ホンダの誇るレーシングテクノロジーを完璧に盛り込んだ究極の市販スポーツ、シビック。「市民の」という意味を持つこのクルマはその名の通り大衆に好まれ、時には「環状族」などと呼ばれる、ザ・昭和カルチャーな集団にまでも好まれた。今回はその中でも6代目、通称「ミラクルシビック」の当時の記事をリバイバルしていく。
この記事はベストカー1997年10月号(著者は伏木悦郎氏)を転載し、再編集したものです。
■これがタイプRだ!!
クルマ好きにとって、この1.6LクラスのスーパーGTはきわめて興味が湧くジャンルだろう。エントリーカーとして身近であり、この日本で走りを楽しむには丁度手頃なクラスである。
それゆえ、各メーカーともここ数年で高性能モデルを続々デビューさせてきた。レビン/トレノのBZ-R、ミラージュサイボーグ、シビックではSiRがそれだ。
どれもがリッター100馬力を軽くオーバーし、8000回転をクリアする超高性能ぶりがポイントになっている。
しかしどうだ。新しいシビック・タイプRはこれら1.6LスポーツGTよりも一歩も二歩もさらに踏み込んだスポーツテイストを持っているのだ。走りのパフォーマンスしかりだ。
いきなり結論を言ってしまえば、レーシングカーにより近い走りの性能とテイストを持ち、かつ日常でも使用できる究極のスポーツモデルである。
シビック・タイプRといえば先輩のインテグラ・タイプRが頭に浮かぶ。
こちらは1.8Lでショートホイールベースのクーペとロングホイールベースのセダンが設定されており、公道を走れる最速FF車(駆動方式を問わずと言ってもいい)として、これ以上の存在はないと、絶賛してきた。
シビック・タイプRもまさにこのインテRと同様のスポーツテイストを持つのだ。
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■エンジン性能を把握し、扱いきって見せろ!!
走りの中心となるのはなんといってもエンジンだが、こいつがとにかく素晴しい。
おなじみの1.6L、VTECユニットはSiRでもクラス一番の実力とフィールを持っていると評価されているが、タイプRはさらに別格と言えるほどの高性能ぶり。
185ps/8200rpm、16.3kgm/7500rpmはリッター当たり116馬力!チューニングはインテR同様、すみからすみまで徹底的だ。走らせてこのエンジンに感激しないヤツはいないはずだ。
弾けるようなシャープなレスポンス、ドラマチックなパワーの盛り上がり、トップエンドの伸び、そしてサウンド。すべてが刺激あふれるフィールなのだ。
このエンジンのハイライトはやはりカムが高速側に切り替ってから。約5700回転で切り替わるが、一段とカン高さを増すエンジンサウンドでその様子が運転していてもはっきりわかる。
タコメーターの針も加速するかのようなピッチで急上昇。レブリミットの8400回転まで、あっけなく吹け上がる。これはもう気分最高だ。
VTECゾーンヘの切り替わりは演出きみの感もあるが、これが刺激度を高めているのは確か。パワーバンドは5700回転から8400回転。5速マニュアルを駆使すればキッチリとこの回転域をキープできる。
迷いはいらない。思い切り回してパワーバンドをキープする。そうすればカン高いサウンドを途切れさせずにワインディングロードを突き進むことができるのだ。
これしきの走りで悲鳴をあげるほど、タイプRのエンジンは柔なチューニングではない。
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■エンジンだけじゃない!! 実は最強のコーナリングマシン
シャシーチューンも究極のコーナリングマシンと言っていいほどハイレベルな仕上がりだ。その内容はやはリインテR同様、細部までバッチリ手が入ったもの。
もちろん、ボディの剛性アップはぬかりないし、15mmの車高ダウンで安定感を増している。また、フロントブレーキは15インチヘグレードアップ。
そして、ここまで気を配ったかとおおいに感心したのは、ヒール&トゥがよりやりやすいように、ブレーキペダルの配置さえも変えたことだ。乗り心地は確かに硬い。低速ではハンドルも重い。音もうるさい。長距離走行はイヤになるかもしれない。
しかし、一度ワインディングへ踏み込めば、そんなことは忘れてしまう。頭抜けたコーナリング性能とトレース能力、素晴しい高速安定性。
そしてズシッとした重さで路面のインフォメーションをダイレクトに伝えてくれるステアリングフィール。ブレーキもダイレク卜感に富み、制動パフォーマンスも強力だ。
とにかく、シビツク・タイプRの走りは並のストリートチューンのレベルではない。公道走行を可能としたレーシングシビックといった感じだ。さらに魅力的なのは価格がきわめて安いこと。
本格的チューニングがこれだけ満載されていれば300万円以上でもけっして高くないと思う。ヨーロッパ車だったら、400万円でもできないかもしれない。
それがフル装備(とはいっても電動ドアミラー、マニュアルエアコン、パワーウインドウは17.7万円のセットオプション)で199.8万円で手に入るのだ。
のちに発売された、パルサーVZ-Rの200馬カN1仕様の252.3万円と比べるとその安さがより実感できるのだった。
さて、そのパルサーVZ-Rとの走りの違いだが、ひとことで言ってシビック・タイプRのほうがより刺激的な味わいを持っている。エンジンのパワーの盛り上がり方もそうだし、ハードに固められたサスペンションもそう。
さらには内外装のスペシャルな雰囲気も圧倒的にシビックRのほうが上だ。もちろん、パルサーも実力的には200馬力のスペックにふさわしいモノを持っているのだが、スポーツ度の演出という点でやや不足を感じさせる。
洗練されすぎていると言えるのかもしれない。両車の個性を端的に表現すれば、剛のシビック・タイプR、柔のパルサーVZ-Rということになる。
また、兄貴分のインテRとの比較となると、刺激性ではさらにインテRが上をいく。排気量が大きいだけによりパワフルで、トップエンドの伸びもシビックRと変らない。
加えてインテRの3ドアの車重はシビックRに対してたったのプラス10kg。動力性能はインテRとなる。ただし、シャシー性能はシビックRが優れている。
特に中・高速のスタビリティで優位性が目立つ。ハンドリングの良さでもシビックRだ。インテRはシビックRよりジャジャ馬なのだ。
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■決着をつけよう。勝負の行方は谷田部で!!
対決の舞台はおなじみの谷田部。ここなら思う存分に限界まで攻め込むことができる。テスト当日はあいにくの雨。ウエット路面がバトルに水を差すのでは!?とも思ったが、それは杞憂だった。
まずは動力性能チェックだ。タイムアタックに自然と熱が入るのが自分でもよくわかる。ウエット路面のグリップを確認しつつ、ベストのスタートポイントを慎重に探り出す。
両車数回のアタックでそれぞれのベストタイムをマークした。ここで勝ったのはパルサーVZ-Rと、いってもその差はほんのわずかのもの。
今回はより細かいデータを計測するために、車載式の計測装置(小野ビット)を使用したのだが、こいつが弾き出したゼロヨンタイムはパルサーVZ-Rが15秒15、そしてシビックタイプRが15秒25。
わずか10分の1秒の差でしかない。今回のテスト路面はウエット。タイヤは両車ともにブリヂストンの195/55R16サイズを装着する。
しかしシビックRの方がよリドライ、ウエットともに高性能なハイグリップタイプなのだ(RE010)。これに対してパルサーはコントロール性を重視したタイプのタイヤとなる。
条件的にはパルサーの方が不利ということだ。その差はスタートダッシュでハッキリとあらわれた。パルサーはシビック以上に激しいホイールスピンに悩まされたのだ。
当然ダッシュの勢いもシビックに劣ることになる。ここでパルサーがシビックと同じタイヤを装着していたら、さらにコンマ2〜3秒はタイムアップしていたのは間違いない。
タイヤの影響というのは予想以上に大きいのだ。ドライ路面での勝負を予想すると、パルサーは14秒5〜6、シビックは14秒7~8といったところだろう。
やはりパルサー優勢は変わらないものの、いずれもとてつもない速さだということは間違いない。
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■続いての舞台は、ジムカーナ!! そして総評!!
さて、次はジムカーナ勝負である。このクラスのFFスポーツが現実的に勝負する舞台はワインディンということになるだろう。
厳密に言えばジムカーナと実際のワインディングは舞台が異なるが、ジムカーナで発揮するポテンシャルは、ワインディングでのポテンシャルに直結する。
また、今回は特にそういったことを念頭に置いたコース設定とした。ここでの勝負は文句なしにシビックの圧勝だった。
1分を切るショートコースでシビックがマークしたタイムはパルサーの46秒47を1秒以上引き離す45秒33。この差は非常に大きい。この結果はテスト前から充分予測ができた。
シビックRはレーシングカーにより近いストリートスポーツとして完成したクルマなのだ。エンジンだけでなく、ボディ、シャシーのすみずみまでパフォーマンスアップのための手が入っている。
一方のパルサーVZ-RはN1仕様とはいえ、エンジン以外は175馬カエンジンを積むモデルと同じチューンでしかない。通常の街乗りでも充分快適性を損なわない範囲の、ライトなスポーツチューンとなっているのだ。
あくまでもべースモデルとしての位置付けなのである。しかも今回のテスト車両はパワステがレスオプションとなっていて、これが走りに少なからず悪影響を与えることとなってしまったのも見過ごすことは出来ない。
パワステ無しは流石にステアリングが重い。サーキットならばこれでもいいかもしれないが、素早く、しかも大きな舵角が必要となるジムカーナではあまりにもツラい。
そのため狙ったラインをキッチリトレースできない場画があった。パワステだけでコンマ1〜2秒はタイムが変わってくるのだ。さらにシビックにおくれをとった大きな原因はコーナリングでのグリップ不足。
パルサーのシャシーポテンシャルは極めて高く、バランスのいいハンドリングを見せるが、シビックRのレベルまではコーナリングスピードを上げられないのだ。その原因はタイヤだ。
ならばシビックRと同じタイヤを装着すればいいのかというと、そういうものでもない。今度はタイヤのレベルに応じたサスチューンが必要となってくるのだ。
またタイトターン立ちあがりでのトラクション不足も問題となるポイント。タイヤのグリップレベルの差に加えて、LSDの性能も大きな差となっている。
パルサーのビスカスタイプは、ヘリカルタイプを採用するシビックに対してどうしてもトラクション面で不利なのだ。
こうしたあらゆる点を総合して、シビックのコーナリング性能はパルサーをはるかにしのぐものとなっている。ここでもアスティRSを走らせてみたが、タイムは45秒82とパルサーを上回るものとなった。
アスティRSもモータースポーツのベース車両だが、サスチューンは本格的スポーツ走行を前提としたものとなっている。タイヤもウェット性能に優れたハイグリップタイプだ。
これらがエンジンパワーのハンディを克服して、好タイムをマークした理由である。
パルサーVZ-R対シビックタイプRの対決は、動力性能でパルサー、ハンドリングでシビックという結果となった。しかしN1仕様のVZ-Rはわずか200台限定生産。誰もが買えるわけではない……
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