軽自動車は豪華になり、年齢を問わずにコンパクトカーに乗ることが当たり前になった昨今。小さいクルマに対する世の中の評価は、この四半世紀で大きく変わったように思う。こうした流れを生み出したクルマの一つがコルサである。今回は、小さいからこそ出来たコルサの美学を見ていこう。
文:佐々木 亘/写真:トヨタ
■意外と長い歴史を持つトヨタのメインモデル
トヨペット店専売車として登場したのがコルサだ。ターセルやカローラIIを姉妹車にもつ。初代の登場は1978年と結構古く、1999年にドロップアウトするまで、5代21年の歴史を積み上げてきた。
4ドアセダンと3ドアハッチバックを用意するのがコルサの特徴。特に、3ドアハッチバックには、元気の良いイケイケなモデルが多かった。
1986年登場の3代目では、リトラクタブルヘッドライトを装備し、1.5LのSOHC12バルブインタークーラーターボのGPターボが設定される。マイナーチェンジでは、キャンバストップ仕様も登場し、ファンを驚かせた。
「小さいクルマだから」と妥協せずに、やりたいことを全部詰め込んでくるのがコルサの哲学。質感も走りも居住性も、全部我慢せずにやり切れるクルマなのである。
■デフレにも負けずにコルサを突き通す精神
ここからは、コルサの最終型となる5代目モデルに目を向けていきたい。
登場したのは1994年、日本経済のバブルが崩壊し、不景気真っただ中でコルサの最終型は登場した。フルモデルチェンジだが基本コンポーネントは先代からのキャリーオーバーで、コストダウンが図られた格好だ。
それでもコルサの思想は死んでいない。目指したのは、「只者ではない、小さいから飛び切り目立つクルマ」だった。
当時のカタログカタログには、「21世紀を目の前に控えて人間は慎みを知るようになってきたようである。(中略)大人4人が日本の街を快適に、安全に移動するために必要なセダンはこれくらいなのだ。(中略)これからのスモールはもっとはやる」と書かれ、小さいことが良いことだという勢いが感じられた。
事実としてコルサの登場後から、コンパクトカーが一大ブームを巻き起こす。カタログに記載された予言通りに、スモールはもっと流行った。
コストカットの影響を受けたコルサだが、最終型でもやりたいことへの熱量は消えていない。安全面は抜かりなくフル装備で、車両デザインも悪くない。シンプルだが、内装にもしっかりとこだわった。
特に運転席に座った時の、スイッチ類やペダル・レバー類の操作性は今のクルマもお手本にしてほしいほど。
エアコンやオーディオスイッチに手が触れるまでの距離感や、アクセルペダルやマニュアル車のシフトレバーの操作性には、細かな調整の跡がうかがえる。特にMT車の小気味よく入るシフトと、自然に左手の下がった場所にシフトがある配置は秀逸だった。
■可愛らしさの残る3枚目ハッチバック
また、乗る人の個性を柔軟に表現できたのがハッチバックモデル。デザイン的には可愛いのだが、キュートなだけではない。なんとも小粋なデザインなのだ。
バッチバックならではの使い勝手の良さや、新設定されたリアシートのヘッドレストが居住性も高めている中で、3代目コルサの特徴でもあったスポーティの要素も忘れてはいない。
なんと3ドアモデルだけに、エンジン回転数感応型パワーステアリングを備えているのだ。リアスポイラーをつければ、もう立派なスポーツハッチバックである。
当たり障りのない小さなクルマに見えるのだが、中には溢れんばかりの設計者の思いが詰め込まれている。細部を知れば知るほど魅力が高まるクルマ、コルサほど中身の濃いクルマは、これからも現れることは無いかもしれない。
今でもコルサは多くのコンパクトカーが目指す、お手本なのである。
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