遂に時間外労働の上限規制が始まってしまったが、あらためて問う、これっていったい誰の得になるのだろうか?

 「働き方改革」というからには、本来であればトラックドライバーが一番「得」を享受するはずなのに、当のドライバーからは「まったく余計なお世話だ」と総スカン。むしろドライバーの生活を脅かすものとして認知されてきている。

 では、いったい誰が得をするのか? どう考えても「誰得」なのかわからないし、得るものがないにも関わらず、失うものが余りにも多い、いわゆる「2024年問題」を引き起こしているのだ。

 だったら、こんな悪法はいっそやめちまったらどうか!? トラック輸送の現場を知りつくた長距離ドライバーのひろしさんの話に耳を傾けて欲しい。

文/長距離ドライバーひろしさん、写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
*2024年3月発行「フルロード」第52号より

トラック輸送の現場で感じる「2024年問題」への違和感

物流の働き方改革はドライバー不足に追い打ちをかける!? 世論と現場の感覚のズレを感じるとひろしさん

 世間でも「2024年問題」が取り沙汰されています。荷物が届かなくなるだの、鉄道や飛行機で代わりができるだの、ドローン、無人運転、中継システム、その他もろもろ、メディアや有識者が好き勝手な持論を述べています。

 ネットニュースを開けばその打開策のような関連ニュースが毎日のように投稿されていますが、現場を知らないというか、どれも現実味が無いというか、読んでいても気分が悪いので最近は見ることもやめてしまいました。

 大手メディアの人にとって日本国内の物流は、「通販」と「宅配」だけなんでしょうか? 生鮮食品、産地直送、工場間輸送物などなど、貸切トラックで走らないと輸送できない貨物もあるんですよ。
 
 そんな僕がこれらの問題を簡単に解決できて、今までと同じように荷物が安心して届く日常を過ごせる唯一の打開策を提案しましょう。それは2024年問題の根源である「働き方改革」という名の悪法をやめることです。
 
 運送業界に勤める人間が減小しているのは、拘束時間が長いから、仕事がキツイから……。本当にそうでしょうか? 実際は、拘束時間の長さや仕事のキツさ対して、給料が安いからです。運転手に限らずどんな職種でも仕事内容に対して給料が良ければ人は集まります。しかし働き方に制限をかけられれば、さらに給与は減り、物流の担い手はさらに減少するでしょう。

 一部の大手運送会社が、大々的に運賃値上げを発表しています。その理由が「燃料費の高騰」と、2024年問題での「人件費の高騰」となっていました。それってホントですか? それらの理由で運賃が上がるなら、下々の協力会社にも恩恵があるはずですが、給与面含めてなにも変化がないのですが……。結局、恩恵は大手のみで、業界全体には行き届いてないですよね。

ドライバーの給料をあまねく上げるために

 これは運送業界に限った話ではないと思いますが、昔から言われている多重下請けという形態を変えていかなければ、大手以外の給料なんか上がらないですよ。

 さらに働く時間の規制とかやられたら、ただキツイだけで給料の安い業界に誰が好き好んで入ってきますか? トラックが好きで運転手やってる人が大半だと思いますが、好きだけで働くのにも限界があると思います。運送業界の人手不足は加速していくと思います。

 仮に労働時間を規制された上で、今の給与水準を維持するなら、協力会社に支払う運賃は、安く見積もっても今の倍のじゃないとやっていけないはずです。運賃も上げずに働き方改革を進めると、運送会社自体がトラックを回せなくなるので成り立たなくなると思います。

 労働時間を守るために、ツーマン運行やフェリーとかもいわれていますけど、ツーマンで今と同じ運行をすれば人件費は2倍かかります。運賃が変わらなければ、給料は減ってしまいます。フェリーに何台トラックが乗せられますか? フェリーの運賃は? 近くに港がない都市はどうなりますか? 船舶の活用はひとつの案だとしても、物流すべてに対応できるとは思いません。

 今のように荷物が確実に届く生活を送りたいなら、今のままのシステムを維持するのが良いと思いますけどね。働きたい人間は働き、休みが欲しい人間は適当に休む。それじゃダメなんですか? そこは個人個人の考えで良いと思いますけどね。

 それから、世の中の運転手に対するイメージは、はっきり言って「底辺職」のイメージを植え付けられていると思います。SNSやメディアのトラック運転手に対する発言を見ていたら、「誰でもできる職業」みたいな感じの捉え方をされています。

 イメージの悪さは、一部の運転手にも責任があります。ゴミを道路に捨てたりオシッコをペットボトルに入れて捨てたり、これらは言語道断の行為です。しかし個人の行為を運転手全員がやっているかのように報道し、運転手という職業全体のイメージが固定化されるのは解せないところです。

トラック輸送の仕事は単純労働ではない

 クルマを運転するだけだから誰でもできる単純作業みたいな言われ方も目にしたことがあります。僕は、運転手は一人前になるには時間のかかる専門職だと思っています。実際、トラックの運転が専門職だった一昔前は、長距離なんか乗っていたら高収入が可能でした。

 そもそも運転手をやっている人間は「早く家に帰りたい」とか、「休みが欲しい」とか、サラリーマン的な考えの人間は少ないと思います。労働時間を短くすれば運転手が集まるっていう単純な話ではないはずです。

 トラックに限った話じゃないですが、バスやタクシーなども運転手のなり手が減っているらしく、免許を取りやすくするなど、いろいろな動きがあるようです。経験の少ないバスやタクシーに、僕は怖くて乗れないです。

 やはり経験値あっての専門職じゃないですかね。なり手がいないから免許や採用条件を下げるって、話の根本が違うので何の解決策になってない気がします。トラック運転手も免許があってナビがあるから大丈夫って話じゃないですよ。

 荷降ろし作業があるからなり手が減っているとかの話題も出ていますけど、仮に荷扱いは別の人がするとなったら、さらに運賃が下がると思います。荷扱い専門の人の賃金も発生するわけだし、輸送だけの運送会社に今と同じ運賃払いますか、ということになるのではないでしょうか?

ドライバーからは反対意見が多いなか、4月1日よりついに物流の働き方改革が始まった……

 それと2024年問題対応策で大型車の最高速度が上げられましたね。最高速度を上げることで労働時間等がクリアできるなんて本気で考えているんでしょうか? そもそも大型車には速度リミッターが付いていて時速90kmまでしか出ませんが、部品屋や大手路線屋は(燃費のために)競うように「社速」を下げて時速80km以下で高速を走っています。

 リミッター解除の費用を国が持つんですか? 大手が社速を上げますか? でも、最高速度を上げることによって、着時間など荷主の要求は今より厳しくなってくると思います、法律上の最高速度が10km上がったとしても何の解決にもならないと思います。

 それと、PA・SAの長時間駐車が問題になり「60分休憩マス」などができていますけど、意味ありますか? 1日の運転時間が決められ、休憩を取れと言われ続け、どこかに停まらないといけないのに、高速のPAやSAには停める場所もない。下道には大型車を停められる場所がない。はっきりいって運転手は八方塞がりですよ。

「働き方改革」という悪法をやめる勇気を

 まだまだ言いたいことは山ほどありますが、自分の言いたいことが上手く伝わったのか心配なところです。

 いつものことですが、政治家や有識者といわれる人たちは本当の現場を知りません。大手運送会社との会議などを踏まえて決めたであろうこの問題は「机上の空論」「綺麗事」に過ぎないと思います。

 もう一度言いますが、今までと同じ日常を過ごすために2024年4月から実施された「働き方改革」、勇気を持ってやめませんか? それですべての問題は解決します。

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