ホンダヴェゼルが、2024年上半期(1月~6月)の販売台数で44,164台に到達し、上半期SUV新車販売台数第1位となりました。トヨタ「ライズ」が生産停止となっていた影響もありますが、月販目標5,000台に対して月平均7,360台にもなったヴェゼルは、いまやホンダの大黒柱ともいえるコンパクトSUVです。ヴェゼル人気の理由はどこにあるのでしょうか。「ここはちょっと」と感じる点とともにご紹介します。
文:吉川賢一/写真:HONDA
荷室の使い勝手のよさはヴェゼル最大の魅力
初代モデルが2013年12月に誕生して以降、累計で66万台が販売されたというホンダ「ヴェゼル」。現行である2代目モデルは2021年4月に誕生、ゆとりの室内空間を実現するパッケージングは維持したまま、デザインやパワートレインなどを刷新しました。2024年4月にはマイナーチェンジが実施され、アウトドアテイストを織り込んだ「e:HEV X HuNT(ハント)パッケージ」を新設定するなど、さらに商品力が向上しました。
人気モデルだけあって、長所がたくさんあるヴェゼルですが、筆者はパッケージングのよさが最大の魅力だと考えています。たとえば、2列目シートを倒したときの広さはヴェゼルならでは。ヤリスクロスやキックスでは、後席を倒しても荷室に段差ができますが、ヴェゼルは、ホンダの十八番でもあるセンタータンク方式と、後席のダイブダウン機構によって、フラットで広大なスペースが確保できます。先代よりもリアガラスの傾斜が強くなったことで、現行モデルでは総積載容量がやや減ったように感じられますが、それでも荷室の使い勝手よさは、なおヴェゼルの強みといえます。
またドライバーの視界確保について、念入りなつくりこみがなされていることも魅力。運転席回りのナビゲーションモニターやメーターフードなどが、ドライバーの視界を邪魔しない絶妙な位置にレイアウトされているほか、ダッシュボードとサイドウィンドウのラインの高さを合わせ、Aピラーも運転席からは細く見えるように設計されています。当たり前すぎて有難みが伝わりにくい部分ではありますが、運転に不慣れな人であっても、自然と車幅感覚がつかめるようになっているのです。
おしゃれなデザインや高い走行性能、優れた低燃費など、基本性能の高さは誰もが認めることですが、ホンダが大切にしてきた優れたパッケージング技術が惜しみなく投入されていることで、ここまで人気となっているのでしょう。
ヴェゼルの中古車をもっと見る ≫ただ、内装の質感と加速性能はイマイチ
そんなヴェゼルですが、SNSでは「上級グレードだと400万円にも届く価格のわりに内装の質感が低い」「アクセルを踏み込んでも加速しにくい」など、オーナーからの不満の声もみられます。
確かに、インパネやドアトリムなどはプラスチッキーで、高級感はあまり感じられません。ノートオーラやCX-3のように内装が上質なコンパクトカーもあることや、ヴェゼルの車両価格を考えると、この内装の質感はすこし残念な点。加速性能についても、現行モデルは、先代のRSやツーリングのようなターボエンジンがもつ「刺激的な加速」はなく、ガソリン車、e:HEVともになだらかな加速フィールで、とびぬけて速い印象はありません。アクセルペダルの操作に対しては、キックス(e-POWER)やヤリスクロスハイブリッドのほうがはるかにパンチがあり、爽快な加速をします。
車両重量の増加(先代比で60~70kg)の影響も大きいのでしょうが、「万人にとって扱いやすい特性」を優先し、パワートレインのセッティングの考え方をがらりと変えた影響が大きいようです。「やんちゃで刺激的だったヴェゼル」はもはや過去のもの、ということでしょう。これはこれでアリではあるのですが、定着しかけた小型スポーツSUVのキャラクターを諦めてしまったのは、惜しい気がします。
バリエーションが絞られたのは、ホンダにSUVが増えたから!??
以前は、ヴェゼルとCR-VしかSUVがない時代もあったホンダですが、現在はWR-VやZR-Vが投入されており、2024年7月には新型CR-Vも発売になりました。SUVラインアップが少なかったことで、売れ筋であるヴェゼルには、スポーツグレードやラグジュアリーグレードを取り入れるなど、様々なバリエーションが用意されていましたが、現在はモデルごとにデザインや価格レンジで差をつけ、互いに競合しないようなすみわけが可能。そのため、ヴェゼルは万人にとって扱いやすい性能に特化したのでしょう。
先代の戦略と現行の戦略、どちらが正しい戦略なのかはわかりませんが、残念に感じているオーナーもいる一方で、人気が落ちるどころか上昇していることを考えれば、これでよかったのかもしれません。ホンダの大黒柱ヴェゼルは、今後もますます売れていくことでしょう。
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