2024年2月15日に発売された三菱の新型1トンピックアップトラック「トライトン」。グレードはGSRとGLSの2種類で、価格はスタンダードモデルのGLSが498万800円~、最上級モデルのGSRが540万1000円~となる(写真:三菱自動車)

「ピックアップトラック」と聞くと商用車的なイメージを持たれる読者が多いのではないか? 実際、働くクルマとして世界中で活躍しているし、多くの自動車メーカーが商用車としてラインナップしている。しかし、ピックアップトラックは荷物だけでなく、人を快適に移動させることも大切に考えられた乗り物だ。

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キャブオーバー型とピックアップの違い

街中で見かけるトラックは「キャブオーバー型トラック」が多い。キャブオーバー型とは、ボンネット部分がないかわりに荷台を大きく確保したトラックのこと。いすゞ「エルフ」、三菱ふそう「キャンター」、日野「デュトロ」などが国内における小型トラックの代表モデルだ。

そのキャブオーバー型の荷台には約3mの長尺物が積載できる(一般的な標準ボディの場合)など効率良く運搬ができる反面、エンジンは乗員の真下に配置されるため車内は振動、音ともに大きい。今でこそ小型トラックのBEV(電気自動車)版も販売されているが、いまだ大多数はディーゼルエンジン搭載車だ。

新型トライトンのサイドビュー(写真:三菱自動車)

その点、ピックアップトラックは一般的な乗用車と同じくボンネット部分にエンジンを搭載する。そのため車内は静かだし、ボディの前半分だけ見ればSUVのようだ。後ろ半分が荷台だが、ボンネットがあるため前述したキャブオーバー型よりは当然、床面積はせまくなる。

ただ、キャブオーバー型と同じく背の高い荷物(地面から積載物の上部まで3.8mが基本制限で、軽トラックは2.5m)が積載できるなど使い勝手に優れるし、後部座席があるモデルなら乗車人数(トライトンの乗車定員は5名)も確保できる。そうしたことから北米をはじめ、アジア各国や中南米、中東、アフリカ、オーストラリアなどでは根強い人気を誇る。

最上級モデルとなるGSRの外観(写真:三菱自動車)

三菱自動車では、1978年に1t積みクラスのピックアップトラックとして「フォルテ」を発売。2023年までの45年の間に約150カ国で約570万台を販売してきた。今回試乗した「トライトン」はそのフォルテをルーツにもつ最新モデルで、同じく1t積みクラスのピックアップトラックに属する。

三菱の新型トライトン試乗レポート

試乗の舞台として2ステージ用意された。静岡県にある富士山麓の本格的なオフロードコースと、その周辺の一般道路だ。まずはオフロードコースに入り、本格的な悪路での走破性能を確認した。オフロードコースは最大斜度35度の険しいコースで、凸凹路面、すり鉢状の急斜面、ゴロゴロとした岩場やモーグル路面など多岐にわたる。

トライトンには三菱の誇るクロスカントリーSUV「パジェロ」譲りの高い悪路走破性能が与えられた。対角のタイヤが浮いてしまうような路面でもしっかりとした剛性を保つラダーフレームに始まり、取り付け剛性が高くストロークの長い前後サスペンション、そして低速域から十分なトルクを発生するディーゼルエンジンがそれを支える。

ヒルクライム路を走行するトライトン(写真:三菱自動車)

25度以上の斜度が約400m続くヒルクライム路では、4つある4WDシステム「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」から、4輪駆動でセンターデフがフリーの状態になるフルタイム4WDの「4H」モードを選び、7つあるドライブモードでは砂砂利は未舗装路に適した「グラベル」モードを選択。日常使いできる4WDモードだ。斜面手前の平坦路で一旦停止してからじんわりとアクセルを踏み込んでいく。

斜面に対するアプローチアングルは試乗した「GLS」グレードで30.4度(「GSR」グレードは29.0度)と十分で、顎を打つ心配なくスッと斜面に前輪を乗り上げる。そのままアクセルを踏み込むと、今度は豊かな低速トルクで、エンジン回転をそれほど上げることなく2tの車両をグイグイと引っ張り上げていく。

シフトノブの手前にドライブモードを選ぶスイッチと、4WDモードを選ぶダイヤルがある(写真:三菱自動車)

岩場では「4H」モードのまま、ドライブモードは砂利道や未舗装路に適した「ロック」モードを選択した。状況に応じてアクセルを少しだけ踏み込み、そこで一定開度を保っていると、大きな岩に対して確実に駆動力を伝えるアクセル特性によりスルスルと岩場を抜けていく。また、下り坂で「ヒルディセントコントロール」を機能させると4輪のそれぞれのブレーキを自動制御して、約4~20㎞/hの範囲で安全に降坂できた。

タイヤが浮き上がるような場面でも走破性は抜群

対角車輪が完全に浮き激しく空転するモーグル(こぶ)路面では、ローギア直結でセンターデフがロックされる「4LLc」モードに、ドライブモードは「マッド」モードを選択。これまでの走破性能から必要ないと思われたが、さらに後輪デフロックスイッチもオンにしてトライトンの「最強駆動モード」で臨んだ。

連続した凹凸があり、タイヤが浮き上がるようなシーンでも余裕の走りをみせるトライトン(写真:三菱自動車)

すると、1mはあろうかと思しき連続する小山を、クリープ走行+少しのアクセル操作だけで難なくクリアした。試しに降車してモーグル路面を歩いてみたが、すぐさま足をとられるほど。トライトンはそこをあっさりとクリアした。

トライトンの運転席まわり(写真:三菱自動車)

電動パワーステアリングの効果も高い。路面の凹凸を通過する際、ステアリングには反力(キックバック)が加わるが、その入力が穏やかでドライバーのステアリング操作を邪魔しない。ここは2019年2月の大幅マイナーチェンジで油圧→電動へとパワーステアリング方式の機構を変更した同社のミニバンSUV「デリカD:5」でも実感した部分だ。

一般道路にコースを移す。ここでは前席以上に、後席での乗り心地に感心した。トライトンは前輪サスペンションに優れた接地性能を誇るダブルウイッシュボーン形式を、後輪サスペンションには重量物への耐性が高いリーフ形式を採用している(日本向けトライトンの最大積載量は500kg)。

トライトンの後席(写真:三菱自動車)

ポイントはリーフ(板バネ)の枚数で、このクラスで一般的な5枚方式ではなくトライトンでは3枚方式を採用した点。構造的に路面の外乱や車体に加わる力で後輪の位置決めが難しいとされるリーフ形式ながら、トライトンは板バネ自体をスムーズに動く構造として乗り心地を確保しつつ、シャックルと呼ばれる車体との取り付け部位をトライトン専用に開発して、安定した積載性能と優れた悪路走破性能の両立を図った。

新開発となるディーゼルエンジンの実力は?

さらにトライトンでは直列4気筒2.4Lディーゼルターボエンジン「4N16型」を新規開発し、国内市場においては6速ATと組み合わせる。電動化うんぬんの時代に新開発のディーゼルエンジン?と疑問符が付きそうだが、電動化は適材適所で進めるとCO2削減効果が高いことが世界的にも実証されている。2009年7月、世界に先駆けて軽自動車のBEV「i-MiEV」を発売した三菱だからこそ、その信憑性は高い。

一般道での試乗シーン(写真:三菱自動車)

4N16型のカタログスペックは、最高出力204PS/3500回転、最大トルク値470N・mは1500~2750回転。このうち特筆すべきは低速トルクで、それこそアイドリング直上の1000回転前半から300N・m程度のトルクがある。よって、オフロードコースの急斜面ではトルクコンバーターのトルク増幅効果も加わって、回転を高めずとも静かに力強く上っていったのだ。

トライトンでは過給特性が異なる2つのターボチャージャーを直列に配置して、低速域から高速域まで続く途切れのない加速性能と、高い出力&トルク値を得た。完成度は高く、最高出力を発する3500回転を超えても急激な出力ダウンは起きず緩やかに出力が絞られる。だから、運転リズムがつかみやすい。

こうした優れた出力&トルク特性は、いわゆる「一気燃焼」と呼ばれる高効率な燃焼で得られたわけだが、ディーゼルエンジンといえば「NOx」(窒素酸化物)と「PM」(ディーゼル排気ガス微粒子/DEPとも呼ぶ)の発生が避けられない。このNOxとPMはいずれも人体、そして環境にも悪影響を及ぼすことで知られている。

前席のシートまわり(写真:三菱自動車)

NOxは一気燃焼で燃焼温度が高くなる(≒高い出力とトルクが得られる)と増える傾向にあるが、PMは約2000度にも及ぶ燃焼温度により大きく発生量が減る。逆に燃焼温度を下げるとNOxは減るが、今度はPMが増える。つまりNOxとPM相克関係にある。

そこで多くのディーゼルエンジンは一気燃焼を行いつつ、発生するNOxに対してAdBlue(尿素水)を還元剤に使うSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒で対応。また、連続する低速走行など排気温度が上がらない領域で発生するPMに関してはDPF(Diesel Particulate Filter)触媒で対応し、それぞれ人体に対して無害化レベルまで発生量を抑制する。トライトンはこの両触媒を備える。なお、トライトンが消費するAdBlue(100~150円/L)の量は1000kmごとに1~2L程度と極めて少ない。

ディーゼルエンジン特有の騒音も少なめだった

このエンジンはトライトンとの相性がとても良くて、しかも静か。車外ではガラガラというディーゼル特有の燃焼音が届くものの、遮音材の効果もあって車内への透過音は非常に少ない。具体的にはガラガラ音から耳障りな音域が大きくカットされ、シャカシャカ音に近い音のみ届く。よって連続する走行でも疲労度は小さかった。

トライトンの荷台(筆者撮影)

コースの特性上、今回は体感できなかったが、トライトンには三菱の誇る「AYC」(Active Yaw Control)が備わる。AYCは同社のスポーツモデル「ランサーエボリューション」(筆者は元「エボⅥ」乗り)で培われた技術のひとつで、滑りやすいフラットな雪道や砂利道では、カーブ内側前輪にブレーキ制御を介入させ、自然なカーブ走行性能を発揮させる。

カスタム心をくすぐるアクセサリー群

最上級モデルとなるGSRの走行シーン(写真:三菱自動車)

豊富なアクセサリーが用意されている点もトライトンの魅力だ。ディーラーオプションでは上級グレードである「GSR」に準じた外装にできるキットが用意されていたり、荷室をキャビンと同じ高さとなるカバーで覆う「キャノピー」(税+工賃込で68万6400円)が用意されていたりする。

なお、トライトンの登録区分は1ナンバー(普通貨物自動車)。そのため初回車検は2年、2回目以降の車検は1年ごとになるが、働くクルマとしての基本性能と、本格的な悪路走破性能、そして遊び心あふれるアクセサリーの数々はやはり魅力的だ。

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国内ではトヨタ「ハイラックス」が直接の競合車になる一方で、国内には導入されていないが、いすゞのピックアップトラック「D-MAX」もガチなライバル車だ。そのD-MAXのBEVが2024年3月に開催された「バンコク国際モーターショー」で世界初公開となった。2025年に欧州へ先行導入され、オーストラリアやタイなどへも展開されるという。

ライバルのトヨタ「ハイラックス」の特別仕様車 Z Revo ROCCO Edition (写真:トヨタ自動車)いすゞがバンコク国際モーターショーで公開した「D-MAX」のBEVモデル(参考出品車)(写真:いすゞ)

最後に以下の動画で4つの4WDモートや7つのドライブモードを中心に、その走行性能について詳しく紹介しているので、もし興味があれば併せてご覧いただきたい。

西村直人の「乗り物見聞録」
【 試乗 三菱 トライトン 4つの4WDモード 7つのドライブモード 富士山麓 オフロード&モーグル走行 】

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