「名は体を表す」という言葉がある。原点の『ミニ』は1959年に初代がデビューし、その当時は究極の小型サイズのボディを持って登場した。
小型化するにあたり涙ぐましい努力をしてAタイプと呼ばれたエンジンを横置きにし、さらにトランスミッションをエンジンの下に潜り込ませた2階建て構造でコンパクト化を実現した。フロントに入らなかったラジエターはボディ左サイドに横置きされホイールハウスからエアを抜くという荒業だった。
当時のミニはまさに名は体を表していた。しかし、近年のミニはそうではない。最新の『カントリーマン』に試乗した。先代までは『クロスオーバー』と呼ばれていたモデルだ。
◆要はミニという名前の普通のSUV
MINI カントリーマン クーパーS初代ミニのサイズは全長が3048mm(10ft)、全幅は1434mm(4.7ft)、そして全高が1219mm(4.5ft)である。翻って今、新しいカントリーマンのサイズは4445×1845×1660mmである。65年の月日は全長で1.5倍近くに。全幅を1.3倍ほどにした。ライバルかどうかは定かではないけれど、新しいカントリーマンのサイズはプジョー『3008』よりもデカい。何を言いたいかというと、完全に普通のクルマになったということである。
今やミニの名を持つものの、他にライバルがゴロゴロいる普通のSUVの1台になったということである。ミニと名が付くからやれデカいだのミニじゃないなどと話がややこしくなるが、要はミニという名前の普通のSUVだと思えばどうということはない。つまりサイズをとやかく言う必要はないということである。サイズの呪縛から解き放たれたからか、室内空間やラゲッジスペースは明らかに大型化して、ライバルと比較し得る空間を得た。
エンジンは先代同様2リットル直4ターボ。1670kg(パノラマサンルーフ装着車)もある車重だが、余裕のパフォーマンスである。実は直前まで結構快適なクルマに乗っていたので、乗り出してすぐは硬質な乗り心地だと感じていたのだが、1時間も乗って慣れてしまうと、剛性感の高いがっしりとした印象に支配された。
◆大きくなっちゃってもミニらしいインパネ
MINI カントリーマン クーパーS大きくなっちゃってもミニらしいところがインパネの造作。例によってさらに巨大化した丸いセンターディスプレイにはすべての要素が詰め込まれ、ドライバーの眼前にはヘッドアップディスプレイのみが用意される。
そのヘッドアップディスプレイにしても、実際には意味は違うけど、ここを見る時はヘッドをダウンする。つまりウィンドーに投影されるのではなくて、ダッシュの上から出る小さなプロンプターに表示され、その位置はウィンドーよりも下のため、目線は結構下を向くということである。もっともヘッドアップとは注意喚起の意味だから頭をあげるという意味ではない。
その丸いディスプレイだが、基本ここにスピード表示や燃料計などが表示される。それ以外の走行に関する表示は、Powerと書かれたいわゆるアクセル開度をグラフ化して表示するものだけ。
MINI カントリーマン クーパーSナビも表示されるけれどあとは全てまあエンタメ系とでも言おうか、お遊び用で、BMWがミニを手に入れて以来標榜しているゴーカートフィーリングのディスプレイから始まって、コア(これがデフォルトらしい)、グリーン(これはエコ)、ヴィヴィッド、パーソナル、タイムレス、バランス、トレイルといった異なるディスプレイ(色、文字など)を表示できる。切り替えるとそのたびに登場テーマよろしく1フレーズの音が奏でられる。
また、バランスをチョイスすると突然シートのマッサージ機能が働いたり、夜間に表示を切り替えてみると、アンビエントライトの色が変わったりと、楽しむことには事欠かない。最近このセンターディスプレイにすべて押し込んで階層を深くしているBEVのモデルがあるが、ミニもそれなりに階層が深く、操作には手間取る。それに目線の移動はやはり少し移動量が大きくて、運転中はあまり見たくはないと感じた。
◆小さすぎて不便と敬遠していたユーザーを取り込める
サイズ的にも完全に普通のクルマ以上にでっかくなった印象は否定できないが、その分自動車としての機能は向上し、何でもリアのラゲッジスペースは最低でも505リットルもある。ミニらしいエンタテイメントは相変わらずだし、キビキビ感のあるゴーカートフィールは健在。乗って楽しい、使って便利、それに上質、豪華(ちょっと)とくれば、今まで小さすぎて不便とミニを敬遠していたユーザー(私のような)は間違いなく取り込める。
MINI カントリーマン クーパーS■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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