平成ABCトリオのAとして知られるAZ-1(Bはホンダ・ビート、Cはスズキ・カプチーノ)。今では日本車で数えるほどしかないガルウィングを搭載したクルマであり、今でも根強いファンがいる個体である。しかしこのクルマが秘めているポテンシャルを知る人は少ないであろう。今回の記事では、そんなAZ-1の初試乗記事をリバイバルし、過去を振り返っていく。
※この記事はベストカー1992年11月10日号(著者は黒沢光宏氏)を転載し、再編集したものです
■コントローラブルなコーナーリングパワー
3年前の東京モーターショーでデビューし、同期の桜であるカプチーノとともに絶大なる支持を受けたAZ-1が(昔の名前はAZ550)、やっと発表された。カプチーノに遅れること実に1年! 「待ちくたびれたよう! 」と嘆いている人も多いんじゃなかろうか。
説明は後にしてとにかく試乗といこう! 舞台はイキナリ箱根のワインディングロードだと思ってほしい。最初のチェック項目はやっぱしハンドリング、である。まずは挨拶代わりに全開でコーナーに飛び込んだのであった!
するとどうだ! アクセルを「ばんっ! 」と戻すと同時に、リアが思いっきり流れるじゃないの。「うわっ! 」と驚くと同時に「おおっ、ミドシップから逃げてないな! 」と少し嬉しくなった。
なにしろミドシップの気持ちよさというのは「ハンドルを切ると即座にクルマの向きを変える」こと。でもそうすると敏感すぎて限界を超えやすいため、普通は反応を鈍くするのである。なかにはビートみたいに、最初から逃げてるクルマもある。
もう少しAZ-1のハンドリングについて解説しよう。まずは限界内のコーナリングだけど、進入から立ち上がりまでひたすら素直。ハンドルを切ると即座に横Gが発生。後はスムーズにハンドルを操作し、パワーオンすれば教科書のようなスローイン・ファーストアウトができる。
速度を上げるとどうだろう。徐々にコーナーへの侵入速度を上げていくと、アンダーステアが顔を出す。とはいってもこいつは全部のミドシップカーに共通の特性。
もちろんアンダーステアが出ても、そこはまだ限界じゃない。上手にセッティングされたミドシップは、ここからがウデのみせどころ。
ではどうするかというと、後はブレーキやアクセルのオン・オフを駆使し、荷重移動を使ってコーナリング速度を上げていくのだ。例えばコーナーの進入だったら、ブレーキをやや残して荷重を前輪に移動させつつハンドルを切る。
そうすると前輪のグリップ力は向上し、アンダーは解消。同時にリアは流されるため、クルマはきちんと向きが変わる。で、流れ始めたリアに適度なパワーをかけてやればスライドが始まるから、ここからはアクセルコントロールで流れる量を加減してやればよろしい。
これをコーナーの大きさに応じて使えばさらにレベルの高いコーナリングができるという寸法。ビートの場合はコーナーの進入でリアが流れない。その前にだらしなく前輪がずるずるアウト側に流れてしまうのだ。
なんでビートはハンドリングから逃げたかというと、ミドシップのセッティングは非常に難しいからだ。ミドシップは前輪より後輪の荷重配分が大きいため、コーナーで無理をすると最終的にはリアが流れてしまい、コントロール不能となる。
NSXやフェラーリ348でさえ、限界まで攻めるとコントロールは難しくなっていく。ホンダはそれを知ってるため、低い次元でクルマが曲がらなくなるようにしてしまったのだ。
そこへいくとAZ-1はよろしい。コーナーの入口で「ビシッ! 」っとハンドルを切ってやれば、か〜んたんにテールが流れるのだ。しかもコントロールできる範囲が非常に広い。カウンターなんぞは朝飯前。
NSXやフェラーリ348なんかだと、ほんの少ししかテールが流れたときのコントロールを受けつけてくれないのだ。AZ-1のコントロール範囲は、FRに近いといってよかろう。
■カプチーノと別物のエンジンなのだ!
じゃ、AZ-1のハンドリングはすっげーいいかっていうと、そうでもなかったりする。ある程度の腕があれば自由にカウンターを当てて走り回ることはできるけど、そこまでのレベルがなければ怖いだけ。
何しろ下り坂なんかでコーナリングしながら「あっ! ちょいとオーバースピード気味かな? 」なんて感じでブレーキを踏んだら、もうテールが出ちゃうんだもの。
カウンターが充てられる人ならいいけど、練習中のお兄さんだったらちょっとアブナイと思う。
しかも速度が上がるにしたがって、サスペンションはソフト気味になってしまう。日本の峠道の制限速度である60km/hまでは不安もないんだけど、それ以上出すならもう少しハードなほうがいいかもしれない。
加えてロールも大きめ。Kカーでここまでロ―ルを許すと、転倒する可能性も出てくる。ま、ジムカーナやサーキット走行を楽しむなら、見合った硬さのショックを付けること。
最近カート用のサーキットでタイムアタックをするのが流行ってるけど、ノーマルサスでホッチ走り(インの縁石に乗る例のスタイルよん)なんかやったら、まずコケると思ったほうがよろしい。
エンジンはどうだろう。雑誌には「カプチーノと共通の3気筒ツインカムターボ」と書いてあることも多いけど、正確にいえば間違い。カプチーノに搭載される3気筒は縦置きで、FR用の大幅なモデイフアイを受けているのだ。
AZ-1はFFのアルトワークスと同じ状態のままミドシップしており、フィーリング的にもカプチーノとは違う。カプチーノのエンジンは2000回転以下で凄い振動が出るが、AZ-1はアイドリングに近いところまでイヤな振動は出ない。
エンジン特性もAZ-1のほうが高回転型。カプチーノは低中速域を重視している。いずれにしてもパワーは充分といった感じで、タコメーターの針が3000~7000回転の間にあればターボならではの太いいトルクを充分に楽める。リミッターがなければ、きっと180km/hくらい出るだろう。
さて、このクルマをどう評価したらいいだろう? 知ってる人は知ってると思うけど、僕はビートとカプチーノを持っている。したがってAZ-1との比較ということであれば、世界一詳しいと思う。
まず個人的にはパス! というよりAZ-1に門前払いを食らわせられた。狭いのだ。ビートは意外にも前後長がたっぷりあって、183cmもまったく平気。カプチーノに至ってはチルトもテレスコもついてる。
AZ-1は前後長が狭く足が窮屈なうえ、シートのリクライニングも不可能だから手も余ってしまう。さらにハンドルは固定とくればお手上げ。きっと175cmを境に、文句は出てくるんじゃなかろうか?
ガルウイングドアも、ボクにとってはオープンポディより価値ある存在とは思えない。ベンツ300SLが憧れだった石原裕次郎世代にはナミダものなのかもしれないけど、それより屋根が取れたほうがいい。
という具合で、残念ながらAZ-1は3台目のコレクションにはなりそうもない。ちなみに受注状況だが、デビュー前に半年待ちだったビートやカプチーノと違い、平常のスタートとなっている。
■いちアルバイトスタッフより
ベストカーweb読者の皆様こんにちは。アルバイトスタッフのOです。いつもご愛読いただきありがとうございます。
通称”平成ABCトリオ”の”A”にあたるAZ-1は何といってもガルウィングと走るぞ! と言わんばかりの見た目、そしてミドシップが特徴的でしょう。
今回の試乗記事ではそんなAZ-1を取り上げました。同じ時期にツーシーターミドシップスポーツカーとして出たビートは、AZ-1からすると、カプチーノよりもライバル意識が高かったことだと思います。
記事を見るに味付けも全く違うこの二台。ミドシップに忠実に従っているAZ-1とハンドリングからあえて手を引いているビート。性格が全く異なる二台がミドシップとして出ていたこの時代が、少し羨ましく感じますね。
ただ、実用性の低さやバブル崩壊による売り上げの低迷等が重なりわずか3年ほどで販売終了になってしまいました。その影響で現存する台数の少なさからか、現在中古車相場は200~300万ほどと新車価格約165万より高い値段で売られていますね。
いまや(ピュア)スポーツカーという印象よりも、ガルウィングの印象が先行しているこのクルマですが、やはり本文でもあった通り、ミドシップゆえの不安定さがぬぐえないため、街乗りメインのロマンあるクルマとして今後もっと認識されるだろうなと感じさせられるクルマですね。(ほとんどのネオクラシックカーに言えることですけども笑)
そう思うと同時に、高度な技術で作りこまれたミドシップカーですし、あと30年後ぐらいにまだ残っていて、ある程度自分のウデが上がっていたら一度は乗ってみたいな~なんて思わせてくれる、男心くすぐられるクルマだと個人的には思いましたね!
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