ドイツ政府が出資する「水素燃焼エンジン」の開発プロジェクトが完了し、最終イベントでメルセデス・ベンツの多目的作業車「ウニモグ」など2台がデモンストレーションを行なった。

 既に運転・作業・燃料補給などの試験は終えており、水素エンジンの実用性は実証されている。今日のディーゼルエンジンに対する変更点が最小限で済み、PTOによる動力供給など使い勝手や信頼性が変わらないなど、作業車で内燃機関を維持するメリットは大きい。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Daimler Truck AG

ドイツの水素エンジン開発プロジェクトが完了

ウニモグ「U430」試験車両とクローラダンプ。どちらも水素エンジンを搭載する

 多目的作業車の代名詞となっている「ウニモグ」などで知られる、ダイムラーグループの特装車メーカー、メルセデス・ベンツ・スペシャル・トラックスと、建設機械などを扱っているメルトルバウエル・バウマシーネン・フェルトリープスは2024年7月23日、水素燃焼エンジンを搭載するプロトタイプ車両2台を公開した。

 これは、ドイツの連邦経済エネルギー省が資金提供し18社が参画する「WaVe」プロジェクトの最終イベントとして行なわれたもので、共同開発した水素エンジンによるプロトタイプ2台が、実際に運転・オペレーションのデモを行なった。

 プロジェクトは2021年より活動しており、約1年間の計画・準備を経て2022年にプロトタイプの開発が始まった。

 その目的は特装系の車両に搭載されるディーゼルエンジンを水素ベースの駆動システムに置き換えても、これらの車両の使い勝手が従来とほぼ変わらず、コンポーネントの変更点も多くないことを証明することだ。

 イベントにはウニモグの試験車両と、メルトルバウエルのクローラダンプ(履帯式ダンプトラック)の2台が登場し、これによりプロジェクトは成功裡に完了した。

 ウニモグに搭載する駆動系の試験は、1年以上にわたって行なっている。クローラダンプは2024年春から運行を行なっており、初期の試験を通じて、用途に固有の性能が実証されたという。

量産化にはさらなる研究が必要?

フロントマウントスイーパーの作動もデモンストレーションされた

 メルトルバウエルの敷地内で行なわれたイベントでは、水素エンジンにコンバートされたウニモグ「U430」試験車両が、クローラダンプを積載するローローダーをけん引した。

 走行デモのあと、開発者たちは移動式水素ステーションで充填プロセスを披露し、また、ウニモグはシュミット製のフロントマウントスイーパーのデモも行なった。

 メルセデス・ベンツ・スペシャル・トラックスのトップ、フランツィスカ・クスマノ氏は次のようにコメントしている。

 「メルトルバウエルなどのパートナーと実施してきたプロジェクトも、これが最後のイベントとなります。開始から3年しか経っていませんが、本日デモンストレーションを行なった両車は非常に満足の行く開発段階に達しています。

 様々な試験的な展開と、排出量の測定、技術的なチューニングを行ないました。私たちは、大出力が必要とされる作業用車両において、水素燃焼エンジンの可能性を確信しております。水素エンジンは車両の駆動用としても、また架装する機器の駆動用としても実用的かつ低排出です」。

 メルトルバウエルのアルミン・メルトルバウエル氏のコメントは次の通りだ。

 「クローラもウニモグも気体水素を簡単に充填でき、従来同様に機器を駆動できるという事実は、この研究パートナーシップが力を合わせた結果です。

 私たちはこの技術を研究し、理解しました。また、私たちは経験とデータをもっています。しかしながら、量産のためには研究をさらに進める必要があります。政府や社会が水素燃焼エンジンに向けた道を選択するのであれば、私たちはそのための準備ができています」。

「作業車」では内燃エンジンのメリットが大きい

メルトルバウエルの水素エンジンクローラダンプ

 こうした特装系の作業車、いわゆる「働くクルマ」を設計するにあたり最も重要なのは、搭載(架装)するそれぞれの機器がきちんと運用可能であることだ。

 作業用の架装物は千差万別だが、基本的にPTO(パワー・テイクオフ)と呼ばれる機構を通じて、車両のパワートレーンから動力を取り出している。

 水素燃焼エンジンなど、内燃機関のまま脱炭素を進めることのメリットの一つがPTOによる架装物への動力供給で、エンジン/トランスミッションから動力を取り出すので、従来の機器を同じように駆動できる。

 車両を電動化した場合、架装物を電動化したり、あるいは車両に電動メカニカル式のPTOを追加するなどの対策が必要になる。

 WaVeプロジェクトは、こうした用途に水素燃焼エンジンが適していることを証明することが目的であり、2台のプロトタイプは優れた例となった。水素駆動というコンセプトは、運転時や機器の駆動時、あるいはその両方を同時に行なうようなエンジン負荷が高い状態でも、確実な低排出を実現する。

 ウニモグとクローラダンプの両方が、水素駆動用にコンバートされた中型エンジンを搭載している。ディーゼルエンジンからの変更点は、ピストンのカスタマイズと、吸気系を水素に対応させたこと、点火システムを水素に最適化したことなどだ。

 水素を燃焼すると水が発生するが、排気管を通って高温の水蒸気が排出される。

 ウニモグは圧力700barの気体の高圧水素を合計13kg搭載する。エンジン出力は290hp(1000Nm)で、馬力とトルクは300hp版のディーゼルエンジンとほぼ同等。多目的作業車であるウニモグは、アタッチメントを交換することで様々な作業に対応するが、プロトタイプでも実際の作業内容を開発に反映するため、多くのアタッチメントを試した。

 クローラダンプもエンジンはほぼ同じだが、燃料タンクの容量は、700bar圧力で14.5kgとなる。ダンプベッセルの容量は16立方メートル、ペイロードは30トンだ。ボディは360度回転可能で、ドーザーブレードを備える。土木工事など不整地でのバルク輸送に活躍する車両だ。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。