小型で軽量、小さなピュアスポーツカーとして名高い、スズキのカプチーノ。コンパクトなサイズで軽量、尚且つオープンカーという楽しい要素全部乗せのようなこのクルマだが、意外と見かけることは少ないと筆者個人は感じている。そんなカプチーノは発売当初、どういった評価を受けていたのか。当時の記事を20歳学生アルバイターがリバイバルしてみた。
この記事はベストカー1991年12月号(著者は国沢光宏氏)を転載し、再編集したものです。
■本格2シーターオープンカー!?
まずスタイルだが、改めて眺め回すとスタイリングは”2年前のまんま″といっていい。生産の都合でフェンダーごと開くボンネットが普通の自動車みたいになったことと、インテリアが地味になったことくらい。
できるだけショーモデルに近づけたかったというエンジニアの意地を感じる。ボディシルエットは後輪駆動車らしく長めボンネツトを持つオープン2シーターで、玄人好みのデザインとなる。
これはミドシップのためボンネットが短めになったビートとは対照的で古典的スポーツカーの味。ビートが女の子や若いユーザー受けするのに対し、カプチーノは大人受けしそうなのが特徴。
「じゃおまえはビートとどっちが好きなんだ?」と聞かれたら、答えに窮するくらいどっちもいい。ボクはビートを持っているのだが、さんざん迷った末、情けないことにカプチーノもオーダーしてしまったのだった!
ああ、2台もオープン2シーターを買ってど―しましょ(実はいま持ってるNSXとフェアレディSR311も2シーターだから計4台になる)。あまりの情けなさに話はズレた。
カプチーノの長いボンネットは万一の事故で有効なクラッシャブルゾーンとなり、安全性も確保できるうえ、ドライバーシートに座った時にある程度の質感も感じさせてくれるというメリットもある(ボンネットが長いと大きなクルマに感じるのだ)
ちょっと嬉しかったのは、リアに付いているトランクが飾りじゃなかったこと。ビートのトランクはあまりに小さく、トノカバーと非常停止表示板を入れると満タン。
ここまでくると怒る気にもならず、単純に笑える(個人的には人に見せるとウケるので気に入っている)。カプチーノも充分というのにはほど違いものがあるが、とりあえずものを入れようという気にはさせるサイズであった。
注目のルーフ部分は以前も紹介したように幌ではなく、脱着式。
しかも驚いたことにルーフ形状は(写真を見てほしい)、完璧なクーペボディ、Tバールーフ、タルガトップ、フルオープンと4種類に変化(外したルーフはトランクにしまうことが可能。この場合トランクスペースはビートとタメ)
実際に脱着してみたが、幌よりは手間が必要。でも完璧なクローズドボディのよさと、オープンの快適性を両立できるのだからありがたい。
おもしろかったのはガラスでできた(リアデフォッカー付き)リアウィンドウ部分の収納で、スイッチひとつでカチリとボディ内部に沈む。想像していた以上に各部の精度は高く、キチンと仕上がっている。
またルーフ部分はアルミでできており、本気で軽量化に取り組んだことがわかる(ちなみにボンネットもアルミ)。
その結果、カタログ重量はターボエンジンを搭載しているにもかかわらずビートより70kgも軽い700kgにおさまった(これは鉄ホイール仕様。実際にはアルミホイールが標準で付くため、690kg程度だそうだ)。
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■実用性もアリ! いいクルマじゃないのカプチーノ!
さーて!いよいよ注目の走りだ。この点に関してはビートよりはるかに期待できる。やっぱりエンジンがまるで違う。ビートもカタログ上では64馬力ながら、レッドゾーン直前まで回さないとこの馬力は出ない。
カプチーノはターボエンジンということもあって4000回転で最大トルクが出てしまうのだ。ちょっと乗った感じではスタートでクラッチミートした瞬間からビートの倍くらいのパンチを持つ。
さらにギアレシオにもゆとりがある。ビートは5速、80km/hで4000回転も回るが、カプチーノは3000回転少々。開発スタッフの話では高速クルージング時は圧倒的に静かで、燃費も良好という。
ビートが近所の足だとすれば、カプチーノは小さな乗用車の実用性能を持っているといっていい。凝ったのはサスペンション。
アルトやセルボのサスを流用せず、カプチーノのためだけに開発したダブルウィッシュボーンを採用している。
たっぷり試乗してみないとハッキリしたことはいえないが、スズキはどうやら本気で小さなスポーツカーを作ろうと考えたのかもしれない。とりあえず大きく違うのは直進性。
ビートはストラットサスということもあって、路面の凹凸を走るとタイヤのアライメント変化が強烈に大きい。
結果、直進中でもタイヤが勝手に4WSしてしまい、まっすぐ走らないのである(高速道路を走ったことのあるビートのユーザーなら思い当たるでしょ?)
カプチーノのダブルウィッシュボーンはアライメントが小さく、1500ccクラスと同等のスタビリティがありそう。なんだか思いきり攻めるのが楽しみになってきた。
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■楽しめ!! ライトな味わい!! ワインディングロード編
ライバルのビートとともにワインディングロード筑波サーキット、谷田部、を走らせてみた。
思いきり高いサイドシルをまたいでバケットシートに座り、短いシフトストロークを持つギアを1速にほうり込んでクラッチをミートした、と思ってほしい。するとこれが元気なのである。
走りだした瞬間から「軽自動車じゃないみたいなフィール」といっていいかもしれない。ライバルであるビートは低速トルクが小さいためか、走りだすとき「軽自動車ね」と感じる。
ところがカプチーノはしっかリトルクが出ており、グイッと前に出ていこうとするのだ。これはターボとノンターボではトルク特性がまるで違うため。
ビートもカタログ上では64馬力ながら、3000回転でクラッチミートしたときのパワーは20馬力程度しかない。対してカプチーノはターボエンジンということもあって、同じ回転数で35馬力を発生。
こいつは1500ccくらいの排気量を持つクルマと同等のパワーウェイトレシオといってよかろう。そのせいか、軽自動車が共通して持っている「安っぽさ」や「頼りなさ」がまったくないのがすごい。
絶対的なパワーも「けっこうスポーティね!」と思えるくらいあって、80km/h以下のワインディングロードならユーノスロードスターよリキビキビ走る感じ。
ビートとは比べものにならないくらい速い(筑波と谷田部でハッキリした)
日本の狭い道路にはジャストフィットのサイズ&パワーではなかろうか。足回りも想像以上によく煮詰められている。
スズキはハンドリングのいいFRを作った実績がないため、正直いって「どうせたいしたことはないだろう」とナメていた。ところがどっこいで、こいつが楽しい、楽しい、楽しい、なのだ!
なにしろカプチーノはよく曲がる。デキの悪いFRだと、コーナーに入るときにアンダーステア(特にフロントがストラットのクルマはロールアンダーステア)が出る。
そしてアクセルを開けると急激なオーバーステアになるが、カプチーノはとても素直。理由は簡単。
カプチーノはコスト高を覚悟でWウイッシュボーンというサスペンション形式にしているのだが、その効果がしっかり表われ、急激なアンダーステアやオーバーステアが出にくい性格に仕上がっている。
個人的な好みからいえば、低速のコーナーでも少しアンダーが弱いほうがいいけど、ノーマルでも充分楽しめるだろう。軽自動車には珍しく、テールが流れた後の修正も楽チン。これでオプションのLSDを装着すればホントに楽しいと思う。
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■ロードスターより速い!? 谷田部編
次のステージは谷田部。ここではカプチーノの動力性能をしっかりチェックしてみたい!注目のポイントは同じ64馬力を発生するビートと走りのライバルと目されるユーノスロードスターとの実力差だ。
じゃ、まずはビートからテストしてみよう。こいつのスタートテクニックはちょいと難しい。なんたって回転が少し下がるとがっくリトルクが落ちるから、いかに高回転をキープしつつクラッチミートをするかが決め手になる。
具体的には8000回転をキープし、ぜーったいに7000回転以下にならないようにクラッチミートするのがコツ。後は各ギアをレッドゾーンまで回し、アクセルを戻さずクラッチを切ってシフトアップ。
すると、気温が低めなこともあってか17秒99をマークしてしまつた!こりゃ速い!ユーノスロードスターは今回持ってこなかったが、何度も計測していて、最速は16秒37だった。
で、いよいよカプチーノである。このエンジンは8500回転からレッドゾーンになるものの、最高出力は6500回転でマーク。7000回転をすぎるとかえってパワーがドロップしてしまう。
そこでクラッチミートは7500回転とし(クラッチミートするとちょうど6500回転くらいに落ちる)、シフトは計測1回目がレッドゾーンより手前の7500回転。2回目は8000回転で行なうことにした。
じゃ、テストだ!1速にシフト。7500回転をキープしつつクラッチミート!するとビートとは比べものにならない勢いで加速を開始する。
1速はすぐに7500回転に飛び込み、ビート同様アクセルを戻さず、2速にシフトアップ!
このトライでタイムは16秒25をマーク。2回目のトライは予定どおり8000回転で行なうが、やっぱりパワーが頭打ちになるのがハッキリ体感でき、スタートがうまくいったのに16秒26と落ちてしまった。
でもこの動力性能は完全に1500~1600ccクラスと同等。ロードスターよりも速いなんてこれはすごい。
残念なことに速度リミッターがついたままなので、180km/hをオーバーするとウワサされていた最高速度は計測不可能だった。でも実力からすると、80km/hオーバーは充分可能だという手ごたえがあった。
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■速さを証明!! 筑波サーキット編
最後のステージは「曲がる・止まる・走るの」バランスがわかるサーキットテストだ。ここでどのくらいのタイムをだすかで、クルマの実力が判明するといってよろしい。ビートからコースイン。
何回かビートでここを攻めたことはあるが、ベストは1分22秒43。遅い。しかし楽しいという点に関しては文句なし!
高回転までガンガン回るエンジンとコキコキ決まるシフトは超スポーティ。ハンドリングもアンダーステアながらクィックな挙動で、やっばリミドシップの血を感じる。
ビートの弱点は①コーナーにオーバースピードで入るとアンダーステアが出ること、②フロントブレーキがロックしやすいこと、③そして急にテールが流れることの3点。
要はコーナーの入口でキチッとスピードコントロールすればいいのだ。
今回も楽しみながらラップし、1分21秒30。谷田部のテスト同様、冬を迎え気温が下がってきたため、いいタイムが出たようだ(ノンターボエンジンは気温が高いと軽く5%はパワーダウンする)
ドライバーのウォーミングアップも終わったところで、本命のカプチーノ。するとこいつはコースインした瞬間から速さを感じさせるではないか!ビー卜では時間がかかった直線部分も、ビッと速いのだ。
フルブレーキもペダル踏力の加減がしやすく、ロックポイントがつかみやすいのが嬉しい。さらにワインディングロードでも感じていたことなのだが、コーナーでのコントロール性がいいうえ、スビードそのものも速いように感じる。
意外だったのは最終コーナーでの車体姿勢。峠道のタイトコ一ナーではアンダーを強く感じたカプチーノだが、筑波の最終コーナーでは(軽自動車にとっては高速コーナーだ)完壁な4輪ドリフトの体勢になる。
つまり、前後の車重配分を50対50にしたメリットがしっかり出ているのだ。これには感心してしまった。
おそらくオプションのストラットタワーバーや、リアのLSDを入れれば1分16秒をきることができるだろうが、今回のタイムは1分16秒61であった。次回はぜひLSD入りでアタックしてみたい。
以上、3つのステージでカプチーノをフルチェックしてみたが、実力はビートというよりユ―ノスロードスターに近い。
「ユーノスロ―ドスターが欲しいけれど、保険や税金の負担が大きい」と思っているユーザーにも充分すすめられる完成度とパフォーマンスを持っている。でもビートもすてがたい。
あれだけわり切ったコンセプトで、今後こんなクルマは出てこないかもしれない。キミはどちらのクルマを選びますか……。
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