バス運転士不足の問題が深刻になるにつれ、自動運転バスでの期待が高まっている。自動運転といっても運転士のいない自動運転と、運転士は乗務するが運転操作の必要のない自動運転バスの2通りがある。本稿では前車の社会実験である岐阜市のバスに乗車したのでレポートする。

文/写真:東出真
編集:古川智規(バスマガジン編集部)
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■期待される自動運転バス

市民への宣伝はバッチリ!

 バスや鉄道などの公共交通機関において運転士不足による公共交通サービスの運用が難しくなっていることが問題になっている。各社対策を講じているものの、減便や路線廃止がニュースになっている。

 そんな中で注目されているのが、自動運転の電動(EV)バスやオンデマンド交通をはじめとする、次世代交通サービス「MaaS(Mobility as a Service、マース)」である。全国各地で自動運転バスの公道における実証実験が行われているが、そのうち岐阜市の自動運転バスに乗車したのでその様子をお届けする。

■岐阜市は自動運転バスが毎日走る!

岐阜といえば信長!

 JR岐阜駅にやってきた。駅を出ると出迎えるのは広い噴水広場と一際大きくそびえ立つ黄金の織田信長像である。岐阜市制120周年を記念して、市民の寄付により立てられたというものだが、その近くにあるJR岐阜バスターミナルが今回の出発地である。

 広場を見下ろすテラスにも「自動運転バス運行」という大きな垂れ幕が掲げられており、運行に対する期待は大きい。乗り場近くには赤いのぼりと、赤いバス停が設置されているのですぐに見つけられる。

 このバスは「GIFU HEART BUS」と称し、岐阜市が主体となり行われている自動運転バスの通年通行事業である。以前より岐阜市では人口減少や高齢化によるバス運転士不足や高齢ドライバーの交通事故などの課題解決に向けて、自動運転技術を活用した持続可能な公共交通サービスの構築を目指し、段階的に取り組みを進めている。

JR岐阜バス停

 実証実験はこれまでに2度行われている。そして2023年11月25日から「自動運転バスがいつも走っているまち」の実現を目指し、今回の通年通行事業がスタートした。

 期間は2028年3月31日までの5年間で、原則毎日運転される。なおBOLDLYが全体管理者として企画・運営を担うほか、自動走行の準備やBOLDLYが開発・提供する運行管理システム「Dispatcher(ディスパッチャー)」を用いた運行体制を構築している。

エアロスターと並ぶと小ささが際立つ?

 車両は全国各地で実績のあるGAUSSIN MACNICA MOBILITY(旧フランスNavya社)のARMAを使用、そして車両デザインは以前の実証実験では白い車体であったが、今回は赤いボディと視認性が高く印象に残りやすいデザインが採用された。外観や内装、バス停などのデザインはクルーズトレイン「ななつ星in九州」など多くの鉄道車両デザインも手がけている水戸岡鋭治氏が担当している。

■乗り心地が悪い要因は?

人が運転するよりもバス停に付けることができないのはプログラムのせい?

 バス停に向かうとすでに停車していたので、早速乗車手続きを済ませて乗車する。ちなみにこのバス運賃は無料だが、乗車するには原則として事前予約が必要である。乗車定員が10人ということも関係しているのだろう。予約は電話もしくはLINEの予約システムで行うが、当日空きがあればそのまま乗車することも可能だ。

 JR岐阜駅からは予約分と、当日分でほぼ定員の9人が乗車した。バスターミナルのロータリーを回ると駅前の通りを走行していく。車体の大きさもあるため道路を走っているというよりは、ちょっと道路の端を借りて走っているという感じである。行き交う自動車もそうだが通常の路線バスなどが横を走り抜けるとやや怖さを感じるほどだ。

■乗り心地が悪い要因は?

街路樹の枝を障害物と感知して自動でハンドルが左右に切られる

 走行レーンは特に設けられてはいないようだが各所に「低速車両の走行にご注意ください」「路上駐車禁止にご協力願います」という看板が設置されているので、一番歩道寄りのレーンを走行しているようである。それでも荷物の上げ下ろしなどで停車している貨物車があるので、それをうまく避けながらバスは走行していく。

運転士は乗っていないが係員は乗務している

 やはり普通の自動車や路線バスのようにうまく合流できるわけではないので、車の流れが切れたときを狙って車線変更を行っているようだ。またレーンの走行中も小刻みに左右に車体の向きを変えているように思えた。

 これは歩道などにある街路樹などが伸びてきたせいで、道路まではみ出たものをセンサーが障害物として感知してしまうためで、乗り心地が悪くなる要因が人間が運転する場合と比較して想定外のことで起こることが実証されていた。

■時速20キロは実用的なのかどうか?

最高速度が時速20キロなのは特定小型原付と同じ?

 次の「柳ヶ瀬」バス停で下車した。ダイヤ上では約9分となっているが、ここまで13分かかっていた。JR岐阜駅からの距離は約1kmなのだが、最高速度が時速20kmほどなのでゆっくりと岐阜の街を巡ってみるなら乗車してもいいだろう。ちなみにこの市内ルートはこのまま長良橋通りを北上し、岐阜市役所まで向かう。

 その後は金華橋通りに入って南下し市民会館、高島屋前と通って再びJR岐阜駅に戻ってくる。バスのダイヤは10時~16時まで30分間隔で1日12便が毎日運行されている。これほど交通量の多い地域を毎日自動運転バスが運行するというのは運行開始時は全国初だったという。

■非冷房車?

車内の気温は35度超!

 柳ヶ瀬バス停から商店街を抜け、「高島屋前」バス停までやってきた。ここから再び自動運転バスに乗りJR岐阜駅へと戻った。赤いバス停ということで見つけやすいようにも思えたが、ここのバス停は他の事業者のバス停と場所が異なり、岐阜高島屋の前ではあるが、アーケードの柱に隠れて分かりにくくなっていた。

 この日は岐阜高島屋が7月末で閉店するということで、いつもより多くの人が閉店セール目当てで来店しているようだった。

空調といえるのはこれだけ?

 そんな買い物客を乗せるために再びバスがやってきた。先ほどは1号車だったが今度は2号車に乗車することになった。ちなみにバスは3台あり、それぞれ内装が違うということなのでその違いも楽しみだ。

 JR岐阜駅までは約10分の乗車だった。運行開始から半年が過ぎたころだが、走ってる姿をカメラに収める人や、降車したあとバスの前で記念写真を撮ったりと、まだまだ珍しさの方が先行している印象だ。

 そして夏の乗車で気がついたことだが、このバスには空調設備がなくかなり蒸し暑い。車内に温度計が取り付けられていたが、当然ながら35度を超えていた。一応、扇風機が天井にあったがミニサイズで車内の温度を下げるには完全に役不足だ。

■実用には遠いが第一歩として実証を続けてほしい

定員10名なのはコミュニティバス向けなのか?

 今回は岐阜市を運行する自動運転バスに乗車した。平日は市内ルートのみの運行で、土日は岐阜公園まで向かうルートが1日3便設定されている。片道35分の乗車時間で岐阜市内を巡ることができる。

 現在はレベル2での自動運転だが、将来的にはレベル4での運行を目指すとしている。当初の目標では2023年度中をめどに信号機などのインフラと車両を連携し、自動運転率を向上させるためのに信号協調および路車協調システムを実装することとなっていた。

大型のゴルフカートくらいの大きさ?

 現在はレベル4での運行には至っていないものの、走行ルート上の信号機をバスに通知するシステムの整備は2024年6月で終わり、信号交差点でバスが進行や停止を自動で判断できるようになっているという。

 とはいえ、運行は日中の時間帯のみとなっており通勤や通学に使うにはやや時間がかかりすぎることもあり、路線バスの代わりとなるかと言えばまだまだクリアすべき課題は多いようだ。ただし5年という運行期間があるので、さまざまな実験と乗車の実績を積み重ねて、より実現性の高いモデルケースとして自動運転による公共交通の見本となることを期待したい。

さらなる実証で使いやすく便利になるか?

 幸い市民への宣伝はうまくいっているのか、2024年2月には利用者が1万人を突破し当初の見込みより早く達成している。さらに多くの人に利用してもらい「自動運転バスがいつも走っているまち」の実現を目指してほしい。

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