市販車の空力(エアロダイナミクス)が注目されるようになったのは1980年代に入ってから。空力の研究によりクルマの性能、特に高速走行時の安定性、燃費性能は飛躍的に向上し、今のクルマでは優れた空力性能は当たり前になってきている。ただその一方で、250km/h以上で走ることもあるレーシングマシンと速度域が違う市販車で、その効果は眉唾物という意見もある。そんななか、ホンダアクセスが一般ユーザーを対象として、実効空力の効果を体験できるイベントを7月15日にモビリティリゾートもてぎで開催した。その模様をレポートする。
文/ベストカーWeb編集部、写真/奥隅圭之
■ホンダアクセスの注目度は高い
ホンダアクセスは1976年にホンダ車用の用品を製造開発する会社として、「ホンダ用品研究所」という名称で立ち上げられた。1987年に現在のホンダアクセスに社名変更。そのホンダアクセスの名前を広めたのが『Modulo(モデューロ)』で、最初はアルミホイールのブランドだったが、その後エアロパーツやインテリア用品などモデューロブランドの用品は拡大していった。
さらにモデューロと言えば、ホンダ車のカタログモデルにも設定されていたコンプリートカーブランドのモデューロX(エックス)も有名だ。
■実効空力体感イベントを開催!!
そのホンダアクセスが提唱しているのが”実効空力”というもの。詳細は後述するが、簡単に言えば、超高速域でなくても低い街乗り速度域で体感できる空力効果のこと。
その効果を一般ユーザーに知ってもらいたいということで、7月15日にモビリティリゾートもてぎで『”実効空力”体感試乗会Vol.2 ドリキンと作る! 走る! 試す! プロトタイプ実効空力スポイラー試乗会』をベストカー主催で開催した。大好評だった2023年8月に開催した『夏休みに学ぶ実効空力体感イベント』の第2弾だ。
愛車に実効空力デバイスを装着した体験試乗会のほか、プロトタイプの実効空力テールゲートスポイラーを装着したシビック試乗など、盛りだくさんの本イベントについて順を追って見ていこう。
■厳選された10組&同伴者がイベントに参加
本イベントはベストカーWebにて参加者を一般公募。応募者が殺到したなか、10組のオーナーと同伴者という超絶に限定されたイベント。ご夫婦でそれぞれ応募した結果、奥様だけが当選したので同伴者として参加したという人もいれば、最も遠いところでは青森県からも駆け付けてくれた。
参加してくれた10組の精鋭のイニシャル、車種、出身地を紹介しておく。
■ホンダS660(東京都N・Eさん)
■シビック(埼玉県K・Iさん)
■シビック(福島県D・Aさん)
■シビック(山形県K・Sさん)
■シビックタイプR(宮城県A・Kさん)
■シビック(青森県Y・Nさん)
■シビック(埼玉県:Y・Tさん)
■N-BOX(東京都T・Uさん)
■ホンダe(千葉県A・Hさん)
■北米仕様4代目オデッセイ(茨城県・Y・Fさん)
第1回の時はソリオ、レガシィB4などホンダ車以外のオーナーもいたが、今回はオールホンダかつ人気の高いシビックが5台と半数を占めた。走り好きのオーナー諸氏は『ハイブリッドも魅力的だけど1.5Lターボに乗りたかった』声を揃えた。
変わり種は奥様、お子さん2人とともにファミリーで参加してくださったY・Fさんで北米モデルの4代目オデッセイ。『ボディは大きいけど、慣れたら日本のオデッセイじゃ物足りない』とコメント。それぞれが自慢の愛車でイベントに来場してくれた。
参加者のみなさんとも緊張しながらも期待に胸膨らませている感じがなんともいい。
■まずは座学でお勉強
体験試乗をする前にまずは座学。実効空力とは何ぞや、ということなどについてホンダコレクションホール内の一室でレクチャーを受けた。ベストカーWebの塩川編集長がMC役となり、”ドリキン”として世界的な知名度を誇るモデューロ開発アドバイザーの土屋圭市氏、ホンダ純正アクセサリーアンバサダーの大津弘樹選手、ホンダアクセスからは山崎純平氏、OBになった今でもモデューロの魅力を伝え続けている福田正剛氏が参加者のお相手をしてくれた。
福田氏は現在は定年退職しているものの、2023年までモデューロ開発統括を務め、”実効空力の神様”と一目置かれる存在なのだ。一方山崎氏はシビックのスポイラーの開発者で、両名とも参加者の疑問に的確に答えてくれた。
実効空力のキモとなるのは、シェブロンと呼ばれる鋸歯形状のギザギザしたパーツで、実はこれは一辺3cmの正三角形が横に並んだもの。特別な形状でもないし、素材だって段ボールでもOKというから不思議だ。
流速が高い場所であれば、どこでも効果を体感できるが、最もその効果が大きく体感できるのはリアだという。クルマは走行中に空気を切り裂くように走る。そしてボンネット、フロントガラスを経由してルーフ上からボディラインに沿って空気は流れていくわけだが、リアエンド付近では空気の流れが乱れやすい。その乱れとはすなわち気流が渦のようになっている状態で、シェブロンを装着することによりその渦を小さく霧のように砕くことで気流が安定するという。
これは体感的な物だけでなく、リアに装着した加速度センサー、ステアリングの操舵量、車体の揺れなどをホンダアクセスでは実際に計測しているが、すべてにおいてシェブロン装着前に比べて良好なデータが得られているという。
一方大津選手は、「空力は100km/hでないと効果が出ないと思っていましたが、シェブロンを装着したN-BOXに乗ってビックリ。皆さんもその効果を実感してください」とコメントし、空力に関する価値観が変わったという。
■いざ自らが製作!!
今回の実効空力体感試乗のメインイベントは、自作のシェブロンを愛車に装着して走るというもの。ということで、座学の後は各自がシェブロンを製作した。
シェブロンの素材は発泡スチロールの上下を紙でコーティングしたポップ材などで使われているスチレンボード。1辺3cmの正三角形が10個並んだものを各自3個製作する。三角形はすでに描かれていたので、それに沿って切り出すだけだが、これがけっこう難しい、というよりも時間がかかる。
「三角形の頂点、重なる谷部分がキッチリとエッジが出ていないと効果が薄くなります」(福田氏談)の言葉にプレッシャーを受けて、参加者は一様に慎重に作業を進めていた。
製作時間として45分が用意されていたが、切り出してはホンダアクセスの技術者に見てもらうなどしていたため、その間に完成した人のほうが少ないくらいだったが、皆さん無事3本を作り終えた。
好みで用意されていたマーカーで着色することも可能で、ファミリーで参加していたY・Fさん一家は、お父さん、お母さんが切り出したシェブロンを子どもたちが着色。なんだか夏休みの工作課題を家族でやっているようでほのぼのとしていた。
これで午前中のプログラムが終了。あとは実走するのみ!!
■午後の部は土屋氏のデモランでスタート
昼食を終えて、午後は試乗タイム。ホンダコレクションホールから、もてぎの多目的コースに舞台を移して試乗スタート。
実はこの日は午前中に雨がシトシトと降ってドップリ梅雨って感じだったが、試乗をする前に雨はやみ、主催者、スタッフ、参加者ともひと安心。「実効空力はウェット路面のほうが違いがわかりやすい」、ということだったので、試乗スタート時に路面がぬれていたのは最高のコンディションだったとも言える。
まずは土屋圭氏が所有するAE86トレノのデモランでスタート。土屋氏のデモランは合計2回行われ、1回目はフロントバンパー下、2回目はリアエンドにシェブロンを装着して走行。「フロントも効果的だけど、リアのほうがよりその効果がわかる。コーナリング時にリアの滑り出しが早くノーズの入りがいい」とその効果について説明。これは外から見ていても明らかで、コーナリングスピードは同じながら、リアにシェブロンを装着した時は明らかに旋回半径が小さかった。
■シェブロン有り無しのN-BOX試乗
さて参加者の試乗する番だ。まずはノーマルのN-BOXとホンダアクセスが試作したシェブロンを装着したN-BOXから比較試乗。速度リミットは50km/hで、2周旋回→ブレーキング→スラローム→ほぼ180度ターンしてギャップ超え、というコースを走る。まずはノーマル状態で走り、同じコースをシェブロンを装着してまた走る。
いやはや、こんなスピードで空力効果を体感できるのか? と傍目に思っていたが、2台のN-BOXの試乗を終えた参加者は「ギャップを超える時にはサスペンションが変わったかと思うくらいマイルドになった」、「シェブロンを装着すると旋回時に舵角一定に保てるようになった」、「コーナリングスピードが明らかに上がった」、「ブレーキング時に車体の乱れが小さくなった」などなどニコニコ顔。
■リアに装着すると効果がわかりやすい
不思議なくらいN-BOXで空力効果を体感できなかったという人は皆無。となれば、あとは時間の許す限り愛車に装着して走りまくれ!! A組5台(20分)→B組5台(20分)×2でA組、B組とも40分間が持ち時間。その間にフリードモデューロXを普段のアシとして使っている大津選手も走行した。
「リアだけじゃなくいろいろなところに装着してみてください」(ホンダアクセス開発者)の言葉どおり、各人フロント、リア、ルーフエンド、ボディサイド、リアスポイラーなどなどいろいろ試していた模様。
シェブロンを自作した時に不要になった三角形のパーツをドアミラーやフェンダー周りに装着したりしている人もいた。
「ルーフエンドまたはリアエンド(スポイラー下)がやっぱり一番効果がわかりやすい。特にリアエンドはクルマのスタビリティが格段によくなる」という意見が最も多かった。「燃費性能にどう影響が出るのかも試したかった」、「シビックタイプRだけでなくいろいろな車種向けのシェブロンを市販してほしい」などの貴重な意見も出ていた。
時間制限を設けてないと、延々とトライしてそうな参加者だったが、最後にシェブロンが搭載されているプロトタイプのテールゲートスポイラーが装着されているシビックに特別試乗。
■シビックのシークレット試乗
「マスコミ向けの試乗会もまだやってないプロトタイプのテールゲートスポイラーです!!」というのが参加者の気持ちを煽らないわけがない。
ホンダアクセスではシビックタイプR用にシェブロンを装着したテールゲートスポイラーを設定していた。シビック用はそのタイプR用のデザインを踏襲しているが、シビックに合わせた実効空力セッティングを行っていて、少し違った形状。ホンダアクセスでは現行のテールゲートスポイラーを装着しているオーナーへ交換キットも用意するというから注目だ。
ここでは今回5台集まったシビックオーナーが熱い視線を送っていたのは言うまでもない。ホンダアクセスが用意したのはe:HEVで、今回の参加者は5台すべて1.5ℓターボということで別グルマと言ってもいいが、みんな感激していた。特に「発売されたらすぐに買います!!」(Y・T)、この言葉が最大の賛辞だろう。
■プロだけでなく誰もがわかるのが凄いこと
そのほか土屋圭市氏の計らいで、同伴者として参加していた3名のお子さんを対象に土屋氏のAE86トレノ同上試乗が行われた。土屋さんのお陰で、またひとり貴重なクルマ好きの子どもが増えました!!
今回このレポートを書いている担当は、2023年のイベントに参加していないし、シビックタイプRのシェブロン装着リアウイングのモデルにも試作パーツを装着したN-BOXにも乗ったことがない。
正直なところ、シェブロンを装着することによって空力効果が見込めるのはわかるが、それを街乗りスピードでド素人が体感できるというのは信じていなかった。それがどうよ、乗った参加者すべてが例外なく効果が体感できたことを証言しているではないか!! ほんとかよ、という気持ちでイベントを見ていたのだが、イベント終了後にチョロっとだけ、改良型シビックにシェブロンを装着したモデルを転がさせてもらったのだが、「疑っててごめんなさい」だった。
いい商品とは万人がその効果を体感できることにある。その点シェブロンの実効空力は、酸いも甘いも知り尽くした土屋氏、1mmの車高にこだわるレーシングドライバーの大津選手という全身バリバリセンサーのおふたりレベルが体感できるのは当たり前ながら、一般ユーザーが例外なく体感できることが凄い。
今後いろいろな車種向けの商品化に期待がかかる。同時に今回のイベントのような一般人が体感できる貴重なイベントをもっともっと開催し、”実効空力”ファンを増やしてほしいと思う。
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