通算5作目となる、GRスープラが2019年5月に誕生し、早5年が経った。昨今のスポーツカーはどれも長寿命となっていることが多く、GRスープラもまた、細かいマイナーチェンジを繰り返しながら、まだまだ生きながらえていくと考えていたが、ここにきて、早くも次期スープラに関する情報がでてきており、しかもBEVになるのではないか、とされている。

 そのベースとなると思われるのが、2023年10月のジャパンモビリティショー2023に出展されたトヨタのスポーツカータイプのBEVコンセプト「FT-Se」だ。

文:吉川賢一/写真:TOYOTA

これ以上次期スープラに適したスポーツモデルはない!!

 まずはFT-Seについて軽く振り返っておこう。FT-Seのコンセプトは、「TOYOTA GAZOO Racingが取り組む、モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりの思想のもと、カーボンニュートラル時代におけるスポーツカーの選択肢のひとつとして提案する、高性能スポーツBEVモデル」だ。

 ボディサイズは、全長4380mm×全幅1895mm×全高1220mm、ホイールベース2650mmと公表されており、現行モデルのGRスープラ(4380×1865×1295、WB=2470)と比べると、長さは同じで、全幅は30mm広く、全高は75mmも低い。背が低く、スタイリッシュなフォルムのこの2ドアクーペのBEVだが、スタイリング以上にその中身が衝撃的だ。

 航続距離は1000km、充電時間はわずか20分という驚異のスペック。前後に高出力モーターを搭載した4WDだ。小型化された電動パワートレインによって、前後のオーバーハングも短く、さらにクルマの四隅に大径タイヤを配置したことで、全長はGRスープラと同じながらも、190mmものロングホイールベース化を実現している。BEVによる低重心の効果も合わさり、運動性能や高速走行時の直進安定性が飛躍的に向上しているはずだ。レクサスを除くトヨタのトップエンドスポーツカーとして、これ以上、次期スープラに適したスポーツモデルはないと思う。

FT-Seのサイズは、全長4380mm×全幅1895mm×全高1220mm、ホイールベース2650mm
タイヤはフロント265/35R20、リヤ295/35R20のミシュラン製ハイグリップタイヤを装着。サーキット走行にも耐えうる性能が想定されているようす
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SUVとのつくり分けで、コストダウンを実現しようとしている

 ただ、ポルシェタイカンやテスラロードスター、アウディe-tron GTなど、BEVの高性能スポーツカーは、もはや珍しい時代ではなく、眼球が後頭部に食い込むかのような怒涛の加速といった特徴はどれも同じ。その点だけをみれば、FT-Seは珍しいBEVではないが、FT-Seは、SUVタイプの「FT-3e」と、プラットフォームレベルでの主要なコンポーネントを共用したことで、高額になりがちな高性能スポーツBEVのコストダウンを実現しようとしている。

 SUVとスポーツカーでは、求められる目標性能がまったく異なる。元メーカー開発エンジニアとして、スポーツカーとSUVをつくり分けるなんて離れ技は、思いついたとしても、とてもやろうとは思わない(というか、どちらも中途半端になると思い、手を付けない)手段だ。

 GRスープラがトヨタとBMWと共同開発となったのは、数を売ることが難しい2ドアスポーツカーに膨大な開発費を投入することを、トヨタもBMWも避けたかったため。「あのスープラが復活する!!」と、当時筆者含むクルマ好き界隈は盛り上がったが、蓋をあけてみれば、シャシーやエンジンはBMW製、輸入車の香りがするスポーツカーであった。トヨタの次世代EVプラットフォームが、どういった形になるのかは未知数だが、今度こそ、純トヨタ製造のスープラがカムバックすることになるかもしれないと考えると、このFT-Seの将来には大いに期待したくなる。

FT-Seのコクピット回り。ヨーク型のステアリングホイールの左右や奥には、各種情報を表示する液晶モニターがレイアウトされている
BEV化による低重心化とロングホイールベース化により、運動性能や高速走行時の直進安定性が飛躍的に向上しているはず!!

内燃機関も残るのでは!??

 クルマ好き読者諸氏としては、「次世代スープラがBEVでいいのか?」という問いはあるだろうが、2030年あたりに登場するクルマは電動化率がいまよりもずっと高いと思われ、残念ながら、なんらかの電動化なくして、モデル存続は難しくなるだろう。

 ただ、2024年5月28日に行われた、トヨタ、スバル、マツダによるマルチパスウェイワークショップでトヨタが発表した2.0Lのターボエンジンと、電動ユニットとの組み合わせなどを搭載し、次世代スープラでも、内燃機関を残すことは可能だと思う。「マルチパスウェイ」を目指すトヨタならば、必ず実現してくれると期待している。

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