ベストカー本誌で30年も続いている超人気連載「テリー伊藤のお笑い自動車研究所」。過去の記事を不定期で掲載していきます。今回はトヨタ カローラツーリング(2019年-)試乗です!(本稿は「ベストカー」2019年10月10日号に掲載した記事の再録版となります)

撮影:西尾タクト

■若返ったスタイルと必要十分な室内の広さ しかし「このクルマを欲しがる客層が見えないな」とも思ってしまう

今回試乗したW×Bはシリーズ最上級グレードで、17インチタイヤ、スポーティシート、LEDヘッドランプなどを装備

 昨年9月にフルモデルチェンジしたカローラのワゴンバージョン「ツーリング」。

 デザインは一気に若返った印象で、フロントのエンブレムがトヨタマークではなく「C」になっているのがいい。トヨタのマークはもう見飽きたし、今さら広く宣伝する必要もない。

 と、いきなりそんなことを考えたのにはワケがある。私はかねがね「なぜこのスペースをもっと有効に使わないのだろうか?」と思っていたからだ。

 フロントグリルの真ん中にあるエンブレム。なぜそこをもっと自由に使わないのか? シマウマのマークでもいいし、くまモンでもいい。なんだったら愛犬の写真を貼ってもいいかもしれない。

 ここは法的にもフリースペースなのだから、オーナーが自分の好きなマークにしていいのではないか。

 もしかしたら、今のクルマはここに緊急ブレーキ用のレーダーなどが入っているのかもしれないが、それでも「C」マークは付いているのだから、それをほかのものに代えることはできるはず。

 オプションで用意してもいいし、あるいは街のショップなどがユニークなマークを開発してもいい。このスペースはもっと有効に使えるのではないかと思うのだ。誰かやらないか?

 さておき、カローラである。外観を見るだけで車格が上がったことがわかる。

 ついにカローラも3ナンバーになったが、それでも全幅は1745mmに抑えられており、大きくなりすぎたわけではない。

 若返ったスタイルと必要十分な室内の広さ。明らかに進化しているが、しかし「このクルマを欲しがる客層が見えないな」とも思ってしまう。

サイズは全長4495×全幅1745×全高1460mm、ホイールベース2640mm(ツーリング)で歴代初の3ナンバーボディとなったが、海外仕様のボディを日本用に少し小さくしている
めずらしくヘッドカバーのない剥き出しのエンジンルーム。これぞエンジン! という感じが懐かしい。パワーユニットは1.2Lターボ、1.8L NA、1.8Lハイブリッドの3種類

 カローラは大衆車としての歴史が長すぎるがゆえに、デザインをいくら変えても変わりきれない、太い根の生えたイメージがありすぎる。

 包み隠さず言えば、7~8年に一度しかクルマを買い換えない普通の人たちにとって、カローラでは夢がなさすぎるのだ。

 乗れば凄くいいクルマになったことがよくわかる。足回りは意外と硬めでしっかりしており、大衆車のレベルをはるかに超えて、フォルクスワーゲンと言われても納得できるくらいの実力がある。完全にこれまでのカローラから脱皮している。

 それでいて運転手にストレスを感じさせないのが凄い。車庫入れの時はハンドルが軽く、スピードを出せば手応えが出てきて、そのあんばいが絶妙。

 運転しながら同乗者との会話に夢中になれるほど、いい意味で存在感がない。水のような、空気のようなクルマなのだ。

上質な走りを楽しめる一方、気を遣わず、ラクに運転できるのがカローラらしい。その美点は残されている

■車名を変えるべき? カローラには人気子役の悲哀がつきまとう

従来型とは比べものにならないほどの走りの上質感を持っている。その点では文句なしの仕上がりだ

 新しいカローラを見ていると、大人になって苦労しているかつての人気子役を想像してしまう。

 今、出てきたら「いい役者だ」と評価されるのに、子役の時のイメージが邪魔をしてしまう。

 昔の栄光があるから比べられてしまうクルマは多々あって、スカイラインもそうだし、シビックもそうだし、カローラもその代表的存在だろう。

 イメージチェンジに合わせて車名を変えるべきか残すべきか、これは凄く難しい問題だ。

 外野は好き勝手にカローラの車名はもう変えるべきだというかもしれないが、トヨタの社員にとって、この名前がどれだけ重要なのかを私たちは知らない。

 トヨタの人たちがカローラの車名を残した決断も尊重しなければならないだろう。

 しかし、ひとつ言えるのは、名前を残すなら残すなりの戦略が必要なのではないかということだ。

 例えば、今年登場すると言われているTjクルーザー。あんなクルマがもしカローラとして出てきたら、カローラのイメージは間違いなく変わるし、価値だって変化するだろう。

今年デビューする(らしい)Tjクルーザー。これがカローラだったら、イメージは一新する(※結局発売はされず)

 実は、ファッション業界ではそんなことは日常茶飯事で、メインのデザイナーが変わるたびに大きく変わり、コンサバな女子大生が好きだったブランドが急激に過激な路線に変わるようなことがよくあるのだ。

 アメリカのブルックスブラザーズもそうだ。かつては保守的なニューヨークのエリートしか着ないような服だったのに、デザイナーが変わったとたん、靴下が見えるような短いパンツのタイトなスーツを作って価値観をがらりと変えた。

 もしもTjクルーザーが新型カローラだったらみんなひっくり返るだろう。「これが令和時代のカローラだ」と言われたら黙るしかない。

 高齢者を相手にせず、20代、30代の昔のカローラをよく知らない世代にアピールしなければならない。

「残す」というのはそういうことだと思う。自社の伝統や財産を残すためにするべきことは、過去を背負うことではなく新しいものを生み出すことなのだ。

●テリー伊藤 今回のつぶやき

 新型カローラはよく頑張ったが、それでもまだ過去を背負っているように見える。伝統を残すには、新しいものを生み出さなければならない。

(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)

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