1トンほどであれば、あらかじめサスペンション、特にリアサスを硬めに設定する必要がないというメリットがあります。試乗コースが整った良路ということもありますが、エルフミオは半積載でも、後車軸が跳ねるような挙動をあまり感じません。
前後異径タイヤ(前185/75R15・後145/80R13)のフラットロー(超低床)、前後同径タイヤ(185/75R15・リアは複輪)のフルフラットロー(全低床)それぞれに試乗、これらはサスチューンと最終減速比は異なっているのですが、試乗コースに限ればどちらも似たような走りで、乗り心地そのものは、強かにしてソフトというエルフの味を受け継いでいました。このあたりは、メーカーのトラックづくりのポリシーを感じるところです。
燃費は国交省審査値でリッター13.5~13.6km(JC08モード)と、このクラスで2022年度中量車燃費基準を唯一達成しています。GVW1.7トン超~GVW3.5トン未満のトラックは燃費基準の達成自体が難しいのですが、さすがディーゼル車といえるでしょう。なお、これから燃費測定の標準となっていく国際調和基準WLTCモードでは、リッター10.8~11.1kmという数値になります。
エルフミオのバリエーション
エルフミオ・ディーゼル車のキャビンには、シングルキャブのほか、後部を300mm延長したスペースキャブと、6人乗りのダブルキャブが用意されています。全車ホイールベース2500mmの「E尺シャシー」のみで、フレーム高さは、前後同径小径タイヤ全低床のフルフラットロー(後輪ダブルタイヤ仕様・同シングルタイヤ仕様の2種)と、前後異径小径タイヤ超低床の「フラットロー」後輪ダブルタイヤの1種の計3種を設定します。将来的には総輪駆動(4WD)車型も追加する方針とのことでした。
また、荷台架装付きのメーカー完成車として、平ボディ、軽量バン、ダンプを設定しており、キャンピンクカー専用シャシーの設定も予定されています。ただ、エルフミオはトランスミッションPTOに対応していないので、特装車の展開は限られるでしょう。そのためダンプ完成車では、12Vバッテリー電源(エルフミオは24Vではなく12Vなのです)による電動油圧式のホイスト機構が用られています。
なお、エルフミオは、エルフのボトムレンジだった積載量1.5トンモデル(準中型免許が必要)に与えられてきた型式「NHR」を受け継いでいます。とはいえ、いまのところ1.5トン積みに対するニーズもあるため、受け皿となる1.55トン積みモデルが2トン系の型式「NJR」に用意されています。
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